第68話 ギャング食堂
「ここです。『ギャング食堂』」
「何とも物騒な店名ですね…大丈夫なんですか…」
「店名だけですよ。さ、行きましょう!」
ガヤガヤ!
中は大盛況、カウンター席やテーブル席はほとんど埋まっている状態だった。
だが…丁度団体客用のスペースだけ空いている。
「ここに座りましょう。ここに座ると、結構お金かかるんですけど。今日はもうパー!っとやりましょう! パーッと! 一度やってみたかったんです。ここで盛大に食べたり飲んだりするの」
「そうなんですか…、それじゃあ。皆も座ろうか」
大きなテーブルに15個ほどの椅子が並び、丁度いい広さだった。
「いらっしゃいませ、今日は団体様メニューでよかったですか? おひとり様金貨1枚からとなりますが…」
「はい、お願いいします。5人は飲み放題を追加でお願いします~!」
「分かりました。では、エールをお持ちしますね」
店員さんは注文を聞くと、店の裏へ向かって行った。
「主~、肉来るかな~?」
「さぁ、どうだろうね。エナ、肉以外が来ても、ちゃんと食べないとダメだよ」
「は~い」
――それにしても…冒険者さん達が多いなここ…、結構な人の数だし。お酒で酔ったら危なそうだ。出来るだけ控えた方がよさそうだな。僕がお酒に強いか、弱いかなんてまだ分からないし。
「お待たせしました~。5人前のエールです」
テーブルの上に置かれたのは木で作られたジョッキへなみなみと注がれたエールだった。エールとは黄金色に輝く液体で、ぱちぱちと音を立てながら、真っ白な泡を発生させている飲み物だ。
「それじゃあ。カンパーイ!」×4
「か…かんぱーい…」
僕以外の4名は一気にエールの中身を飲み干していく。
僕はジョッキを手に取り、エールを一口飲む。
――へぇ…こう言う味なんだ…。なんか甘くないジンジャエールみたいだな…。僕は結構好きかも。
ごくごくと、喉に流し込んでいく。炭酸の刺激が癖になりそうだ。
「どうですか? コルトさん。初のエールは」
「はい、凄く美味しいです。苦いのに炭酸って中々ない飲み物ですよね。ですから新鮮な気分です」
「へ~、ハンスさん。初めてなのにスゴですね。私なんて初めては苦すぎて飲めなかったんですよ~」
ロミアさんは既に、ジョッキに入ったエールを半分ほど飲み干していた。
「でも、あんまり飲み過ぎると、気持ち悪くなっちゃいますから。自分のペースで飲んだ方がいいですよ。あと、フォーリアに流されて飲んだら地獄ですから。気を付けてくださいね」
「は、はぁ…分かりました」
フォーリアさんはもう2杯目にいっている…。相当お酒が好きなのだろう。
「お待たせしました。『ギャング食堂』特製野菜サラダをお持ちしました!」
「ありがとうございます。えっと…14枚の取り皿を貰って良いですか?」
「はい、すぐお持ちしますね」
店員さんは余りに大きなお皿に盛りつけられた野菜サラダを持ってきた。お皿の大きさは1メートルくらいあるんじゃなかろうか…。
「あ…主…、草…いっぱい…」
「そうだね。野菜サラダだから。エナも食べるんだよ」
「え…エナ…食べない、草は食べ物じゃないから…」
「ダメだよ、エナ。野菜はちゃんと食べないと偏った食生活は体によくないからね」
「で…でも主、これ草…草は食べられない…」
店員さんが取り皿を持って来てくれたので、14人へ一枚ずつ渡していく。
「よし…それじゃあ僕がエナに取り分けてあげるよ」
「あ…主…少しで…」
僕は取り皿に野菜サラダを盛りつけ、エナへ渡す。
彩りを考え、レタス、キュウリ、コーン、ニンジン、を綺麗に盛り付けた。
「緑、黄、赤、の草…」
僕はテーブルに置かれていた、4種類のドレッシングをエナの前に持ってくる。
「主~これは…何…?」
「野菜を美味しく食べるための味が付いた液体だよ。好きな味を見つけて野菜サラダに掛けて食べるんだ。エナなら匂いで好きな味かどうかわかるんじゃないかな?」
「やってみる~。スンスン…スンスンスン…」
エナはドレッシングのキャップを開け、鼻を近づけながら臭いを嗅ぐ…。
「主~! エナ、これにする~!」
エナが決めたドレッシングは胡麻ドレッシングだった。僕も胡麻ドレッシングが一番好きだ…最悪エナが食べられなければ僕がサラダを食べれば良い。
「それじゃあ…、そのドレッシングを掛け過ぎないように…って!」
「はりゃ~! っと!」
エナは…胡麻ドレッシングをドボドボと…取り皿に取り分けたサラダへ掛けていく。
「あちゃ~…、これは掛け過ぎだよ…エナ…」
胡麻ドレッシングが取り皿の淵まで注がれてしまった…、サラダの姿はほとんど見えない…。
「はぁ…これじゃあ食べられないな…。ドレッシングを分けないと…とりあえず僕のサラダに掛けて…」
「あ、コルトさん。掛け過ぎちゃったなら、私のサラダにも掛けてください」
「そうですか、分かりました…。えっとロミアさんありがとうございます」
「いえいえ、胡麻ドレッシングは私も好きですから」
僕とロミアさんのラサダに胡麻ドレッシングを掛け、ようやく盛りつけたサラダが姿を現した。
サラダは胡麻ドレッシングにコーティングされ、てかてかと輝いている…。
「さすがにこのままだと濃すぎるから…。もう少し…サラダを足して…混ぜる…」
先ほどよりも多いサラダがエナの取り皿に盛りつけられ、山もりになってしまった…。
「はい、エナ…。しっかり残さず食べるんだよ」
「は…はい…主…」
エナにフォークを持たせ、僕はエナの小さな手を持ちながら一口食べさせる。
「どう一人で食べられそう?」
「草…思ったより…美味しい…。これなら食べられる」
「それなら良かった。食べきれないと思ったら、僕の取り皿に入れてね。食べるから」
「分かった…」
「さてと…ミル達のも取り分けてあげるね」
僕はミル達の分を取り分け回していくと、大量にあったサラダが綺麗さっぱり無くなった。
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