大和の結婚式

会場につき僕は、スーツに着替えに行く。


僕の身体中には、まだ美代が残っていた。


初めて、お正月を一緒に迎えた日に僕と美代は、一つになった。


犯人が、憎い


「ほら、一季君。そんな顔しない」


工藤さんに言われて、僕は鏡の中の怖い顔の僕を見てゾッとした。


「いっちゃん、行くよ」


父に声をかけられた。


「はい」


僕は、結婚式会場に向かった。


カツン…カツン…カツン


えっ?


振り返ったけれど、誰もいなかった。


大和の結婚式は、無事に終わった。


「もう、駄目だわ」


お母さんもお父さんも、ボロボロに泣いていた。


工藤さんも、泣いていた。


僕は、結婚式が終わり日下部に会うために、ロッカーにいれた服を取りに行く。


カツン…カツン…カツン


僕は、その音に振り返った。


「すみません。そこ、私のロッカーです。」


「あっ、すみません」


ニューハーフなんだと思う。


とても、綺麗な人だった。


茶色のストレートの髪の毛に、長い睫、茶色の瞳に、プックリと膨らんだ唇…。


「何か?」


「い、いえ。何も?」


その人は、ニコッと僕に微笑んだ。


「よかったら、今度お茶でもいかがですか?」


逆ナンパをされた。


「あっ、えっと」


「私の名前は、篠田椿しのだつばきです。あなたは?」


「僕は、沢村一季さわむらいちきです。」  


「一季さん、またお会いしましょう。連絡待ってます。」


「あっ、えっと」


僕が、答える前に彼女は去って行った。


カツン…カツン…カツンと、ヒールを鳴らしながら…。


「お兄さん、日下部です。」


「あっ、すみません」


ボッーとしていた僕に、日下部君が話しかけた。


「近くの喫茶店に行きますか?」


「あっ、待って。工藤さん」


「どうした?」


「実は、事件の話をしたくて」


「あぁ、うちに来なさい」


「ありがとうございます」


工藤さんは、そう言って笑った。


僕は、日下部君と工藤さんの居酒屋にやってきた。


「仕込みをするから、そっちで話なさい」 


そう言って、座敷に座らしてくれた。


奥さんが、珈琲を持ってきてくれた。


「初めまして、日下部与一くさかべよいちです。」


「初めまして、沢村一季さわむらいちきです。」


そう言うと、日下部くんはノートを出してくる。


「これは?」


「俺は、あの日から姉ちゃんを殺した犯人の事を調べています。これが、姉ちゃんです。」


そう言って、僕に写真を見せてきた。


天草栞里あまくさしおり、当時、二十歳でした。それで、これです。沢見友基さわみゆうき当時10歳。一本桜の事件の被害者で、姉の幼馴染みでした。」


「えっ?それって」


「この事件は、ただ模倣したものではないって事です。」


その言葉に、工藤さんがやってきた。


「自分で、調べたのか?」


「はい」


「警察では、容疑者死亡で闇に葬られたからな。そこまで、詳しく調べなかった。で、日下部君はどこまで調べた?」


「俺は、この事が引っ掛かって色々調べました。」


工藤さんは、刑事の顔になっていた。


「最後の事件の被害者、山中美代さんの事件は、実際は沢村一季さん。お兄さんが、被害にあっていたのだと思います。」


「俺がですか?」


「はい、模倣犯とするならば。やはり、ミスを作らなければいけない。プリンスが残した言葉です。ミスだった。だから、多分あの日犯人は、お兄さんを殺すつもりだった。でも、お兄さんはいなくて出来なかった。」


「だったら、次の日でもよかったんじゃないのか?」


日下部君は、首を横にふった。


「それは、出来ません。」


「どうしてだ?」


「犯人は、プリンスを崇拝していたんです。だから、あの日付と時間は守らなければならなかったんですよ。」


「日付と時間か…」


工藤さんは、顎に手を置いている。


日下部君は、鞄から紙を取り出した。


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