中世
長万部 三郎太
魔女よ!
昔々、森の奥に霊薬作りに秀でた魔女がいたという。
近所に住む村人だけでなく、貴族連中でさえも注目する謎の存在。
ある日、恋に悩むひとりの騎士は、魔女の噂を聞き森へと分け入った。
凶暴な鴉や野犬の群れを斬り抜け、魔女が棲むとされる洞穴に辿り着いた男。
彼は敵意がないことを示すため、剣を地面に置いてこう叫んだ。
「森の魔女よ! どうかわたしの願いを聞いてほしい!」
にわかに立ち込める霧とともに現れた人影。
気配に気づいた騎士はその場に跪き、こう告白した。
「わたしは領地内にいる村娘と恋仲になりました。
しかし、互いに異なる身分。わたしの父は許してくれません」
頑なに婚姻に反対する親の心を変えたい。
その一心で騎士は危険な森へとやって来たわけだ。
「魔女の倣いである。……其方の事を、試させて頂く」
おぼろげな人影は騎士が置いた剣を拾い上げると、男めがけて振りかざした。しかし所詮は女の腕前。魔女はあっさりと騎士に組み伏せられると、その正体を暴かれた。
魔女は騎士が愛した女性であった。
騎士は女を村へと連れ帰り、その足で教会へと向かった。
「騎士の倣いである。……其方の事を、試させて頂く」
彼は魔女裁判の手続きを始めた。
(すこし・ふしぎシリーズ『中世』 おわり)
中世 長万部 三郎太 @Myslee_Noface
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