第11話「帆船団の丞相どの」
銀色吹雪く髪、船大将・
すらりとしなやかな体に戦う筋肉をかちりと固め、白色の肌に深青に半身南蛮船の絵柄鮮やかな小袖と深灰色伊賀袴
丈長白の陣羽織ひらめかせ、腕を水平線へ指し貫く所作もするどく
「カレブリナ砲お!」
重低音の号令声が海上にはじけ
「
細身のジャンクの右舷、船首から船尾までの横列三砲
炎吹き一斉に解き放たれて落雷の砲音こだました海
由利が松枝から腰をあげ叫んだのはその瞬間だ
「ああ!」
艦砲射撃の反動にあおられた、キャラベル船が甲板を由利に見せた
「うっひゃあっ!」
反動が陸にもきた、砲弾に粉砕された海がうねって浜へどわんと波打つ
由利が松枝を攫んで前のめりに海の有り様を見てぶわっと吹き出し
「うわあッはっはあー! こいつぁ豪儀な大砲だあ」
バンバン膝を打って
「凄えぞ一撃だア、 たった三発で帆船を沈めやがったあ!」
浜で様子を見守っていた船大将達
僧衣の船大将・黒麟が軍パイ代わりの
「あーあーあー、
武家衣装の船大将・鵜萱が、海上のキャラック船・鵜萱へ軍パイ代わりの鉄弓で「救出にむかえ」の指揮ざま吠える
「撃沈されるのが砲弾射出した船自身では、
海賊衆が浜から小舟押出しとびのり海上駆けつける
沖では銀髪の船大将・洛陽が斜めに沈む船腹に立ち、退避の勧告を飛ばし、甲板からわあわあと海賊達は海に逃れ。
その頃になってやっと水平線のキワにおちた砲弾が
クジラ舞い上がるような波柱を三つ吹き上げ
海面着弾後の海水が、ざあっと雨になって注ぐ爆音の中
呟きがひとつ、由利の足下で聞こえた。
男でも女でもない中音階、感情の匂わない冷えた声
「
射出の衝撃で船がひっくり返されるか
細身のキャラベル船で扱うには、工夫がいるな」
由利の足元、松枝の下に
望月六郎だ。
望月は、頭上の松枝の由利を見上げ
「
「
無視して戦う
先行隊に
関白
大坂では
松枝の上から由利は、陽射しのような笑顔に声で望月へ
「待ったなぁー
四ヶ月だ」
さくっと砂上に飛び降り、望月の真ん前に立ってでかい背丈の腰かがめ由利
「ちょくちょく浜まできてたくせに
ンで声かけてくれねぇんだろ
な、元気?」
「貴殿に用事はないからな」
「ん。じゃ、用事はなんでしょ」
目線合わせて新緑色の双眸は明るく、透き通って笑む。
望月は目の前の由利に上げた目線を真っ直ぐすえつけ
「若い者が、
どんな才能か見に来たら、
「真田の若が、おいらを
由利は砲撃直後にひっくり返ったキャラベル船・洛陽を救出に向かう船乗りたちと、海の飛沫のきらめきに目をやり
望月は抑揚ない声
「皆が仲間にしたいそうだ」
「あんたはどうなんだ、 おいらを仲間と見てくれンのか、
いきなり由利は望月の華奢な腰両を手に掴み、晴天の空へと抱き上げ
「あんたッて好かれてんだなあー、海賊衆がさぁ
怖っかねぇ、冷徹で容赦ねぇ、ぜんっぜん笑わねぇ、でもよ望月
あんたは船団の絶対
丞相さまって、また」
でっかい笑顔
「はくのつくあだ名だなあ、
望月の頭上に海うつすような青空、舞い上がった長い黒髪がはらはら落ちて
満面の笑顔あげる由利の、赤毛に滑って屈強な肩にこぼれるのを見下ろし
由利の両肩に細い両手指をついた望月が
「なぜ貴殿がわたくしのことで、嬉しそうにする」
由利は新緑色の瞳に赤いまつ毛に瞬かせキラキラ
「えッへえ? なーんでわッかんねんだろ
それとも言わせてェの?」
可愛い笑い浮かべた瞬間
ぐわん!!
由利は横っ面ぶん殴られ、真横にぶっ飛んで砂浜に肩から突っ込み、勢い止まらずごろんごろんと横転しながら砂にめりこむ、ところへ
落雷のような声が怒鳴り降る
「
砂上、屈強な男の影が望月の華奢な影を飲み込み
望月が由利ぶん殴った大きな影の名をよんでいる
「
洛陽は無事か」
砂に突っ込んでいる由利が顔をぶはっと上げたところに、鵜萱の無骨な返答
「砲を射出した直後に、船ごと海に叩きこまれましたが
船ともに洛陽、傷はすくのうござる、ただ、この」
肩から背にでかい
もがく由利の頭を足下になおも踏みつけ砂にめりこませながら
右顔面を焙烙で目玉ごともぎ取られた爆裂痕華やかな顔に、ぎりぎり犬歯噛み低く唸る
「ヤリたい盛りの小僧めを浜に野放しにしておいた、この鵜萱の
由利が砂上に赤毛ふって咳き込むところを
墨染め僧衣の船大将が甲高い大声で望月にアピール
「さあて、我らが丞相に触れた罰じゃあ、赤毛のごんたくれめ
「うっわっわーあっ!」
もがく由利の体が、ぶわあんと海に向かって錫杖軸に円描き、一本釣りの竿ふり要領で海にむかって放り投げられている。
ぼっかあん!ごぼごぼごぼごぼ
海面着弾の勢いで沈む由利を、前後左右から引っ掴んで海面へ引き上げてやるのは、転覆したキャラベル船・洛陽から海に振り落とされた水夫たち。
それぞれが似たような事を由利に問う
「由利よう、
どうじゃった丞相さまは、女かよ男か」
「ンなひと触りで男女分かる場所を、ひっつかめるもんか
でも腰がこーんなに細っせ」
海水の塩泡まみれになりながらザッバアと海面に腕あげ由利が両手にしめすと、
男たちの馬鹿なはしゃぎ、その頭上に
銀髪の船大将・洛陽の砲弾転がすよな重低音、号令声が弾ける
「皆あ
えいやあ!えい、声―――-あわせよお!」
リズムつけ、力あわせるタイミングを打ち鳴らす船太鼓
流線型の甲板を海面に垂直に立ててしまった黄色舳先のキャラベル船。
スマルと呼ばれる海賊の長銛が左舷を突き上げ
鉤のついた綱がぐんぐん右舷を引っ張り、海賊総動員で船は起こされ始めている。
えいさあ!えーいさあ!えいさあ!
海賊達の掛け声反射する海のまっただなか
号令と船太鼓、号笛に掛け声と波濤、ひびき重なる喧騒の海
海賊達と力をあわせ元気な声あげる由利の赤い髪がゆらぐ。
華やかな海祭りの様相になった夏陽射しきらつく海の、船起こしをながめつつ
ひょろ長背丈の僧侶・
神官衣装に白雪の肌した望月はつぶやく
「
真田の赤毛の置き土産に、骨抜きか」
冷えた声で指示
「やつを真田に送り返せ、すぐにだ」
言いすてざま望月は海に背をむける。
「
即答の
「いやあしかし丞相どの、赤毛がおらんとみな
反論する
「追いはらえ」
念をおして歩きさる望月の、神官衣装細い後ろ姿を見送り
横合いの鵜萱に目をむけた黒麟、うっきうきのつぶやき
「うふふうん、
相手が目についてイラつくは、恋のきっかけと
なあ?
くふくふ喉で笑っている黒麟を
ぎりっと睨みつけて
「
答えて黒麟の悲鳴
「かたっくるしいーー、つまんないだろうがーあ
儂らも息もつまろうにぃー」
望月は
神官装束の純白と鮮水色、白砂にまぶしくひらめかせ、氷雪の無表情で
さくさくと、緑萌え立つ熊野の森へ帰ってゆく。
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