第16話 星辰器の秘められた力
刀を構え直し、戦闘を続行する。
アリシアは双円両刃の片方を投擲して飛行させながら片方を構えて走る。
「せやああっ!」
気合が入った声を上げて突き出された刃を刀で受け止める。鍔迫り合いをする暇もなく、空中の双円両刃が肩口を抉ろうと迫る。
アリシアの膂力を刀身で受け流し、絡め取るように地面の方向に向けて刀を落とす。片腕が急激に方向転換させられたアリシアは体勢を崩し、よろめいた。横薙ぎで空中の双円両刃を弾き、追撃を行おうと刀を振り上げたが――。
「ふっ……!」
短く息を吐いたシャルンがガントレットを突き出してくる。
いつの間にかアリシアの背後に回っていた彼女は、接近戦もやれると主張するように拳や蹴りを放った。シロウは冷静にシャルンの動きを見極め対処する。
「鋭く速い打撃だ。かなりの研鑽を積んでいるな」
「誰かを守る術ばかり学んでいては、一人の時に困ると思いまして」
「なるほど、単身でも相手を格闘術で迎撃できる防御魔法使いか」
一番に得意なのは、やはり防御魔法なのだろう。
シャルンは接近戦を繰り広げている今この瞬間にも刀の向かう先にシールドを展開させている。
シールドは大小様々な形に展開できるらしく、刺突が肩に向かえば小盾で弾き返し、上半身を引き裂かんとする袈裟斬りには自身の前面を大盾で覆って防ぐ。
魔法に疎いシロウでさえ唸らせるほどの卓越した魔力操作。
それでいて格闘術も念入りに鍛えられているので隙がない。
シャルン・アイゼンベルクという令嬢もまた、アリシアに匹敵する戦闘者であった。
シロウがシャルンと打ち合っている間にも、二人の姉妹が動いている。アリシアはシロウを狙って双円両刃を空中に飛ばして操るが、ユリリカが射撃で撃ち落としてくれていた。
「もう、お姉様! 邪魔しないでくださいな!」
「邪魔されたくないなら、私を先に倒してみれば? それとも優秀な姉に負けるのが怖いのかしら?」
「ぐぬぬ、上等ですわ!」
アリシアがユリリカに突っ込んでいく姿を視界の端で捉えたシロウは、僅かに口元を緩ませた。
「彼女も、まだまだ甘いな」
「アリシアさん! そんな見え見えの挑発に乗らないでください!」
シャルンが言葉でアリシアを止めようとするが、すでに二人の姉妹は打ち合っていた。相変わらずアリシアの動きは洗練されているが、ユリリカも負けてはおらず、二丁拳銃を巧みに操り接近戦を維持し続ける。
アリシアを引き付けてくれたユリリカに心のなかで礼を言う。
これで心置きなくシャルンを相手にできる。
「……なんだ?」
手に持つ刀が淡い光を帯びたことにシロウは気づいた。
薄い蒼色のオーラが刀身を覆い、まるで魔力を帯びた魔導剣のような姿に変貌する。同時に身体から力が湧き上がってくる感覚まで生じていた。
そして、不思議なことに……後方で戦っているユリリカの動きを見てもいないのに把握できてしまう。
足取り、視線の先、二丁拳銃を構える動作――彼女の一挙一動が肌に伝わる。もちろん目で追っていないので、実際に彼女の動く姿が見えているわけではない。それでも感覚で彼女の動きが何となく分かってしまうのだ。
「これが星辰器の特性か」
シロウはニーナが言っていたことを思い出し、腑に落ちる。
己は星辰器の特性を引き出した。恐らくユリリカも同じで、こちらの動きが伝わっているだろう。
感覚共有、とでも言うべきだろうか。
たとえ背中合わせでもパートナーの動きを感じ、共に戦っているという強い実感を得られる。
それを可能にするのは――。
「絆か……?」
確証は得られていない。
だが、後でニーナに聞いてみればいいだけだ。今はシャルンと本気で向き合うことが先である。
「なんだか分からないですけど、どうやら本気でいかなければダメみたいですね」
シャルンはガントレットを嵌めた右手を突き出し、左手を腰辺りに引いた構えを取る。本気を出すらしい令嬢を前に、シロウは躊躇なく踏み込む。
「霧雨一刀流・雨ノ太刀――横時雨」
横薙ぎの一閃を放つが、シールドに防がれる。
やはり刀では魔力で創造されたシールドを破れない。
以前、クーデリアが短剣に魔力を付与していた姿が脳裏によぎる。
あの時、クーデリアは魔力が帯びた短剣で邪教徒の放った魔法弾を斬り裂いていた。あれは魔法弾の魔力を短剣に込めた魔力で相殺させていたのではないか。
「ユリリカ、俺を撃て!」
「――分かったわ!」
呼びかけに応じたユリリカが魔力の弾丸を放つ。
銃声が聴こえた刹那、シロウは振り向きざまに魔法弾を刀で受け止めた。
蒼色のオーラが纏った刀身へ、新たに黄金色の魔力が混ざり合う。
「霧雨一刀流・雨ノ太刀――」
危険を感じ取ったのか自身を覆うシールドを展開させたシャルン。彼女を見据えたシロウはユリリカの魔力が付与された刀を上段に掲げた。
「
一息に刀を振り落とす。
最大限に膂力を込めた一振りは、一刀のもとに相手の全てを絶ち切る必殺の刃。たとえ得物で受け止めようとも、その得物ごと両断する最大威力の一閃が、シャルンの防御壁を微塵に破壊した。
「あっ……」
「勝負あったな」
衝撃で倒れ込んだシャルンの顎先に刀の切っ先を突きつける。
「むう……負けてしまいました」
さほど悔しくもなさそうなシャルンは、降参の証として両手を上げるのであった。
「くうう、悔しいですわっ!」
「ふふ、無様ね」
エーデル姉妹の対決も勝敗が決まったようだ。
シロウが振り向くと、床に尻餅をついたアリシアがユリリカに見下され銃を突きつけられていた。
「どうしてですの!? いつもなら、わたくしが接近戦でお姉様に負けるはずないのに!」
「さあ? 星辰器の秘められた力のおかげなんじゃない?」
「ぐぬぬ……何故お姉様とシロウさんだけが秘められた力を扱えましたの!?」
アリシアの疑問はもっともだ。シロウも、その理由をはっきりと知りたかった。
「どういうことか説明してくれるか、ニーナ」
納刀したシロウが問いかけると、ニーナは頷いて説明を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます