第15話 シロウ&ユリリカVSアリシア&シャルン

 訓練用のルームに移動した一同。

 ニーナはルームに到着するや否や、設置された機器を弄り始めた。


「模擬戦といっても、誰と誰が戦えばいいんだろう……」

「ジェシカがやってみたらー?」

「ええっ、私が!? 無理だよ!」

「なんで?」

「だって私、弱いし……」


 ソーニャに模擬戦を勧められ慌てるジェシカ。

 戦闘に自信がないのか、戦鎚を抱きしめて嫌々と首を振る。


「ジェシカさんが出ないのなら、わたくしが出るとしましょう!」

「やる気ね、アリシア」


 気合十分なアリシアは、すでに星辰器を握りしめている。

 機器を弄り終えたニーナがやってきて、一同に言った。


「お前たちはバディを組んでいるのだろう? ならば2対2で戦ってくれ」

「そうしなければならない理由があるのか?」

「星辰器の特性上、パートナーの存在は不可欠だからだ。まあ、戦っていれば分かるだろう」


 どうやら星辰器には未だ説明されていない特性があるらしい。

 シロウは少し考え、ユリリカに提案してみる。


「一緒にどうだ、ユリリカ?」

「私たちでアリシアに挑むってこと?」

「そうだな……どうせならシャルンにも参加願いたいが」


 シャルンに目を向けると、彼女はガントレットの調子を確かめながら頷いた。


「私はユリリカさんやアリシアさんが良いのなら構いません」

「もちろん、良いに決まっているでしょう。わたくしたちの天才パワーでシロウさんとお姉様をぎゃふんと言わせて差し上げましょう!」

「なんだか負けるフラグが立ったような気もしますが、まあ頑張ります」


 あちらのバディはやる気が高まっているようだ。

 ユリリカの様子を見れば、二丁拳銃を抜き放っていた。意外にも好戦的な目つきで妹と幼馴染を睨みつける。


「無性にあいつらをブチのめしたくなったわ。シロウ、やるわよ」


 こうしてバディ同士で戦うことが決まった。

 ニーナの指示に従い、ルームの中央に立つ四人。

 指でカタカタと機器のキーを叩いたニーナが模擬戦の説明を行う。


「どちらかが戦闘不能になるか、ギブアップ宣言を行えば模擬戦は終わりだ。ちなみにお前たちの身体の表面には星辰力で構築された防護膜を張ってある。星辰器が直撃した瞬間に展開され、衝撃以外のダメージを緩和させる。なので、思う存分やり合ってくれ」


 防護膜のおかげで怪我をする心配はないとニーナは言う。

 それは全力を出しても構わないという意味でもあるのだろう。


 シロウはユリリカと隣合わせで立ちながら抜刀する。

 

「私が後衛で援護するわ。あんたは思いっきり暴れなさい」

「善処しよう」


 アリシアとシャルンも武器を構えている。

 そして、ニーナが模擬戦の開始を告げた。

 

「それでは始めてくれ」


 静かな声が開戦のゴングとなった瞬間、シロウは弾かれたように床を蹴った。


 真正面からアリシアとシャルンに突っ込み、二人をまとめて巻き込まんとする大振りの袈裟斬りを放つ。

 

「ふふっ、シロウさんも随分とやる気みたいですわね」

「速くて強い剣ですが、甘いです」


 しかし、シロウの放った一撃は半透明のシールドで弾かれた。


「これは……防御魔法か」


 シロウの呟きにシャルンが頷く。

 ガントレットを装着した右手を突き出して魔法の盾を生み出したシャルン。彼女が展開する防御魔法は堅牢で、あらゆる物理攻撃を弾くようだ。


「いきますわよ、シロウさん!」


 双円両刃を両手に持ったアリシアが突っ込んでくる。

 繰り出された斬撃を刀で弾く。片方の双円両刃が宙に舞い、大げさに体勢を崩すアリシア。


 シロウは追撃をしようと横薙ぎの型を取る。

 

「ふふっ」

「――ッ!」


 アリシアが漏らした小さな笑い声、そして僅かな空気の振動を感じ取ったシロウは、刀を背後に振り抜いて空中の双円両刃を弾き落とした。


「魔力で操作しているのか」

「当たりですわ! まだまだいきますわよ!」


 アリシアは縦横無尽にフィールドを駆け回る。

 時には正面から斬りかかり、時には双円両刃を投擲して側面や後方から襲いかからせる。


 息もつかせぬ連撃だ。ユリリカが銃撃で援護してくれるものの、アリシアは弾丸の軌道を予測しているかのように軽やかな足取りで回避する。


「ちょこまかと鬱陶しいわね!」

「お姉様の撃ちそうなところなんてお見通しですわ!」


 シロウの斬撃とユリリカの銃撃を躱し続けるアリシアは、確かな実力者だった。ステップを踏むかの如く飛び跳ねる姿は、まるでワルツの踊り手だ。


「ここは社交場じゃないのよ――大人しくしなさい」


 凛とした声が聴こえ、背後で複数の銃撃音が響き渡る。

 上空に発射された大量の弾丸が放物線を描き、雨霰のようにアリシアへと殺到した。


「ちょっと! やりすぎでしょう!」


 慌てて跳ね回り弾丸を回避するアリシア。

 パートナーが生み出してくれた隙をシロウは決して見逃さない。アリシアが着地する瞬間を狙って刈り取るような一閃を放った。


 刀はアリシアの脇腹に直撃――する前にシールドで阻まれた。


「今のは危なかったですね。やっぱりシロウさんとユリリカさんは強いです」

「助かりましたわ、シャルンさん!」


 間一髪でパートナーを防御したシャルンはガントレットによるブローを放ってくる。シロウは刀の切っ先でガントレットを弾き返し、背後に飛び退いた。


「……中々の練度だ」


 決して油断はしていなかったが、これほどまでに苦戦を強いられるとは。生半可ではない二人の戦闘者を相手にシロウの心は昂ぶっていく。


「まだまだこれからだ。そうだろう、ユリリカ」

「ええ、当たり前でしょ!」


 背後で威勢の良い声が聴こえ、シロウは思わず微笑んだ。

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