第10話 横柄な貴族
午後の授業にて、特別クラスの生徒たちは合同訓練に励んでいた。
今回は貴族クラスと共に授業を受けており、平民のジェシカは居心地が悪そうだ。
同じく平民のソーニャは大して気にもせず、お気に入りの射撃訓練に夢中である。
「あれが特別クラスの者たちか。世にも希少な才能を宿しているようだが」
「三大貴族のユリリカ様とアリシア様やシャルン様はともかく、他の平民たちにも才能があるのか?」
シロウは貴族クラスの者たちの視線をよそに模造刀を振り続ける。刀を抜いたら、後はひたすら刀と向き合うのみである。
少し離れた位置ではエーデル姉妹が簡単なトレーニングを行っているようだが、シロウの意識は刀のみに集中していた。
「おい貴様、シロウ・ムラクモだな?」
「……ふっ、はっ!」
「僕の言葉が聞こえないのか?」
声をかけられたことに気づき、納刀する。
振り向けば、眼鏡をかけた金髪の男子生徒が立っていた。なにやら剣呑な目つきでこちらを睨んでいる。神経質そうなツリ目で放たれる視線に射抜かれながら、シロウは問いかける。
「お前は?」
「僕はルシード・ヴァンセット。二年前の降魔戦争において獅子奮迅の活躍を遂げたクロード・ヴァンセットの弟と言えば通りが良いか」
「ふむ……すまないが、クロードという者を知らないんだ」
「兄上の名を一度も聞いたことがないのか? まったく、これだから無知な田舎者というのは……」
どうやらクロードとやらは名の知れた戦士らしい。
降魔戦争はリンカから教えられている。まだシロウたちが西洋の地を踏む前に起きた人と悪魔の戦争だ。
西の古都周辺で大量の悪魔が出現して人を襲い始め、古都を中心とした各地の村で数多くの死者を出した。王国が派遣した騎士の部隊により悪魔は制圧されたとリンカに聞かされていたが、クロードの名は知らなかった。
「ルシード……そういえば、あんたも入学していたのよね」
「あらルシードさん、お久しぶりですわね」
エーデル姉妹はルシードを知っているようで、気安く声をかける。ルシードはというと若干の緊張を露わにして背筋を伸ばした。
「ユリリカ様、アリシア様、お久しぶりです」
「一年前の会合以来ですわね。クロード卿はお元気ですか?」
「ええ、それはもう。相変わらずの戦闘バカでいらっしゃいますよ」
エーデル姉妹に挨拶をしたルシードはシロウを睨み、眼鏡を光らせる。
「この者と同じクラスになったようですが、なぜ学院側は平民などと貴女方を同クラスにしたのか……他のクラスは貴族と平民で分かれているというのに」
「私が知ったことじゃないわ。学院側に聞きなさい」
ユリリカの冷やかな目線が突き刺さり、ルシードは狼狽える。
すぐに咳払いをして眼鏡を指で押し上げ、ルシードはユリリカに提言した。
「このような平民と共にいてはユリリカ様とアリシア様の品位が落とされてしまいます。貴族クラスへの転属を考えみては?」
「そうね……」
形の良い顎に指を添えて黙考するユリリカ。
アリシアが慌てて口を挟む。
「ちょっと、お姉様! なにを真剣に考えてますの? まさか特別クラスから貴族クラスに転属するなんて言うんじゃありませんわよね!?」
「あんたは黙ってなさい。ルシード、こうしましょう」
ユリリカはシロウを横目で見て、にやりと笑う。
「この男に模擬戦で勝ったら、私たちは貴族クラスに転属するわ」
「ああもう、何故わたくしまで巻き添えに!」
ユリリカの提案にルシードは力強く頷いた。
「良いでしょう。僕の剣技にてムラクモを打ち倒してやります!」
「俺に拒否権はないのだろうか……?」
勝手に模擬戦を決められ、シロウは嘆息する。
アリシアがなんとか姉を押し留めることを期待したが、反抗しても無駄だと思っているのか、彼女もまた呆れたように肩を落として黙ったままだ。
「まさか逃げるというのか? どうやら、その刀は飾りのようだな」
「無闇に刀を抜きたくはない。学院の生徒が相手なら尚更だ」
シロウの言葉に納得しないのか、ユリリカが不機嫌そうに舌打ちした。
「いいからルシードと決闘しなさい。霧雨一刀流の真髄とやらを横暴な貴族の坊っちゃんに叩きつけるのよ」
「何故そんなに焚きつけるのか分からんな……まあ、決闘というのならば良いか」
指を添えて鞘に触れる。刀の冷たい感触が自身に伝播する。
目を閉じて息を吸ったシロウは、ルシードに向けて言い放った。
「ルシード・ヴァンセット、お前との決闘を受けよう」
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