紫陽花

黒咲蒼

第1話

 朝起きると、冷蔵庫には昨日の晩御飯が入っていた。ご丁寧にメモ書きもしっかり添えておいてあった。


 昨晩もきっとあの人は何処かで食べてきたのだろう。


 あの人が起きるまでに、洗濯を回して朝ごはんを作らなきゃ…


 そう、考えつつ晩御飯を冷蔵庫に残し私は洗濯機の方へ歩いて行った。




 あの人と出会ったのは、私が居酒屋でバイトをしていた時だ。


 かなりお酒の入ったあの人は店の前でグッタリと座り込んでいた。

 そんな人を放っておける訳もなく、近くのコンビニでお水を買い、若かりし頃のあの人、彼に渡した。同い年に見えたその人はどうやら私より2つ上だとわかるのは、もう少し仲良くなってからだった。


 お水のお礼にと、しばらく経った日彼から申し出があった。私は別に嫌ではなかったので、ご一緒した。


 それから徐々に彼とよく会うようになった。


 時にはご飯を食べに行ったり、時にはお洋服を買いに行ったり、時には水族館に行ったり、そんな感じに回数を重ねていくうちにお互いのことを知ることになった。


 彼は新卒で企業に入り、ようやく2年の時が経ち仕事が安定してきたらしい。ちなみに、私は卒業して、居酒屋で働いてる状態だ。


 彼のことを知っていくうちに私は彼に惹かれていった。


 そして、私と彼が遊園地に行った時だ。

 閉園間近の遊園地で私たちは観覧車に乗った。

 そこで、彼は私に指輪を渡し、私たちは『夫婦』になった。











 チン!










 電子レンジの音で明るい夜の夜景から、暗いリビングに帰ってきた。


 時計はもう昼過ぎで、机の上には青と白、枯れてしまったピンクの紫陽花が花瓶に挿してあり、その隣には買い物袋が置いてあった。


 私は買い物の後、昨晩の晩御飯を電子レンジで温めて、食べるつもりだったらしい…


 ブッブブ


 携帯が鳴った。


 差出人は、あの人だった。


 要件は、「今夜も帰るのが遅くなります」とのことだった。


 私は、電子レンジの中から昨日の晩御飯を出し、上に被せてあったラップをピンク色の紙などの入ってるゴミ箱に投げ入れた。


 晩御飯を持って、向かいに誰も居ないテーブルにつき、温めた晩御飯を一口、口にした私の口から自然に言葉がこぼれた、


「まだ、冷たいや…流石に出来立てみたいな温かさにはならないか……」

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紫陽花 黒咲蒼 @Krosaki_sou

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