第18話 琥珀の妻



「おーつかれー!!」



 足をひとつ取り戻し……国綱くつなさんが、『けーさつ』と言うところにあの黒い存在を預けたあと。


 私達は、お家ではなく琥珀こはくさんのところへとお邪魔することになりました。


 何やらたくさんのお料理を準備されていたのか、お部屋の中は湯気でいっぱいです。



「……ありがと。と言っても、翠羽みはねは口を取り戻せたわけじゃないから食べられないが」


「気分も大事! 俺以外にも食うし!」


『……以外?』


「そ。翠羽にも紹介したいんだ! むーちゃん、おいで!!」



 琥珀さんが後ろに振り返ると……その視線の先には、『何か』がいました。


 小さくて……丸っこいような。少しずつこちらに来ると、姿が見えてきました。


 薄緑で、小さくて……まあるい。



『……はじめ、まして?』



 近づいて来られたその存在は……本当に丸いです。


 薄緑で、少し透けてて……目らしき点がある以外、手足もありませんでした。



「俺の奥さん。むーちゃんって言うんだ!」


『……はじめ、まして』



 琥珀さんの紹介の後に……耳ではない箇所から、声が響いて聴こえました。


 しかしながら……とても、可愛らしい女の子の声です。



『……翠羽、です』


「……久しぶりだな、むー」


『……国綱、久しぶり』



 琥珀さんの……『奥さん』だからか、国綱さんもご存知のようです。



「じゃんじゃん用意したから、食べた食べた!! 翠羽はしょうがねぇけど……マジで足戻ったんだな?」


『……お陰様で』



 透明な身体に、一部だけはっきりと存在するのは……まだ慣れません。


 他の部分が戻れば、違うかもしれませんが。



『……綺麗な、足』



 むーちゃんさんは、私の前に来られますと……丸い身体から細長く、『手』のようなものを伸ばしてきました。


 とても、可愛らしいです!


 触れていただくと、『冷たい』と感じ取れました!



『……ありがとうございます』


『大事……大事。わたしで、手伝えることは手伝う』


「むーも協力してもらえるのなら、ありがたい」


蘇芳すおうの目だけじゃ、介入しにくい箇所も……あると見た』


「……だろうね」



 むーちゃんさんも、凄い方なのでしょうか?


 琥珀さんも、占いが出来る方なので……同じでしょうか? 違う方でしょうか?


 どちらにしても……凄いです!


 ご飯は、お昼と言うこともあり……琥珀さんもですけど、国綱さんもたくさん召し上がられました。


 一番は、なんでもたくさん召し上がられたむーちゃんさんでしたが。



『皆さん凄いです……』



 まだ足しか戻っていないので……食事が出来る皆さんが、少し羨ましいです。


 匂いもわからないので、美味しいとはわかりませんが……国綱さんが美味しそうに召し上がる姿が、『いいなあ』と思ってしまったのです。



「だいじょぶだいじょぶ! 順に身体戻れば、翠羽も食えるって!」



 昨日の国綱さんのように、琥珀さんにも言っていただけたので……私はしょんぼりしましたが、頷きました。

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