見通すのは蘇芳の瞳〜その出会いは必然か偶然か?〜

櫛田こころ

第1話 存在する者

 生きとし生ける者。


 存在するものは、等しく存在する。


 私は、それを日々実感するのでした。



『……今日もいい天気ですね』



 早朝だが……お庭に出ると、もう外は明るかったのです。


 淡い陽光に照らされ、お庭の緑や花々が輝いているようにも見えました。


 その美しさを手で触れようにも……私の手は、花をすり抜けてしまいます。


 私は……存在しているが、生きていない者だからなんです。



「おや、おはよう。翠羽みはね



 お家の方から声をかけられました。


 振り返れば、廊下の方で男性がひとり立っていました。


 綺麗な黒髪に、赤紫のような濃い瞳が特徴の……顔立ちも美しい男性。



『……おはようございます、国綱くつなさん』



 私が居候させていただいている、お家の家主さんです。



「庭を眺めて?」


『……はい。『幽霊』に睡眠は必要ないので』



 足で近づくのではなく、軽く浮くだけで……彼の隣にすぐ立てた。国綱さんはとても背丈が高く……見上げると綺麗な瞳を優しく細め、私を見下ろしてくれました。



「そうか。けど……幽霊でもきちんと休んだ方がいい。気休めでしかないかもしれないが」


『……ありがとうございます』



 このお家に厄介になって、まだほんの数日ですが。


 国綱さんはとてもお優しい。


 私が……何故、幽霊になったのか。


 理由もわからないのに……連れてきてくださったのだから。名前も……この人がつけてくださいました。


 女だとわかる以外……私は自分の記憶を失っていたのです。



「さて、僕が朝食を食べたら……今日も探しに行こう。君の『身体』を」


『……はい』



 幽霊だから、死んでいるはずなのに……と言うわけではないらしく。


 私に『足』がちゃんとあることから……どうも、国綱さんが言うには『身体』がきちんと存在しているようなんです。彼の仕事関係で、そう言った知識は豊富だそうです。


 私は食事がとれないので、お庭を眺めながら時間を潰していると……少しして、身支度を整えてきた国綱さんがやってきました。洋服だが、動きやすそうな……私を見つけると、おいでと手招きしてきましたよ。



「さあ、今日はまだらちょうに行こう」


『……お願いします』



 急がず、慌てず。


 お家から、一歩……外に出れば。




 ウニャウニャウニャ




 ドゥルルル




 ぽーぴーぽーぴー




 国綱さんのように、『人間』もいなくはないですが。


 姿形が人間から凄くかけ離れている者。


 獣と混じった者。


 耳が尖っている者。


 私のように、幽霊ではないが……飛んでいる者。


 多種多様な……存在が多くいる道に出ました。


 まだ少し慣れないが……記憶のない私には、異質に思えます。


 あらゆる存在が共存している、この現実世界が。

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