私に『らしさ』を求めるのは間違っている

浦沢 御子

第1話 しがない私の日常。

私は、しがないOLだ。オフィスレディ…何て限られた表現なのだろう。しがない…訳でもないが、そう言っておいた方が生きやすい。

 私は、括りが嫌いだ。ひとつに纏められるのが大嫌いなのだ。でも、人は集団で纏められる。その方が、世間的には簡単でいいのだろう。別に、不満は無い。嫌いなだけだ。お昼も一人で食べたい。邪魔して欲しくない。

『私、やっと中心地に引っ越したの』

『なんで?』

『え?その方が色々都合がいいじゃない?飲んだ後とかも。』

『面倒じゃない…煩いし。家賃高いし。』

『真由みたいに、男っ気も何も無いなら、いいんじゃない?』

『はいはい。』

本当に女って面倒臭い。周りからの目ばかり気にして。どんなに飾っても、ダメな奴はダメだ。

『男連れ込むにはちょうどいいかもね。』

『ひどぉーい!』

いや、事実じゃね??それしか考えてないだろ、お前。いつも淡い色の服を着て、ひぃらひらさせて、お尻フリフリしてるのに、何を否定するのか?因みに、香水が死ぬ程臭い。もはや悪臭。私にとっては公害レベル。きっと、日々襲われる頭痛はこいつの香水のせいだ。とは言っても、私でも彼氏がいた期間はある。ただ、そういった人間は、私の感性が特殊だと言う所に着いて来れずに離れていくのだ。『去るもの追わず』が私の信条でもあるから、快く送り出す。それも、気に入らないと言われたが…知ったことでは無い。合わせるのは大嫌いだ。

『田中さぁん、これ頼めるかなぁ?』

『え?嫌ですけど。』

『そう言わないで…田中さんなら、残業やらずに終わるから。』

『高いですよ。』

『分かったやぉ。だから、頼む!』

『ん。』

〝こっちによこせ〟と手を差し出す。両手に、それなりの重みのある書類が乗る。頼んで来たのは、一応私の上司だ。でも、半ば私の方が上司だと思っている。私は、誰よりも仕事が早い。何故かって?無駄話とかしないから。コミュ障では無いが、コミュニケーションを取るのがとてつもなく面倒なのだ。だから、本当は家でひたすらリモートワークしていたい。出勤するのって…無駄じゃないか?


 一日の仕事を終え、郊外に借りた家賃6万の家に帰る。ここは、私の城だ。通勤時間なんて、全く気にならない。広さは、1LDKだ。ここ、部屋が和室なのである。それ故に、周りより安く住める。和室でも八畳もあるから広い。私は、この畳にゴロンと転がっているのが好きだ。無になる。思考なんてぶっ飛んで、気付けば寝てる。周りに、若いのも住んでないからアパート自体が静かだ。最高だ!これを、最高と言わずなんと言うのか!家に着いて早々に電話が入った。母からだ。どうせお見合いだろ…。

心の声がダダ漏れの私。これも癖だ。

『もしもし?結婚する気になった?』

『どちら様ですか?いたずら電話なら切りまぁす。さようならぁ。』

『親だわよ!母親よ!相変わらずねぇ。孫の顔そろそろ見たいんだけど。』

『孫の手があるから、それで満足しててくれ。新しいの買って送るよ。』

『要らないわよ。孫の手は足りてるわよ。何本あると思ってるのよ、全く。』

『てっきり、孫の手の催促かと…。』

『孫の手十本以上あっても私の手がは二本しかないのよ。要らないわよ。』

『なら、ロボットの手でも…』

『そこじゃないのよ。もぉ、話にならないわねぇ。』

『話する気は、サラサラ無いんですが?』

『取り敢えず、彼氏とか作りなさい。でないと、また、お見合い写真送り付けるわよ。』

『親なのに、〝取り敢えずの男〟を作れと?』

『いや、言い方…。まぁ、いい人見つけないと送り付けるからね!じゃあね!』

『はぁい。もう電話しなくていいよぉ。』

『するわよ。またね。元気でね!』

『ん。』

 親とは、仲が悪い訳では無い。そして、漫才をしている訳でもない。ただ、言える事はあんな感じの親が育てると、こんな子が育つと言うだけだ。極めて平和で安定的な関係を保っている。

『結婚…なんて無理。何が楽しくて、他人の為に時間を割いて、家事とかしなきゃならないの?自分の時間が持てないとか、考えただけで召されるわ。あぁ、無理。本当に無理。そもそも、結婚なて制度が悪いのよ。消えてしまえ!』

はい、心の声ダダ漏れぇ。結婚なんて、考えただけで鳥肌が立つ。相手の姓に替えるとか意味不明。必要ないだろ、そんなもん。

『あー、お見合い写真とか要らねぇ。もぉ、何冊目だよ…。孫の手また送ろうかなぁ。』

 これは、私の声だ。心の声ではない。本心だ。いや、さっきの心の声も本心だ。間違いない。

『男が居れば良いのか?いや、それも無理ぃ。同じ空間に居るのすら苦痛ぅ。向いてねぇ。』

そう、私は恋愛できないのだ。と、言うより興味が無い。はっきり言う。自分以外に興味が無い。そんな人間が、他人を思いやり、一緒に過ごす。手を繋いで、あれしてこれして…。こんなに面倒な事あるか?時間の無駄。感情の無駄。会う為におしゃれとか…無駄すぎる…。そんなお金あるならゲーム買うわ。でも、男居ないとまた大量のお見合い写真送り付けられるんだろうなぁ。どうせなら、レトルトカレーとか、餅とか、食べる物にして欲しいんだよなぁ、送り付けるの。


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