第43話 Result of slashing

「それじゃあ、行ってくるわ。もし、アタシが闘っている途中でも「蛇悪竜種アジ・ダハーカ」の気配が現れたら光の輪っかででもいいから教えてね。そっちの方が優先でしょ?」


「光の輪っか……うむ。そうしよう」


「最後に1つだけ。街は余り壊さないようにするけど、壊れても文句は言わないでよね?」


 少女はアフラに紡ぐと返答を待たずに空を駆けていった。その目に不安は無く、決意や好奇心といった感情に支配されている様子だった。



「慈悲深いのだな。拙者の国では既になくなったと言ったのだがな」




 少女は静寂の中、土色の街に降り立っていた。日の出から時間が余り経っていないからだろう。

 バイザーの反応もそうだが、肉眼で見ても街の中に出歩いている者はいなかった。それ故に少女は土色の街の中心にはしる、道の最奥にある「ピラミッド」風の建物に向かって歩いていく。

 「ざっざっ」と言う土を踏み締める音が静寂の街に響く。だが、その音を聞き付け出てくる者はやはりいないようだ。

 故に少女の事を見咎める者は誰もおらず、何事も起きないまま少女は「ピラミッド」風の建物まで到着していた。



「何者だ?」


「貴方達の主神に用があるんだけど?」


「エ・ラーダ様はお休みになられている。早々に立ち去れ!!」


「ふぅん、エ・ラーダって言うのね?アタシはそのエ・ラーダに話しがあるのよ。とっても重要な話しなの。だから寝ていても関係ないから、起こしてでも連れて来てもらえるかしら?」


 「ピラミッド」風の建物の門番とおぼしき者が、初めて少女に声を掛けた者になった。しかし門番は完全に敵意と殺気を向けている様子だ。

 これでは交渉の余地などないが、そもそも挑発行動を取っている時点で交渉する気もない事が窺えるだろう。



「我等が主神を呼び捨てるとは、キサマ、何者だッ!」


「そう、それなら仕方ないわね。通してくれる気が無いなら倒して先に進むわ。恨まないでね」


かちゃっ


「ま、最初からそのつもりだったしねッ」


「単身で乗り込んでくるとは、れ者め!」


 少女は愛剣を握り戦闘態勢に入っていく。門番は手にしている槍を低く構えると大地を蹴り、少女に対して速攻を仕掛けていった。



しゅっしゅしゅしゅっ


「なんだ、コイツは!?まるで当たらない……だと?!」


 鋭い「突き」が門番より放たれていく。その突きとて紛う事のない、神族ガディアが放っている突きに変わりはない。

 だからこそ、その一突き一突きに明確な殺気が込められている。当たれば殺気の意味を知る事になるだろう。だが、少女はその悉くを体術で躱し、門番との距離を詰めていった。

 少女は魔術でバフを掛ける必要性を感じなくなっていたから、強化系の魔術は使っていない。偏に神族ガディアの魔石の効果と、アテナの加護ブレスに拠るモノが大きかった。

 流石に戦闘に対する「知恵」であるアテナの加護ブレスは、優秀過ぎると言えるだろう。


 こうして門番の攻撃は当たらないばかりか、2人の距離は徐々に詰められ、槍の優位性アドバンテージは失われたのだ。門番の顔が焦りによって歪み、苦悶の表情を浮かべた頃、少女から強烈な蹴りケンカキックが見舞われていった。

 直撃を受けた門番は門を突き破り「ピラミッド」風の建物の中に飛ばされていったのだった。



 門をその全身を使門番は気絶しており、少女はチラ見すらせずにその横を通り過ぎていく。バイザーに映る光点は少女の近くには無く、近寄ってくる者もいない様子だった。

 早朝だからだろうか?それとも襲撃される事を想定していないのだろうか?セキュリティは脆弱としか言えないかもしれない。

 拠って少女はそのまま悠々と奥まで歩を進める事が出来たのだった。



 「ピラミッド」風の建物の中には更に小さな「ピラミッド」風の建物があった。最初に見えていたピラミッドは中心部分にあるピラミッドを隠す為に造られた「壁」と言った感じだ。少女は中心の小さな「ピラミッド」に近寄っていくが、そんな少女に向けて近寄ってくる影があった事を、少女はバイザーを通して確認していた。

 どうやらセキュリティは脆弱ではなかったのかもしれない。



「こんな朝っぱらに侵略して来るとは、どこの勢力かとも思ったが……、やれやれヒト種の小娘が1匹だけだと?」


「いち……この姿は祖母様に聞いていたわね」


 少女の後ろから声を放ったのは虎の姿をした獣神族ビーガディアだ。それはレアから聞いていた通りの容姿であり、中でも注意すべきは戦闘能力センスだったか……。



「ですが、どうやらただのヒト種では無いように思えますね?慢心は禁物ですよ?ライガ!」


「に……次のも聞いた通りの姿だわ。長髪の細剣レイピア使い」


 獣神族ビーガディアのライガに話し掛けているのは少女の左からやって来た長髪の男だ。翠緑のハーフメイルを装着し手には細剣レイピアを携えている。そしてこの男もレアから聞いていた通りだった。



「我等の拠点に単身で乗り込んで来た事をその身を持って後悔してもらいましょ?」


「さん…レア祖母様から貰った情報にはなかったわね。片翼の龍神族ドラガディア……かしら?」


 少女の右側からやって来たのは、龍種の翼を背中の左側にのみ生やしている女性だ。その女性は露出度の高い装備で豊満な胸元ワガママバストを揺らしながら、手に持つモーニングスターを床にめり込ましていた。

 この相手はレアに貰った情報には無かったことから、警戒はするべきだろう。然しながら、少女としては物理防御力DEFを捨てたような露出度の高い装備が許せなかった。

 いや、本心はそこじゃないがツッコんではいけない。



 少女の取り囲むように三方向から現れたエル・シーナの神族ガディアは、その身に殺気を纏っていく。少女は大剣グレートソードを構え、身体をゆっくりと回転させると先ずは後ろのライガの方を見て、あとの2人も同時に視界に収めていった。

 流石に1対3ワンオンスリー死角を作る視界を切るのは不利でしかないからだ。



「はぁ。念の為、言っておくけど、アタシはエ・ラーダに会わせて貰いたいだけなのよ?大事な話しがあってここまで来たんだから……。だから、出来れば闘いたくはないから、お互いに矛を納める気は……無いかしら?」


「他人様の領地に土足で上がり込んでおきながら、何を言っていやがる!」


「やっぱりそうなるわよね……じゃあ、アタシの実力を見せてあげるッ!」


 少女は自分を囲んでいる三柱に言の葉を紡ぐが、それぞれの神族ガディアから放たれている殺気に変わりが無い事を感じ取っていた。そればかりか元々矛を納める気がない少女の安い挑発に因って、殺気は膨れ上がっていった。

まぁ、無理もないだろう。のだから。



「ハッ!きえぇぇいッ」


しゃしゃしゃしゃッ


 先制を取ったのは長髪の男だ。細剣レイピアから繰り出される鋭い突きランジは少女の正確に穿いていた。

 だが、少女は華麗な足捌きでステップを踏み、向かってくる「突きランジ」を自身の身体を回転させ、まるで舞踏をしているかの如くに躱していく。

やはりそれは前もって相手の行動予測をしてくれているアテナの加護ブレスあっての事だ。

 従前までの少女の闘い方なら野生の勘と、経験からくる直感と閃きの元にそれを行っていたが、今ではアテナの加護ブレスに拠って洗練されたステップダンスへと昇華されていた。



 少女は「たんッたたったたッ」と回避行動の回転エネルギーを自身の愛剣に乗せ、強烈なカウンターの横薙ぎを長髪の男へと繰り出すのだった。



「もらったわ!」


がきんッ


「ッ!?」


「させないよッ!」


 少女のカウンターは鈍い音を立てて止められていた。それは片翼かたよくの女性が自身のモーニングスターを投げて、少女の大剣グレートソードに絡めたからだ。

 少女の愛剣にはモーニングスターの鎖が巻き付き、勢いを殺された大剣グレートソードは長髪の男の手前数cmの所で動きを封じられていた。



「重ッ!一体、どんなバカ力よッ!その胸の脂肪の塊は筋肉だとでも言うのッ?」


「これは自慢のさね。アンタのようなお子ちゃまには羨望の的だろう?」


ぶちぶちッ


「い、いい度胸ね!、アンタとは気が合いそうにないわね!そのだらしないを根こそぎ斬り落としてあげるわッ!」


「何を闘いの最中にごちゃこちゃ喚いてやがるッ!があぁぁぁッ」


かちゃかちゃ


「くっ、この鎖を刃から滑らすのは無理……か」


 少女は自身の愛剣に巻き付いた超重量物モーニングスターに耐え兼ね声を上げていた。少女はその「重さ」が加わった事で行動が制限されており、そこにライガが強襲したのだ。

 少女は刃を降ろし鎖を滑らせようとするが巻き付いた鎖は滑り落ちず、強襲してくるライガに対して愛剣を使う事を諦めた少女は、両手剣である大剣グレートソードを右手のみに持ち替えていく。

 当然の事ながらそれを片手1本で支えるのは難しいから、床に手伝ってもらう。



「デバイスオン、ソードモード」


がきんッ


「まだ武器を持っていやがったか!」


 デバイスに生み出されたソードは既のところで強襲してきたライガの爪撃を受け止めていた。しかしこれで、少女の動きは完全に止められてしまったと言えるだろう。



「それなら次は躱せないでしょう!喰らいなさい、刺突流舞ダンスランジ!きぃええぇぇぇぇい」


「躱せなくても方法はあるわよッ。全方向オムニディレ展開クショナル豪傑剛槍クリスタル・ランス!!」


しゅしゅしゅしゅ


 少女は自分の全方位に向けて、「金」属性に該当する水晶の槍を展開し放った。


 ライガは目の前に現れた槍に対して爪撃に拠る追撃を止め、少女と距離を取って自分に向かってきた槍を撃ち落としていく。

 長髪の男は突きの相手を切り替え、少女の魔術を撃ち砕いていった。

 片翼の女性は向かってくる魔術に対してモーニングスターの拘束を解かず、その片翼を高々と広げると「旋風扇刃ウインドカッター」と高らかに吼え、旋風の刃は槍を迎撃していく。

 風属性と金属性は対消滅し、突風を巻き起こしていった。



「へぇ、ヒト種にしちゃ、なかなかやるじゃねぇか」


「上位属性の力を持っていたなんてね。あれが魔術なら三属性使えるってコトよね?厄介過ぎるわ……まぁ、獣神族ビーガディアに魔術特性があればの話しだけど」


「おいッ、てめぇ!無視してんじゃねぇ!」


 少女はライガの声は一切気にせず、状況を分析した上で拘束されている自身の愛剣からモーニングスターを引き剥がすには、どうすればいいかを必死に模索していた。



“素直に力を解放したらどうだ?”


「やっぱりそうなるのね……。まったく、仕方無いわね。じゃあ、少しだけ力を見せてあげようかしら?遊びはこれくらいにしてねッ」


「「「!?」」」


「今までのが」

 「遊び……だと?」 / 「遊びですって?」 / 「遊びだと?ナメてんのかぁ!」


 少女は呟いていた。まぁ、実際には加護ブレスと話していたのだが、それが聞こえないのであれば独り言呟きに違いはないだろう。そして、その独り言は三柱の神族ガディアの自尊心を大いに傷付けていた。

 だが傷付けられた自尊心はそのまま驚愕の様相に姿を変えていく。少女の周囲に2つの力が収束していくのを目撃したからだ。



「な、何なんだ、その力は?!」


「ヒト種でありながら、「魔」と「神」の力を有するだと?!」


 ライガは驚愕を声音に纏い、長髪の男は恐怖を重ねていた。まぁ、それは当然の反応と言えば当然の反応であり、そんな反応を示さなかったのは片翼の女性だけだった。



「まったくだらしが無い男共だねぇ?そんな力程度で何を恐れているんだい?」


「じゃ、先ずはアンタから……ね。全力で手加減してあげるけど、痛い思いくらいは覚悟して……ねッ」


だっ


 片翼の女性は少女の力に恐れを抱いてはいない様子だった。しかし少女からしたらそんな事はだ。

 要は、拘束がわずらわしいのと、あと先に仕留める事にしたというだけだった。


 少女は半神フィジクス半魔キャンセラー形態フォームになっている為に、大幅に身体強化のバフが掛かっている。拠って2人の距離は一瞬で詰められ、片翼の女性は何もする事が出来無いまま、気付いた時には少女の蹴りニーリフトがまともに腹に入っていた。

 更に追い打ちを掛けた少女は前のめりになった片翼の女性に、前宙からの踵落としをその後頭部に入れていった。

 こうして片翼の女性は床に頭をめり込ませ轟沈ごうちんした。



「ウィスパ!」

「くそっ!きいぇぇぇぇぇい」


「待て!早まるなッ!」


 長髪の男が片翼の女性の名を呼んだが、轟沈させられたウィスパと呼ばれた女性が声を発する事は無い。長髪の男はその瞳に覚悟を決め決意を宿して、細剣レイピアを自身の体幹に添わせて構えると少女に速攻を仕掛けていった。


 「シャッ」と言う声と共に鋭い突きランジが放たれるが少女に当たる事は、やはり「無い」を通り越してあり得なかった。拠って、すれ違い様に少女の膝が長髪の男の腹にめり込み、長髪の男は「がはッ」と嗚咽おえつを漏らし、床に対して頭から着地した。



「ハイム!」

「呑まれて先走りやがって!だが、こうなっては仕方ない。参る!!」


 ライガは頭で着地した長髪の男の名を叫んでいた。そして、ライガは自身の身体を作り変えていく。

 そこにいるのは既に獣神族ビーガディアではなく、大きな白い虎でありその姿に変化したライガは、獣の神速を持って少女の元へと駆けた。

 その鋭い牙で少女がいた空間を噛み砕く……が、ライガが噛み砕いたのは虚空こくうだけだった。



「ッ?!」

「どこだ?どこに行った?!」


「ここよ。う・し・ろ」


「なっ!?」


 少女はライガの後ろから声を掛け、振り返ったライガの下顎目掛けて渾身こんしん蹴りトラース・キックを浴びせ、その一撃を以ってライガはK.O.となった。



「中々やるな、娘。外が騒がしいから見に来て見れば中々に面白い侵略者だな」

「して、侵略者の娘よ、何用かな?此の我の首でもりに来たか?」


 小さなピラミッドの上に1人の男。その男が階段下の様子を見下ろし、小さな侵略者少女に対して話し掛けてきていた。

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