第19話 悲鳴

「恐らく最初に一眼巨鬼種サイクロプス巨人族ギガンティアヤツが諸悪の根源だったんだ」


 だからそれが少女が導き出した答えだった。「武器を奪われた」と言うのは負けた言い訳だろう。

 ハンターたるもの、デバイスがあるんだから最後まで闘うコトは出来たハズだ。だが、それをせずに諦めて逃げ出したからバツが悪くて嘘を吐いたのだろう。

 そして襲った相手が本来の討伐対象ではなかったのなら尚更だ。


 少女が見た所、その武器はちょっとだけ高そうな長剣ロングソードだ。だから犯人は恐らく中堅ハンターくらいの実力なのだろう。


 そんなコトをサクッと頭の中でまとめた少女は、笑顔で巨人族ギガンティアにお礼を言った。そんな笑顔を向けられた大男は目を背け、「別に構わねぇ」と少しだけ気恥ずかしそうに返事をしていた。

 毛むくじゃらの顔なのでどんな表情をしていたかは分からないが顔を赤らめていたかもしれない。



「それで、ハロルドはルミネを探しに来たの?」


「えっ?!まさか、ご存知なのですか、師匠?」


「えぇ、モチのロンよ!」


「それよりもほら、焼けたぞ!だから、おんめぇ達も喰え。おんめぇ達が手伝ってくれたから倒せたようなモンだ」


「これってさっきの?」


「あぁ、そうだ!おでが解体したあの一眼巨鬼種サイクロプスんだ」


 巨人族ギガンティアはこんがりと焼けた巨大な肉塊を少女とハロルドに差し出していた。


 魔獣の肉は素材としてだけでなく食用になることは知っていたが、流石にさっき倒したばかりの魔獣が出て来るとは思ってなかったので、少女は目を白黒とさせていた。



「これ旨いですよ、師匠!食べないんですか?」


「あぁ、もう!うっさいわね、ハロルド!もうちょっとお行儀よく出来無いワケ?そんなんじゃ、ルミネに言うわよ?」


「おんめぇも喰え。うんめぇぞ」


「分かったわよ、食べるわよ食べればいいんでしょ……」


かりっ


「あ、美味しい……」


 少女は今まで魔獣食をした事がなかったので抵抗はあった。だが少しかじってみると案外イケたのだ。

 歯ごたえがあり、噛めば噛むほどに広がる旨味と溢れ出す肉汁は臭みもなく身体に染み渡っていく。

 それは生まれて初めて食べる味であり、クセになりそうと言うか病みつきになる食感だった。そして、気付けば渡されたその大きな肉塊を、ぺろっと全部食べ終えてしまっていたのだ。

 ちなみにハロルドは少女に「うっさい」と言われた結果、黙々と粛々しゅくしゅくとガツガツと空腹を満たしていた。




「バカ弟子が世話になったわね。ありがとう」


すっ


「へっ、そんなんはガラじゃねぇや」

「ま、おんめぇは人探し頑張んな」


 気付けば空には夜の帳が降り始めていた。だから日が暮れる間際の時間になって3人はこの場を離れる事を決めた。


 少女は大男に対してお礼の意味も込めて手を出したが、巨人族ギガンティアは照れ臭そうに握手を断っていた。更にはハロルドに一言だけ掛けると、またどこかへと去って行った。

 ハロルドはその背中を見送り、黙って頭を下げていた。




「そう言えば、ハロルドは空を飛べなかったわよね?」


ぽりぽり


「はい、恥ずかしながら」


「まぁ、そうよね。あれから何年か経っててもやっぱり無理なモノは無理よね」 ぐさっ

「それで、そのヒト種ベースのマテリアル体は誰が作ったの?」


 2人は太陽が完全に沈み、完全に真っ暗闇になった森の中を歩いていた。

 少女はバイザーで方向を確認しながら先頭に立って歩き、ハロルドに対して幾つかの質問を投げていた。


 そしてこの質問が少女の問いの核心だった。もしも万が一、ハロルドのマテリアル体がアスモデウスの手に拠るモノだった場合は、ルミネに会わす事を避けるべきだと感じたからだ。



「はい、この身体は陛下に造って頂き、陛下のお力で小生じぶんは人間界にやって参りました」


「そう、分かったわ。それなら大丈夫よ」


「師匠?何が大丈夫なんです?」


 少女は面倒臭くなってきていた。それはハロルドとの会話ではなく、暗い山を降りてるコトにだ。だから少女はハロルドの質問には返さなかった。

 そしてそれから2人は無言のまま深い森を掻き分け、山から無事に抜け出せた時にはもう、夜は大分だいぶ更けていた。

 とは言っても1番近くの車道に出ただけなので、麓まで完全に下山したワケではない。ちなみに途中で魔獣に襲われなかったワケもない。

 しかし、その話は余談なので触れないでおこう。



 少女は車道に出るとセブンティーンに連絡をして、自分の元まで来るよう伝えた。

 それから数分もしない内にセブンティーンは爆音と甲高い摩擦音を立てながらやって来たのだった。


 近付いて来る初めて聞く怪音にハロルドは意を決した様子で棍棒を構えていた。そしてハロルドは初めて見る自動車に慄いていたが、少女に拠って促されるままにセブンティーンに乗り込むコトになる。

 乗ったら乗ったで、ハロルドは興味津々といった表情だった。


 だから少女はそんなハロルドを見た途端に、口角を上げ「にやッ」と悪っるい顔を作っていた。ハロルドはその表情に気付いておらず目を輝かせていたのだ。

 少女はステアリングを軽快に振り回しながら、峠道とうげみち颯爽さっそう疾走しっそうしていった。



 既に日が落ちてから大分時間が経っている。空には月と星が輝いているが、それ以外の人工的な灯りはたった1つだけしかない。

 そんな夜深い暗闇の峠道を、たった1つの人工的なハイビームが爆音を奏でながら甲高い音と共に疾走はしり去っていく。



 ハロルドの悲鳴と言う、別のエグゾーストのおまけ付きで。

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