出会い

第8話 13歳の少女

 そんな依頼クエストからの帰り道、2人は川原にたたずむ小さな女の子の姿を見付けた。

 時刻はお昼時だからか、周囲には同じくらいの年齢層の子供はおらず、ただ呆然ぼうぜんと川を眺めている女の子見た時に、少女はセブンティーンを道端に停め、ルミネの方を見た。


 視線を感じたルミネは少女を見ると、黙って頷いていた。



「そこで何をしているの?」


びくッ


「ひっ!?えっ、あっ、あの……」


 少女はルミネを伴って優しく女の子に話し掛けていく。


 話し掛けられた女の子は驚いた猫みたいに身体を上下に揺らすと、警戒心をあらわにしながら2人に視線を投げてきた。



「驚かせちゃったかしら?ごめんなさいね」

「車で走ってた時に、アナタが独りぼっちでいるのが見えたから、迷子かと思って声を掛けたのよ。こう見えても、アタシはハンターだからね」


「お姉さん達、ハンターなの?」


「えぇ、そうよ。神奈川国公安のれっきとしたハンターよ?」

「っ!?ちょ、ちょっとちょっとどうしたの?やっぱり迷子なの?お母さんやお父さんとはぐれちゃったの?」


 女の子は先程までの怪訝けげんそうな表情から一変して、一気にすがる様な表情になっていった。


 少女は女の子の態度に異変を感じ、身体を屈めて女の子と同じ目線に合わせると優しく言の葉を紡いでいく。



「わたしは迷子じゃないよ?でも、お姉さん達が「ハンター」なら1つお願いがあるの」


「お願い?何かしら?」


 女の子は縋る様な表情のまま、少女に言の葉を紡いだ。


 少女とルミネは女の子の近くに腰を下ろして女の子のお願いを聞く事にしたのだった。


 女の子は自分の名前をアリア・レヴィと名乗った。年齢は13歳でヒト種という事も話してくれていた。


 少女達の認識では、もう少し幼いと思っていたが身長と幼い顔立ちのせいだったのかもしれない。



 アリアの身長は少女を一回り小さくしたくらいだから、同じくらいの年齢の子供達からすると大分小さい事になる。

 黒く大きな瞳と、セミロングのツインテールの黒髪が、より一層の幼さとを演出している、そんなごくごく普通の可愛らしい女の子だった。

 それ以外に特に目立つ外見はないが、その年齢の女の子からしたら想像もつかない程の憂いを帯びた雰囲気を纏っている事が、少女の心を「きゅっ」と締め付けていた。



 アリアはどうやらこの近くに住んでいるらしく、父親はおらず母親と2人暮らしだという事が、話しを聞いていく内に分かった事だ。


 そしてそんな2人暮らしのせいで、アリアの母親は朝から晩を通り越して朝まで必死に働いており、アリアはそんな母親に「楽をさせてあげたい」と考えているという事も分かった。



「それで、アリアちゃんがさっき言ってた「お願い」って何なの?」


「わたし、魔術を使えるようになりたいの!魔術を使えるようになって、それでハンターになって、お母さんを楽させてあげたいのッ!」


「アリアちゃん…ろ」


「アルレ?それならば、わたくしがそのお話し変わりますわよ」


「えっ?!ちょ、ルミネ?」


「アリアさん、わたくしが貴女に魔術を教えて差し上げますわ。それで良いかしら?」


 ルミネの紡ぐ言の葉を聞いたアリアは「ぱあぁぁっ」と表情が明るくなっていった。

 逆に少女の表情は「ずずずーん」と薄暗くなっていった。


 少女はアリアに「ちょっと向こうで話しをして来るね」と優しく言うと、ルミネを連れてアリアに聞こえない場所まで距離を取った上で言葉を紡いでいく。

 意味が分からないアリアは「きょとん」としていた。



「ちょっとルミネ、どういうつもりなの?「魔術を教える」だなんて安請やすうけ合いしちゃって大丈夫なの?」


「アルレさま、一体何を怒ってらっしゃるの?」


「アリアが必死にハンターになりたいと考えているのならば、安請け合いをしたらダメよッ!それに、ヒト種は魔術を使えるワケじゃないのよ?」


「ヒト種の中でも地球出身の地球人族アーシアは魔術特性がないのよ?それに魔術特性があってもマナを練る事も出来無い人だっているの。それなのに、「魔術を教える」なんて簡単に安請け合いしてもしダメだったら、傷付くのはアリアなのよ?分かっているの?」


「アルレさま、大丈夫ですわ。わたくしに「万事おまかせを」なのですわ」


 少女は流石に熱くなった。ハンターを志すなら魔術は必要不可欠じゃない。ただ、使えれば戦術の幅が広がるし日常で便利なコトも確かだ。

 一方で使えると信じて励んだのに全く使えない人や、使えるが全く目が出ずに挫折した人達を見てきたコトがある少女にとって、安請け合いは残酷過ぎるとしか思えなかった。

 しかもそれがまだ13歳の女の子であれば無慈悲にも程がある。

 しかしそんな少女の心配を余所よそに、ルミネは一言だけ発するとアリアの元に向かっていった。



「アリアさん、お待たせ致しましたわ。少し、魔術のを見ますから、立ち上がって目をつむって、気持ちをラクにして頂けますかしら?」


「は、はい!」


きゅ


「じゃあ、始めますわ。絶対に目を開いてはいけませんわよ」


「はいっ」


 ルミネはアリアに優しく言の葉を紡ぎ、その光景を少女はヤキモキしながら見守っていた。


 ルミネはアリアの頭の上に右手を当て、人差し指を立てた左手はアリアの顔の前で動いているだけだ。しかし、そんな儀式めいたものを少女は知らない。

 何かの儀式を伴う魔術だろうか?ん?いや、待てよ…。

 さっき、ルミネは「を見る」と言っていた。

 それならば、魔術特性はという事を見抜いている事になるのだ。



「でも、どうやって、それを調べたと言うの??」

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