第2話 ハンターライセンス

 ここは、神奈川国のほぼ中央を南北に流れる大きな川沿いの道だ。そこから見える川の土手沿いには桜の木が並木道を作っていた。

 その桜並木は、ちょうど見頃を迎えた頃合いで人々が賑わいを見せている。



「周辺国の事は全く知らないし、どうでもいいけど、やっぱりこの国は平和ねッ!」

「じゃなきゃ、みんなあんな楽しそうに笑えないもの」


 少女は桜並木の賑わいを見て、顔をほころばせていた。そして心の休日を楽しんでいる様子だった。



 少女は川の上流から下流の方に向けて視線を流していく。その瞳に映り込んで来るのは幸せそうに笑う人達の姿。

 花見を楽しんでいる仲睦まじい家族にイチャつくカップルの姿もある。人種も様々でヒト種以外にも獣人種や亜人種の姿も見られた。

 中には河川敷でBBQをしながら盛り上がっている団体も見える。酒が入っているのだろう、ワイガヤな声が少女の耳に入って来ていた。

 そんな光景をセブンティーンを止めた場所から見える範囲で少女は楽しんでいるのだった。



「ん?あれ、何かしら?」

「何か催しでもあるのかしら?凄っごい人だかりが出来てるわね」

「でも、あそこって、ただの並木道よね?ちょっと気になるわ…。何事も無いならいいけど、公安の便利屋としては放っとけないわね!」


 少女の目には下流の方で何やら人だかりが出来ているのが映っていた。そしてその異様なまでの人だかりが気になり、少女はセブンティーンを停めたまま向かってみる事にしたのだった。

 自分のコトを「公安の便利屋」と言っていたが、便利屋である事には使命感や義務感などは持ち合わせていないので、ただの口実なのは言わずもがなだろう。




「おぅおぅ、姉ちゃんよ、少しくらい構ってくれてもいいじゃんかよ?」


「そうだそうだ、1人でそんなカッコして歩いてんだから、男漁りでもしてんだろ?」


「俺達が可愛がってやるから、こっちで一緒に飲もうぜ?」


 酔っ払いの集団が一人の女性に絡んでいた。その女性はじける事も無く、平静とした表情で酔っ払いの言動を無視していた。

 そしてその女性と酔っ払い達を取り囲む様子で、人だかりと言う野次馬達が群れを成しているのだった。


 野次馬達は今すぐに公安に通報すべきか?それとも、何かあってから通報すべきか?などと気楽な考えの元、絡まれている女性の一挙手一投足に興味津々と言った感じだった。



「おぃ!いい加減いつまでも無視してんじゃねぇッ!%&*☆¥※@#$ッ!!」


がしっ


「全くなんなんですの?離して頂けませんこと?」


 ガン無視を決め込んでいた女性の態度に酔っ払いは逆上し肩を掴んだ。そして帰って来たのは怯える事すらない毅然たる態度。

 多少なりとも嫌がる素振りを期待していたのかもしれない。だから更に逆上した酔っ払いは、呂律が回っていない様子で何やら奇声を発すると更にもう片方の肩に手を伸ばしたのだ。


 だが次の瞬間にその酔っ払いは、その場で空中をくるっと1回転していた。そして、「どすん」と背中で着地した。


 周囲にいる酔っ払い達も、野次馬達も誰一人として何が起きたのか分からない様子だった。

 何故なら掴み掛かった酔っ払いが独りでに、それこそバナナの皮で足を滑らせ空中で一回転して派手に転んだと周囲の人の目には映っていたからだ。そして、その光景に周囲からは「どっ」と笑いが起こっていった。

 まぁ、バナナの皮など地面には落ちていないのは明白だし、バナナの皮でそこまで見事に転べるのかも知らないが…。


 一方で転ばされた酔っ払いは暫く何が起きたか分からず呆けていた。しかし周囲から巻き上がった笑い声に、急激に恥ずかしさを覚えたらしい。

 その為、顔を真っ赤にして更に逆上すると急いで立ち上がり、女性に対して殴り掛かっていったのだ。



「そこまでよッ!」


がしっ


「あぁん?何すんだテメェ!@$&☆※#$*☆〒ッ!」


「はぁ……」


どすんッ


 逆上した酔っ払いの手首を掴み、制止を掛けたのは少女だった。手首を掴まれた酔っ払いは少女の事を見ると、これまた奇声を上げて力任せに殴り掛かっていく。


 少女は一度溜め息をくと、酔っ払いの手首をひねり力を込めたので酔っ払いは再び空中で一回転させられたのであった。

 それもやはり、一瞬の出来事だった。


 その光景に、今度は周囲の酔っ払い達が仲間を助ける為に少女に襲い掛かっていった。



「なんでアタシの時だけ向かって来るのかなぁ?」

「全く、やってらんないわね」


かちゃ


「ひぃっ」 / 「銃だっ銃持ってる!」 / 「誰か、急いで公安に通報しろッ」


「まだやるかしら?やるなら相手になるけど、どうする?」


 少女はその暴漢達に対して、無慈悲に愛銃であるウージーSMGの銃口を向けた。不意に銃口を向けられた暴漢達はまるで石化したかの様子で、その場で固まっていた。



「あー、周りの皆さん落ち着いて下さーい!アタシは公安のハンターでーす。通報しないで下さーい」


「え?あんな小さいコがハンター?」 ぴきっ


「娘と同じくらいじゃないか?どう見ても小学生だろ?」 ぴきぴき


「やっぱり女はお前くらいの大きさがないと揉みごたえがないからなぁ」

「やだぁ、もう、エッチなんだからぁ」 ぶちぶち


「はいはーい、ちゅうもーく。コレ見てねー。アタシはハンターでーす。これ以上の暴言は認めないし、許さないから覚えておいてねー。あと、そこッ!昼間っからイチャつかないで!小さな子供だっているんだからッ!!」


「ハンターライセンスあれ、本物だったよな?」 / 「すげぇな、あんなチビっ子が本物のハンターだなんてな」 ぴききっ


「がまん、ここはガマンよアタシ。相手は民間人手を出したらダメよ。アタシは出来る子、ガマン出来る子なんだからッ」

「ふぅ……」

「はいこれで分かったかしら?アタシは公安のハンターなの。だから忠告しとくわね?これ以上はアンタ達の為にならないわよ?」

「で、どうするの?まだ暴れ足りない?どうしてもって言うならアタシが相手して、あ・げ・る。うふっ」


「「「「「すいませんでしたーッ」」」」」

「あんな色気の無いチビっ子じゃイヤだー」


だっ


「色気がなくて悪かったわね。じゃあ、これでも喰らって反省なさいッ!」

「威力を最小限に抑えた火炎烈弾ファイヤーボール!」

「うりゃッ」


ぼんッ


「うわっ、ひでぇ。くわばらくわばら」


キッ


「はい、アンタ達も解散解散!!散って散って~。ここは道なんだから固まってないで、早く散って~」


 泡を喰った酔っ払い達は逃げていったが、余計な一言を宣ってくれた酔っ払いだけは、頭をされて逃げていった。


 周囲に残った野次馬達も少女に促されその場から退散していく。

 その場には少女と絡まれていた女性だけが残った。

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