不思議なカレラ ~ The word chain game ~

酸化酸素 @skryth

再会

第1話 蒼銀の美姫

 春は昔から別れと出会いの季節と言われている。これはそんな季節から始まる一つの物語。


 少女が「魔界」から人間界へと戻り月日は大分だいぶ流れた。

 少女が日々依頼クエストに忙しく駆けずり回っている頃、神奈川国のあちらこちらでは桜が咲いて見頃を迎えていた。

 そこに現れた一人の女性。



「あら?これは何と言う花でしょう?大変綺麗ですわね。いつか、持って帰りたいものですわ」

「あぁ、風が清々しいですわ。そして風に舞う桃色の花びらが、とても情緒的で風情がありますのね」


 女性は青味がかった銀色のドレスをその身にまとっている。そしてその背中がざっくり開いたバックレスドレスから覗かせている、キメが細かく透き通る程に白い肌は、すれ違う人の視線を釘付けにしていた。

 正面のたわわに実った双丘はガードが硬い様子で、露出が多い背中とは打って変わって肌色を覗き見る事は出来ない。

 拠ってその豊満な胸元すら披露していないが、折れそうな程に引き締まった腰の線との対比が絶妙な色気を醸し出してた。


 ツヤがあり腰にまで掛かる長さの銀色でストレートの髪の毛は、後ろで一つに束ねられており、際立つほどに整っていて美しいその顔立ちを引き立たせている。そしてその整った顔には目立つ瞳が活き活きと輝いていた。

 それは赤と蒼の対照的な色味を持つオッドアイだ。



 この女性は枝垂しだれている桜の枝を、その細く可憐な指先で摘みその小さな花弁を見つめながら呟いていた。

 蒼銀のドレスが風にたなびき、花びらを伴ったピンク色の風が流れていく姿に目を止めない者など、誰一人としていないワケがない。



 しかしながら、その服装からして普通に桜を愛でに来るだけの出で立ちとは決して言えないだろう。

 だけどこの女性は、その違和感すらをも取り込んでいる。だからこそ、その光景が「も当たり前」とでも言わんばかりの幻想的な雰囲気をかもし出していた。

 要は「絵になる立ち姿」と言うヤツだった。



 この女性とすれ違う老若男女問わず誰しもがその歩みを止め、その女性を目で追い掛けていた。

 そんな優雅な出で立ちと綺麗な顔立ちを両立させている、そんな女性がたった一人で桜並木の川沿いを歩いているのだった。



 すれ違う歴戦の猛者ナンパ男達はその女性に対して近寄り、声を掛けようとするが、その女性の気を引く事はおろかその女性の前へと進み出る事なく見惚みほれてしまい次々と轟沈していく。

 それはまるで魅了チャームにでも掛かってしまったかの様子でだ。

 漫画的表現なら目がハートマークになり、頭のてっぺんから❤がたくさん溢れていたかもしれない。



 そしてその女性は、出で立ちが然程さほど変わらない格好で、数日に渡って様々な場所で目撃される事になる。その結果、段々と人々の口の端に上がり、噂は噂を呼び次第に有名になっていった。


 人々はその女性の名前を知らない事から容姿由来の渾名あだなを付け、畏怖いふと敬意と羨望せんぼうを込めてこう呼んだのだ。


 「蒼銀そうぎん美姫びき」と……。




 少女は屋敷で依頼クエストを探していた。久々にマムやギルドからの直の依頼クエストが無かったからだ。

 直で少女の元にやって来る依頼クエストは大抵、難易度が高く最近はもっぱらそんな依頼クエストばかりだった。だから息抜きの為にも比較的ラクそうな依頼クエストを探していた矢先に、「蒼銀の美姫」という単語に少女の目は止まった。


 その単語に興味が湧いたので「何かしら?」と軽い気持ちで依頼クエストの依頼内容を確認したが、その詳細を全て読み終えると「平和になったモンねぇ、この国も」とボヤいていた。

 お茶でもあれば啜りながらいたかもしれない。



 詳細は簡単に言ってしまえば、告白の幇助だ。そんな依頼クエストを公安がよく受け付けたなと思ったが公安としても思惑があったらしい。


 しかし内容を読み進めていく程に馬鹿馬鹿しくなっていった。

 要点だけ纏めると、一目惚れした男性が意中の女性に告白したいのだそうだ。だけども、どこに住んでいるのかも分からずそれ以前に名前すら知らない。自分には探すアテも無いから探して見付け出して欲しい。

 更には連絡先も聞いて来て欲しい。


 と言った内容だ。

 依頼クエスト内容の欄につらつらとそれ以外のコトも書かれているが、その内容はその女性に対する想いの丈が、まるでポエムみたいに書きつづってあるだけだった。

 それは読んでいる方が恥ずかしくなる程だ。


 百々とどの詰まり、その探している女性が「蒼銀の美姫」と渾名あだなされている女性だと書いてあった。


 そして、似たような依頼クエストがいくつもあった。



「あぁ、なんとなく公安が依頼クエストを受け付けた理由が分かったかも。流石にこんだけ依頼クエストがあるってコトは、対応に手を焼いているのね」

「でも、探し人が依頼クエストになるなんて、平和なモンねぇ」


 少女は素直な感想を述べただけに過ぎない。だからモチのロンで受けるハズも無い。

 ただその「蒼銀の美姫」という渾名だけは心に留めて置く事にしたのだった。


 人から「美姫」とまで呼ばれる女性がどれ程の「美しい姫」なのか、という、ただの好奇心だった。



 少女はそれ以外に、少女の食指しょくしが動くほどの依頼クエストが見付けられなかった。

 だから「今日はオフにしましょ」と開き直った様子で呟くと、セブンティーンに乗り込み久し振りにドライブに出掛ける事にしたのだった。



 少女がセブンティーンで走り去っていく姿を、爺を始めとした3人がいつものように玄関先で見送っていた。




 少女は気分でステアリングを切り、行く宛も無いドライブを楽しんでいる。少女の心持ちを反映する様子で、セブンティーンの低いエグゾーストノートは軽快にビートを刻んでいく。

 季節は春で日和ひよりが良く、暖かな陽射しがあって空を見上げると太陽が眩しかった。

 窓を開けるとセブンティーンの中に入り込んで来る風がとても気持ちよく感じられた。



 少女はふとしたきっかけでセブンティーンを道端に停め、大地を踏みしめ気持ちの良い空気を胸いっぱいに吸い込んでいく。

 そしてそこから見える景色を眺める事にした。



「たまには息抜きもいいわね。じゃないと季節を忘れそうだわ」

「でも今日は桜が見頃だったのね。息抜きにここまで来てラッキーだったかも。えへへ」

「でもいいなぁ。みんな幸せそう。アタシも1人じゃなかったら良かったのになぁ…」

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