恋のおまじないはコケティッシュ!? ねえ、私にその意味を教えて……。

kazuchi

私、こけし少女じゃないもん!!

「――前髪の長さ、これくらいで大丈夫ですか?」


 鏡に映った姿を見て、思わず言葉を失ってしまった。


「……は、はい、大丈夫です」


 うそだ!! ぜんぜん大丈夫じゃない。つい眠ってしまった自分も悪いけど。

 ……美容師のお兄さん、前髪を切る前にちゃんと聞いてよぉ!!


「かなり寄せておきましたよ。切り抜きの美少女アイドルみたいなショートボブ。どうです、そっくりでしょ!!」


 美少女アイドル!? ち、違う、これじゃあ民芸品のみたい……。


「ありがとうございました。髪のケアの件でも何かあったら聞いてくださいね!!」


 からもう遅いよ。私の前髪は戻ってこないから。


かくして私、中原陽菜なかはらひなは美少女アイドルならぬ、こけしにそっくりな少女となった。



 *******



「……お姉ちゃん、めっちゃ笑いすぎなんだけど」


「あはははっ!! ごめんね陽菜。でも笑えるんだけど、その話」


「ぜったいに違う!! お姉ちゃんは話じゃなくて、私を見て笑ってる。このこけしみたいな髪を……」


「……なんで陽菜は、急にそんなことをしたの。前のままでも良かったのに。切り抜きを持参なんて、今まで絶対にしなかったじゃん。それも今をときめく美少女アイドルの切り抜きなんて。ある意味、自分を見失ってる行為だよ。陽菜らしくない」


 女子大生のお姉ちゃんは、口は悪いが私のことをいつも心配してくれる。中学二年生の私と歳が離れていることもあるが、本当に母親がわりだ。実の母は私たち姉妹が幼いころ他界した。初夏の時期に父親が転勤になり、私も一緒に転校することになった。


「だって、陽菜が中学生になって初めての転校だよ。小学校の頃はお父さんの都合で、しょっちゅう転校してたけど。あーあ、しばらく東京にいられると思ってたのに……」


「仕方がないよ。仕事の都合だし、もっとお父さんに感謝しなきゃだめだよ」


「……それは分かってるけど、でもお姉ちゃんがうらやましいよ。都内の大学に入って、こっちで一人暮らしが出来るんだから」


「ひがまないの、転勤先は大学に通える場所じゃないし。でも、いいんじゃない。今回はお祖母ちゃんの田舎だから。そこでお父さんと一緒にお世話になれるんなら。陽菜もおぼえてるでしょ、小学生のころ住んでた場所」


「……お姉ちゃん、だから、この髪型がいやなの!!」


「えっ、意味がわかんないよ。陽菜の残念な髪型と何の関係があるの?」


「お姉ちゃんこそ忘れてない。私が転校するあの場所は……」

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