第3話
学校から少し歩いたところに、ショッピングモールがある。それくらいしか、この辺りには目立った建物がない。周りは畑ばかりの超ド田舎だ。
でも、ここに来れば、服屋も、本屋も、電気屋も、スーパーも、カフェも、ボーリング場もある。必要な物は一通り揃えられる。
「なんか、人少なくない?」
真中がそう切り出してきたのは、無事にプレゼントを買い終えて、ドーナツショップで一息ついていた時。
派手なくしゃみのあとに、俺は辺りを見回した。言われてみれば、六つ設置されているテーブルの、俺たち以外の席には誰もいない。後ろの通路には、女性が二人歩いているだけだ。
「こんなもんじゃねぇ? 平日だし」
そう答えたものの、確かに若干の違和感は覚えた。
「平日って言ったって、夕方だよ? 晩ご飯のおかずを買いにくる主婦とか、もっといてもよくない?」
「あり合わせで済ませましょデーなんじゃねぇの? さっきの雑貨屋にはけっこう学生がいたじゃんか」
真中の弟のスマホケースを購入した店だ。
「そうだけど……」
真中はカフェオレのカップを両手で握りしめて、不安げに目をキョロキョロさせた。
俺がついてるじゃん、と言って、その頬をこの手で包み込みたい。だけど、俺は「恋人」ではない。そんなことできないし、そんなセリフを口にしたら、たちまちこの関係は壊れてしまう。
その時、唐突に悲鳴が上がった。ドーナツを作っている調理スペースからだ。
さっきレジを打ってくれたアルバイトの女子や、トングをいくつも持ったままの店員も、泣きながら飛び出してきた。
俺は思わず息を飲んだ。
大きなフライヤーの前で、人間が燃えていた。いや、もうすでに人間と呼べるものではない。人の形をした肉の塊が、そこに立っているようにしか見えなかった。
とっさに真中の頭を抱きかかえて、目を腕で覆っていた。
真中の口はぽっかり開いている。カップはテーブルに落ちて、滴る中身が真中の膝を濡らしていたけど、熱さなんてまるで感じていないようだ。
焦げた肉の塊はゆらゆらと揺らめき、やがて後ろに倒れた。悲鳴を聞きつけて飛んできた警備員が、青い顔で、必死でスマホに怒鳴りかけている。
「油を……油を、自分で……」
アルバイトの一人が床にひざまずき、しゃくり上げながら、細切れに呟いていた。
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