ひらがな因果物語
阿部2
タナプレート
ケイト、ケイト、なんだっけ。ケイトなんとか。なんか有名な、アメリカかイギリスの歌手がいて、オーストラリアかもしれないけど、下の名前、ラストネームがわからないんだけど、その人のめちゃくちゃ売れたレコードのジャケットに描いてある女の子のキャラクターが、タナと呼ばれていて、アルバム自体もタナプレートと呼ばれている。
タナは絵の一部として意外と小さく描かれていて、羽衣さんという人が、同じレコードを何枚も買ってきて、タナだけを切り抜いて拡大コピーしている。
コピーするんだから、別に同じレコードを何枚も買う必要はないと思うんだけど、現代アートは、本当は現代に限らないのかもしれないけど、アートはそういうコンセプトも込みで見るものだから、意味のないことをやることにも意味があるのかもしれない。
羽衣さんは、学校のコピー機の下に、下絵というのか、タナを貼り付けた紙の束を隠している。
手際がよくないと無許可で壁に絵を描くことはできない。粘着テープで段ボールを貼り付け、ラッカースプレーを吹きつけると、くり抜かれたネガとポジが反転して、タナができる。
でも作業自体は目にも留まらぬ早技とかではなくて、意外ともたついてたりするんだけど、不思議と他人に見つからない程度には早い。大切なのは作業をはじめるタイミングと終わらせるタイミングなのかもしれない。
職員室の掃除当番だったぼくは、コピー機の下に紙の束を見つける。
もしコピー機をどかすようなことがあれば、タナの束も見つかってしまう。
そう思ったぼくは、タナを持っと人目のつかないところに隠したほうがいいと思って、床にひざまずいて手を伸ばす。
コピー機の下のすき間は、手を入れるだけなら十分広いけど、紙をちゃんとつかむには狭すぎる。
掃除機のノズルで引っかけて取ろうともしたけど、かえって奥に押し込んでしまった。
見つからないようにすることが目的なら、思い切ってもっと奥に押し込めば見えなくなるのでは、とも思ったけど、どう考えても覗けば奥まで見通せる程度の奥行きしかない。
ぼくは床に這いつくばって、できる限り、つまり肩が引っかかるまで腕をのばす。
そうしているとぼくの頭もだんだん平たくなってきて、どんどん奥に入っていく。
ペラペラになってコピー機の下に横たわっているぼくを見つけると、羽衣さんは「ほんといつもそう。私のまわりには取り返しがつかなくなる前に相談できる男っていないの?」と言った。
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