指先にまとわりつく劣情

聶惢

愛した夜はいつだったか。

何か音を拾ったのか、ふと意識が戻る。

窓の向こうの、黒々とした空にごろりと転がる月の上でうさぎが交尾をしている。

ジリジリ蠢く月暈をまとった月の上からこぼれ落ちたうさぎは尚も行為をやめず、すべての音を消すようにぎゃあぎゃあ悦びの声をあげる。

残された月はピシピシと自らにヒビを入れカパリとその身を開く。と、とろりと顔を出した卵白が滝のように流れ出す。

いつの間にか目の前に置かれたプレートにはつるんと美しい黄身が、黒目のようにこちらを見つめている。

後ろから伸びて来た手が、その視線を遮るように目を塞ぐ。

「逃げてもいいよ」

振り返ると、大きな目がうるうると輝いている。

ぷっくり膨らんだふたつの目。

ああ、なんて美しいんだろう。

ぺろりと、思わずその目に舌を伸ばす。

その舌触りにうっとり目を細めると、くすぐったそうに首を縮めるカマキリが私の腕を引いて、もつれ合うようにしてベッドに飛び込む。

窓の外には、割れた月を取り合うコブだらけの大きな手が。

すでに砂のようになってしまっている月に気付くことなく、ただ。

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