第三話

突然柊に自己紹介をしようと言われた俺は、


渋々自己紹介を始めた。


「名前は天宮 楓。」


「いや知ってますけど。」


名前だけ言ったら流石にツッコまれた。


「趣味は? 好きな女子とかいるでしょ!!男子高校生!」




何故好きな女子を聞く!?まぁ聞くのも面倒くさいからいいけど。


「趣味は……無いな。好きな女子もいない。」


「本当に?気になってる人すら?」


なんでそんなに聞いてくるのか謎なんだが。


「気になっているといえば……」


「いえば?」


「あの子元気かな。」


そうつぶやいた後、ふと何年か前に出会った子を思い出す。


「あの子?この学校の子じゃないの?」


柊が驚きながらも、興味津々に聞いてくる。


「俺がこの学校の女子に話し掛けられると思うか?」


「いや、思わないけど。そこドヤ顔で言うとこじゃないよ……」


柊が少し呆れた顔で言う。なんか今サラッと悪口言われたような気がするが、こういうのは気にしたら負けなので、気にしないこととする。多少傷付くけど。




「俺は話したぞ。もういいだろ。」


「よし。じゃあ次は僕が話すか。」


「名前は柊 雪璃。雪に瑠璃色とかの璃でせつりって読むんだよ。でも少し女子っぽい名前でしょ?」


「別に。綺麗で格好良い名前だと思うけど。」


「そういうことをすぐに言えるのになんでモテないんだろう……」


悪かったな。モテない男で。あとな、がっつり聞こえてますよー。


「まぁ良いや。これといった趣味はないけれど、人の髪の毛を結ぶのは好きかも。まぁ姉が美容師というのもあるのかもしれないけと。」


まさかのここにきて、器用系男子というステータスまで追加されただと!? どこまで完璧なんだコイツ……


というか、うえにいたのか……


柊姉……想像しただけで鳥肌が立つな。




「だから、その、か……楓のサラサラで綺麗な髪の毛も結びたい!」


器用だけど、ヤバイ奴だった。


……ん?楓? 今コイツ俺の名前……


「今、名前……」


「あ、そうだ!名前!」


「僕これから楓って呼ぶね!」


「楓は勘弁してほしい……」


「いいじゃん楓。いい名前だと思う。似合ってるよ。」




俺は自分の名前が気に入ってなかった。なんか俺には似合わないと思ってたから。でも、目の前にいるコイツが嘘をついているとは思えなかった。きっと本当に思っていることなんだろう。


「いい名前か……」


「あっ……楓が初めて笑った!」


と柊が嬉しそうに笑う。しまった。


「わ……笑ってない。」


「笑ったよ〜!なんで隠すの!」


「いや、笑ってないから。」


「ふ〜ん。笑ったほうが可愛いね?」


調子乗りやがって!!


「あーうるさい。」


「あ〜あ。いつもの顔に戻っちゃった。」




自己紹介……最初は嫌嫌やっていたけれど、


コイツのお陰で少しだけ自分の名前が好きになれた。ほんの少しだけだけど。




「宜しくね?楓。」


ニヤニヤしながら柊が手を差し出す。


前言撤回。やっぱり柊はウザい。でも悪い奴ではないらしい。でも……


「……ムカつく。」


「なんか急に酷くない!?」


今度は柊が涙目になった。

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