リリーのメイド日誌

いいのきい

2022/07/06 お嬢様とメイド日誌

 初めまして、リリーと申します。

 私は、とある怠惰なお嬢様にお仕えするメイドとして働いています。


 私のお嬢様は、「深窓の令嬢」というようなタイプではありません。

ガサツという言葉が人の姿になった状態が、私のお嬢様だと言えるでしょう。


 ジャージを着て、おでこにちょんまげをまで作って、パタパタとサンダルをつっかけてコンビニエンスストアに行くような……一見「お嬢様」には見えないようなお姿をなさるのです。


 さらに、私がいくら言っても、お部屋の中にお洋服のタワーを建築することをやめられず、お化粧品は出したら出しっぱなし、カレールーの存在も知らない……大雑把世間知らずエピソードは枚挙に暇がございません。


 そんなとんでもなくだらしがないお嬢様を支えつつ、日誌を気ままに書いていこうと思います。


 先日、小説を書くことがお好きなお嬢様に「小説のアイディアにもなることですし、日々の備忘録を記録しては?」と進言いたしました。


「なるほど、賢い!じゃあ、リリーがやっておいて〜!」


おやまぁ。

ご自分の日々の備忘録をメイドに任せる方がいらっしゃるでしょうか?

私はもちろん高らかに抗議いたしました。私はものを言うメイドでございますので。


「でも、リリーの日誌なら、私のことは絶対に書くでしょう?」


……完全にその通りでございます。

そんなこんなで、無力なメイドはお嬢様に言われるまま、筆を取ることとなったのです。


この日誌には、私の目を通したお嬢様の日常を書き連ねていこうと思っております。世間で言う「独断と偏見」というものです。


「リリーが好きなことを書けばいいよ。何を書いてもいいからさ〜」


 このように、お嬢様の言質は取っております。どうぞご安心ください。


 早速お仕えするお嬢様の愚痴を晒してしまいましたが、このようなことを堂々と言えるのも、お嬢様と私が比較的フランクな主従関係にあるからでしょう。


 ご主人様とメイドというよりも、血のつながっていない姉妹の片方が、一方的に世話を焼いているような状況が近いのかもしれません。


 お嬢様の大雑把な性格のおかげか、他のお屋敷のメイドと比べると、かなり自由のきく生活をさせていただいていると感じております。

 お嬢様としては、私に自由を与えるという名目で、日々の生活をうまくサボっているのかもしれませんが。


 お嬢様のサボり癖は天性のものだと言えるレベルなので、もはや私にはどうしようもないことです。

 あの恐ろしいほどのサボりの才能には、目を見張るものがありますが、どうかその才能と情熱を他のことに使って欲しいものです。


「私はサボるためならなんだってする!」


 ——我が愛すべきお嬢様の口癖でございます。


 一応成人しているはずの女性として、いかがなものかと。レディが軽々しく「なんだってする」だなんて、口にして良いものでしょうか?……否。

 さらにはその理由が「サボるため」だなんて、流石の私も頭を抱えることしかできません。しかし、我がお嬢様ときたら、サボるためならば、本当になんだってなさるのです。


 先日はスプレッドシートなるもので、お仕事の自動化をやり遂げ、空いた時間でお紅茶をお飲みになっていらっしゃいました。えぇ、もちろんジャージ姿で。

 まるでその姿は締切前の漫画家様のテンプレートとも言えるご様子。なんなら、我がお嬢様の方が、酷いお姿をしているやもしれません。


嗚呼……無力なメイドをお許しください。

お嬢様の「怠惰」への飽くなき探究心は、私ごときでは止めることはできないのです。


お嬢様を真人間にすることが、私の人生をかけた使命でございます。


どうぞ皆様、見守ってくださいまし……



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