毎夜幽霊と逢引中

panda de pon

第1話

 私は父の仕事の転勤で、新学期に合わせて神戸へ引っ越してきた。

近くに異人館もあり、噂ではこの辺りも昔は異人館が建っていたのではないかと言われているらしい。


 新居はマンションの3階、私の部屋は角部屋、西向きにも窓がある。

西向き=暑いはずなのに、何故かこの部屋薄ら寒い?涼しい?


 引っ越して最初の晩に事件は起った。その日は、疲れているのに眠れずにいた。

『ヤバイ、明日から新しい学校なのに。』焦れば焦るほど眠れない。

気付くと2時3分前になっていた。眠れぬまま目を閉じ、やけっぱちで羊でも数えようかと思案していた。


 時計がとうとう2時を知らせた、と同時に部屋の温度が下がり始めた気がした。

今は4月、そんなに急に寒くなることは無いはずなのに、何か着ようかと体を起こした。その時、部屋の片隅に白っぽい靄が現れた。

何だろうと見ていると、それは段々人の形を成してきた。

『ヤバイ、完全に幽霊じゃん。』

私は大声を出そうとしたが、動けない。

『これって金縛り?!』

しばらく怖い物見たさで見つめていると、背の高い半透明な少年が現れた。

ブラウンヘアの多分白人の少年だった。

何より驚いたのは、不思議と怖くないってこと。


 それから、2時に幽霊が現れることは日常となった。

長い時で2時間、短くて10分、幽霊は部屋にいる。

最初の日は、寝起きみたいにボヤっとした表情だった幽霊。

それが一週間たち、幽霊には不似合いな言葉だが不思議と表情が『生き生き』してきた。

そして半透明だだった体は少しずつ実体化していった。実体化すると、鼻筋の通った明るいブラウンヘアの白人少年だと分かった。

私は、幽霊に釘付けになっていった。

怖くない幽霊の変化が気になって、毎日夜が楽しみになっている。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 十日が経過し、とうとう幽霊は言葉を発した。

初めて話をした時は、流暢な日本語に驚いた。名前をJ(ジェー)と言った。

この頃になると、私は夜中の幽霊もといJとのおしゃべりを楽しんでいた。

「僕は両親と日本に移住してきたんだ。だけど、太平洋戦争に突入したので、帰国する予定だったんだけど、記憶があやふやなんだ。ただ、とても大事なことを忘れている気がする。」

「それを思い出したら、Jは成仏できるの?」

「わからない。」悲しそうなJの顔をみて、私も悲しくなった。

彼の笑顔が見てみたいと思った。


 Jのことが少しでも分かればと、私はネットでこの場所について調べたり、図書館で調べたりしてみた。

そして分かったことは、この場所にも過去には異人館があった、ただし戦争で焼失してしまったと。

肝心なここに住んでいた人のことについては何も分からなかった。



 引っ越してきて2週間が経った。私達は驚愕の事実を知った。

いつものように2時になるのを待って、Jと話をしていた。

私は立ち上がろうとした時、着ていたカーディガンを踏んづけてしまった。

よろけて、転びかけた私をJは受け止めた。

「えー!!!」

私達は同時に叫んだ。

うっかり叫んだもんだから、兄貴が慌ててやって来た。

「どうした?真夜中だぞ、大丈夫か?」

私は焦った、Jが見つかっちゃう。しかし、兄貴は全くJの方を見なかった、見えてない?

「ごめん、ゴキブリ出ちゃって。もう逃げちゃったんだけど。」

「夜中にゴキブリくらいで、騒ぎすぎだぞ。」

「ごめんなさい。」

やっぱり、兄貴には見えていない。


 Jは、再度に私に触れてみることにした。

私の心臓は、彼に聞こえるのではないかと思うほど、ドキドキしていた。

彼は恐る恐る、私の頬に触れた。Jの手は、とても冷たかったけど嫌な冷たさでは無かった。

私もJの頬に触れてみた。

「君の手はとても温かいね。」Jは目を細めて言った。

「君を見ていると、とても懐かしい気がするんだ。それと同時に・・・」

彼は言葉を濁した。私がいくら待ってもその続きは聞けなかった。


 その日からたまに、Jは私を見ながら考え込むことが増えた。

私も、その頃からJに記憶を取り戻して欲しいと同時に、私の傍から居なくなって欲しくないという相反する思いに悩まれていった。











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