どうということのない台詞集(女性)

 ※ 既存作から抜き出し及び改変したもの。


「はい、わかりますか? まずはお互いの名前からいきましょう。私はユベニー・セレーラン。ユ、ベ、ニー・セ、レー、ラン。この診療所の医者です」


2

 あたしは山神様のお嫁に行かねばならないのです。熊をとる家の娘として、熊をとりつくしてしまった家の娘として、あたしは行かねばならないのです。

 あたしはおそろしゅうございます。どうかお叱りにならないでくださいまし。父様や母様や、村の皆のための大切なお役目であるのはわかっておるのです。あたしの我儘で皆を飢え死にさせるわけにいかぬこと、わかっているのです。

 けれど、あたしは、あなた様を、お慕い申しておりました。

 どうか、どうか、あたしが奥山の庵へと入りましたら、夜のうちに一度、たったのいちど、お顔を見せに来ていただけませんか。

 そうすればあたしは、心を強く持つことができましょう。

 

 どうか、どうか、お願いいたします――


「なるほど? あんなにだったアルルくんも、今ではいっぱしのってわけね」


 あ、そちらのかた、そのままで。

 邪魔をなさらないでね?

 わたし、とっても気分がいいの。

 だから人間の方々はおとなしくなさっていて。

 でないと、うっかり潰してしまうわ。


 ね?



5

「騒動が起きて、アコーディオンはめちゃめちゃに壊れて、あのひとは右手の骨を折ったの。いまもまだ、満足に演奏できないの」


「あなたのせい」



 「忘れないでね。君はなんだって出来るんだよ。私の世界は、君を縛ったりはできないんだよ」  


「エーラさん。大人にならない薬が本当に効くのならなおさら、そんなものを子供に渡してはならないのよ。あなたぐらいの年齢で男の子も女の子も、大人に向かってどんどん体がかわっていくのよ。それは、その成長は、子供のもので、奪ってはならないものだわ」


「少しは大人になったのかしらね、私たち」


「じゃあ、今からきみを説得します。手に持った包丁を放っぽって明日も生きるか、今朝には死んでるはずだったから今死ぬか。一度きみを助けたわたしとしては、明日も生きるほうだと嬉しいかな。三つ数えるね。いち。に」



10

白金プラチーヌちゃんをひどい目に遭わせるような奴ぁ、このシャモーさんが第一胃と第二胃の間で永遠に反芻はんすうしてやるさね」


11

銀梅花ぎんばいかが好きだったはずなのよ。


 ふたり、ふたりのどちらかが、そうなのよ。ふたりいたはずなの。なのに、わからないのよ。思い出せないのよ。頭の中が霞んで、軋んで、どちらもわからないの。名前も顔も混ざってしまう。


 銀梅花の花も実も、好きで。小さな花に顔をくっつけて。丘の、丘の上で実をたくさん摘んだはずよ。そのはずなの。夏が終わって。ああ、夏がもうすぐ終わるわ。終わってしまう。だから、今日じゃなければいけなかったわ。次はまた、来月の中頃だから、そうしたら間に合わない。今日、やってしまわなければ。


 だって、もうすぐ、じゅ、十四才。そうよ十四才だわ。十四才になるの。来年には大人になってしまうのよ。


 だから渡して欲しいの。


 間違えないでちょうだい。夏が終わると、誕生日がくるほうの娘よ。そうよ、そうなの。夏が終われば、誕生日なのよ。十四才の誕生日なの。


 名前は……名前は……


 銀梅花ぎんばいかが好きだったはずなのよ。



11

 あたしはエーラ・パコヘータ。

 いろいろあって、魔法使いをすることになりました。

 でないとお母さんが死にます。


12

「はじめましてぇ。ハニと申しまぁす。ハマハッキ様の使ぃ魔でございまぁす。今朝はハリハリムシをありがとぅございましたぁ」


13

「我は人の身に猫をまとい、腹に異種の魂を宿す者。満ち、欠け、死に、また満ちる夜天やてんの眷属を名に頂く者。我が名はユエ。人のにして猫の、化け猫ユエである!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る