勇者はお国に帰りたいようです‼︎

若者

魔王倒したからもういいよね!

「行って!アイン!」

「勝て!アイン!」

「うぉぉぉ!!これで終わりだ!!魔王!!」

斬!!

「がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


これは、魔王を倒した一人の勇者の物語である。





俺はアイン、アイン・マルティネスという。

この世界の勇者として世界を支配しようとしていた魔王を仲間と共に討伐した。

まずは俺の仲間を紹介させてほしい。

ルーナ・クロフォード、クロフォード家の令嬢であり、魔法使いだ。

特殊体質により相手の心が読め、それを応用することで次の一手を予測することも可能だ。

そしてパーティの食事作りや家事を担当してくれている。

アイザック・ウォーカー、大剣使いで騎士団副団長でもあるエリートだ。

周りの状況を冷静に観察してルーナの読みから陣形を即座に作成する参謀でもある。

そしてパーティのキャンプ設備の管理担当も行っている。

どうだろうか。適材適所、各々の得意箇所を最大限に活かし足りないところを他人間が補う、これがうちのパーティであり、魔王を倒した編成だ。

ここまで話したし、流石にもういいよね?

ここまで勇者としての俺を聞いてくれてありがとう。

もう俺勇者じゃないし、これで魔王倒したから金もたんまり貰えるし、もう勇者やってる必要性無いんだよねー。

俺元々田舎者だったし、これで山にでも家買って残りの人生ゆっくり過ごそうかなーなんて思ったり。

「もうアイン、またそんなこと言って」

「うるさいな〜ルーナ〜」

「何がうるさいよ、大体勇者終わったからってまだパーティが解散したわけじゃないんだから少しはそれらしい振る舞いくらいしたらどうなの?」

「気が向いたらなー」

「まったく」

「まぁそうきつく当たってやるなよルーナ」

「ダメよザック、アインは少しでも油断したらすぐ調子乗るんだから。そのせいで魔王討伐戦だってギリギリだったじゃない。」

「まぁ確かにそうなんだが、それでも過ぎたことなんだしもういいだろ?これでパーティも解散なんだし、少しは楽しい話をしようぜ。」

「お前はどこまでイケメンなんだ、ザック」

「なんだそれ」

そうだ、こうして三人で笑っていられるのは、後少しなのだった。

三日後、俺たちのパーティは解散し、俺は田舎に帰るのだ。

久しぶりに帰れる反面、別れを寂しがる気持ちも少なからずある。

だからこそ、俺は二人に安心してもらえるよう、故郷で何不自由なくグータラするのだ。

「趣旨が違うでしょ!」

ボカ!

「あたっ!」






そして三日が過ぎ、公式解散式当日となった。

「ルーナ・クロフォード、アイザック・ウォーカー、そして勇者アイン・マルティネスよ。

此度の魔王討伐、大義であった。王として其方らのことを誇りに思う。そして今までの長きにわたる活動の終着したことを祝福し、この一行の全ての任務を終えることを許可する。長きに渡り、国のために仕えたこと、国民の代表として感謝する。改めて、ありがとう。」

「ありがたき幸せ。」

「では我々はこれで。」

「待て」

陛下に呼び止められた。

「何でございましょう?」

「どこへ行くつもりだ」

そう聞かれたので俺は

「実家へ帰るつもりですが」

「其方はこれからも勇者としての責務を果たすつもりではないのか?」

…は?

え、どういうこと?

俺そんなこと一言も言ってないんですけど。

「そうでした。我ながらうっかりしてしまいました。」

ここは丸く収めて後で言いに行く。

てことでリーナ、助けて。

終了後

「何なんだよそれー!」

そう言った瞬間二人が爆笑した。

「笑い事じゃねーよ!」

「予想外すぎて吹きそうになったからおあいこよ」

「よかったじゃないか、仕事ができて。」

「他人事みたいにしやがって。」

「「他人事だからな(だもん)」」

「こんなことで仲良くなるなー!」





そんなことがあったわけだが、どうしたものか。

とりあえずなんとかして俺は勇者を辞めたいんだが、まぁ辞めたいと言って辞めさせてくれる職でも無いし、後継もいない状況で辞めますはまず通らないだろう。

だったらなにをするか。

答えは簡単だ、いないなら探せばいい。

いないなら作る、それが一番手っ取り早く、確実な方法だ。

ただし誰を選ぶか。

そこが問題だろう。

はてさてどうするか、騎士団でいい感じのやつにするか?

あ。

「なぁザック、お前の弟って騎士団いたよな?」

「ん?あぁ、あいつ今は確か最高幹部だったはずだぞ。」

決まった。

この世界の騎士団は、下から順に兵士・幹部・最高幹部・副団長・団長という序列になっている。

現在の副団長はザック、騎士団長はジョセフジョセフ・ローガンという人がやっているため、

最高幹部が今選べる最大限なのだ。

ちなみにジョセフさんを抜いたのは単なる戦闘狂だからだ。

騎士団としてはいいが、勇者にはならない。

それに年齢のこともあるため、関係が近く、なおかつ実力のあるザックの弟、リアン・ウォーカーを選ぶのが一番効率がいいのだ。

後継の候補が決まった。

あとは行動するだけだ。

勇者の後継探しが始まった。

翌日、俺は王宮に行き、陛下と話し合う時間を取れないか聞いてみた。

「2日後であれば、問題ないかと」

「ならばそれで頼んでもいいか?」

「かしこまりました」

意外とすんなり予定が合ったため、後の時間で騎士団本部に顔を出す。

「リアンはいるか?」

「ここです」

「やぁリアン、元気そうで何よりだ」

「お久しぶりですアインさん、どのようなご用件でしょうか」

「君に少し聞いてみたいことがあってきたんだ。どこか話せる場所はないかい?」

「ではこちらに」

俺は個室に案内された。

「それでアインさん。聞きたいことというのは?」

「君は勇者になりたいと思うかい?」

「自分ですか、それはまたどうして」

「俺はこれで勇者を引退するつもりだ。しかし勇者がいないというのは残党どもにとって都合がいい話となる。だからこそ、引退はするが変わりはいるという状況にするのが一番打倒なところだろう」

「なるほど」

「引き受けてくれるかい?」

「話はとても魅力的なのですが、自分は騎士団本部の人間です。何かあった時、すぐに駆けつけられる状態でなくてはありません。それでもいいと言うのなら喜んで受けさせていただきます。」

「あぁ、それで構わない。」

「ではその話、受けさせてください」

「これからよろしく頼むよリアン」

「よろしくお願いします。師匠」

「師匠は止めろよw」

二人で握手を交わし、その日は終わった。

初日から上々の出来になった。

これで王にいい反応できるような理由を考えれば俺の仕事は終わりだ。

まぁあの王だし大丈夫だろうと信じたいが、考えといて損はないな。

この後俺の予想はしっかりと的中することになるが、今はそんなこと考えもしなかった。

そして二日後、面会の日がやってきた。

「私のためにわざわざ貴重なお時間を取ってくださりありがとうございます」

「久しぶりに二人だけの時間が取れたのだ。

そう固くするな、楽に行こう。」

「了解しました。」

「してアインよ、用とはなんだ?」

「今回は私から陛下に一つ提案が有り、面会を申し込みました」

「して、その案とは」

「既に魔王は倒され、徐々にではありますが平和が戻されつつあります。しかし魔王軍の残党が生き残っている今、この平和を守るには私では力不足を感じます。そのため、後継を作り、そこに私の全ての技術を注ぎ込んで国を守るための新たな勇者を作ると言うのはどうでしょうか?」

「ふむ」

陛下は少し考え込んで、

「よかろう、ただし、後継がいるのであればだ、目星はついているのか?」

「既に探し当て、確約も取れました」

「ならばよかろう、アイン・マルティネスの勇者の任を解き、勇者特別指導教官として任命する。その名に恥じぬ働き、期待しておるぞ」

「ありがたき幸せ」

「それにしてもうまく動いたな、アインよ」

やはりバレてたか。

「なんのことやら」

「其方はいらぬところに多くの労力を使う人間だからな。後継を用意したと言う話も嘘ではないのであろう?」

「どこまで読んでるんですか」

「何時も数手先を読む、それが交渉にも役立つことだからな」

「さいですか」

「期待しておるぞ、アインよ」

「まぁ始めちゃったもんは最後までやりますよ。」

こうして面会は終わった。






リアン・ウォーカーは自分の部屋に行き、考え込んでいた。

なぜ俺なんだ?

この国で陛下に並び絶対の信頼を誇る人間、勇者アイン・マルティネス。

そんな自分にとって最も尊敬できる相手に、今日一つの提案をされたのだ。

『勇者を継いでほしい』

この一言の時点で異例であることはすぐに分かる。

本来勇者の世代変更というのは先代が亡くなった後、国が騎士団から後継を見つけるというのが普通だというのに、先代であるアインは死んでないどころか平均寿命の半分である30ですらいってない。

そもそも彼が異常すぎるのだ。

本来なら三代かけてゆっくりと弱体化させ、四代目でやっと倒せるという世界の厄災、魔王。

今回は歴代最強の魔王で六代でようやく倒せると言われていたというのにたった一代で倒したという偉業。

勇者になる前の彼もすごかった。

入隊当初から騎士団最高幹部出会った兄を超える騎士団副団長入団、しかもそれを兄に譲ったという前代未聞の事態。

彼は数々の伝説を残してきた誰もが認める歴代最高最強の勇者なのだ。

そんな彼が自分に勇者の座を渡すと言ったのだ。

どんなに嬉しく、そして何か裏があるのかと疑ったことか、一度は引き受けた身、それだというのに今になって自分に勇者が務まるのかと不安になる。

『いや、大丈夫だ。アインさんが俺を選ぶというのなら、俺はそれに応えるだけだ』

そう思い明日に向け休息を取る。

『休まずに倒れでもしたら勇者以前に兵士失格だ』

今しがた考えていたことを頭の隅に追いやり、休息を取るのであった。







翌日、アインは騎士団本部に再度顔を出していた。

リアン・ウォーカーに会いにではなく、今回は騎士団長に用があったのだ。

ここで少し騎士団長のことについて紹介しよう。

ジョセフ・ローガン、騎士団長であり、王家剣術指南役を務める男である、顎髭の似合うダンディーな男性だ。

アインが勇者になる前から可愛がっており、アインも陛下に並ぶ信頼を置いた人間だ。

強さは申し分ないレベルであり、タイマンであればアインたちと引き分けられるほどの力持ち主である。

年齢は30歳、ちなみにこの世界の平均寿命は60なので、既に折り返し地点に来ている。

そのこともあり、今回の勇者後継候補から外していた人物だ。

「ジョセフさんはいるか?」

「団長なら訓練場にいますよ、案内しましょうか?」

「頼む」

そう言って俺は訓練場に向かった。

「団長!、アインさんが来てます!」

「おう!久しぶりだなアイン!」

「お久しぶりです」

「どうしたんだ、こんなとこ来て。騎士団に戻りたくなったのか!」

「違いますよ、リアンの件で用があって来たんです。」

「リアンがどうかしたのか?」

「今回、リアンに勇者を継がせることにしたので、騎士団に定期的しか来れなくなる可能性があるという報告です。あくまでも可能性ですが、

報告はしっかりしておきたいので」

「そういうことか。だが、お前の年で勇者が変わるというのは異例だな」

「魔王がいないということ、しかしその残党が残っていること、そして俺の情報が向こうにあることが、今回勇者の世代交代を起こした理由です。」

「なるほどな。いいだろう、リアンの件はお前に一任する。」

「ありがとうございま」

「ただし、とあるやつと手合わせして勝ったらだ。」

そう来たか。

「いいでしょう。その件、受けて立ちます。」

「そのいきだ。オーウェン!!、こっちに来い!」

「なんでしょう!父上!」

ん?父上?

そこに来たのは緑髪の好青年だった。

「紹介しよう。俺の息子のオーウェンだ。騎士団最高幹部に入れる程度には強い相手だぞ?」

「オーウェン・ローガンです。お初にお目にかかります、勇者様」

「アイン・マルティネスです。勇者様はやめてもらえるかな?オーウェン君」

「分かりました。ではどのように呼べばいいのでしょうか」

「アインでいいよ」

「ではアイン殿、これからよろしくお願いいたします。」

「よろしくね。ジョセフさん、手合わせって」

「あぁ、お前は今からオーウェンと戦ってもらう。」

なるほどな。感覚的ではあるが、体格からある程度の戦闘スタイルは分かる、これなら勝てるであろう。

「じゃあ剣を選んで来てくれ。」

「了解です」

「お前もだ、オーウェン」

「分かりました」

俺は騎士団に所属していた頃から愛用している訓練用の片手剣を持った。

相手の方を見やる。

俺の予測通り相手も片手剣のようだ。

剣術であれば勝てる可能性はあるがジョセフさんが出して来た相手だ、油断は出来ない。

『今から君は、俺の敵だ』

「用意はいいか。では…」

「始め!!」

ジョセフさんの掛け声で試合が始まる。

開始と同時にオーウェンが斬りかかって来た。

それをしっかりと受け止め、パワーや速度を観察する。

『パワーは良いがスピードはそこそこだな。これならスピード勝負でいけるだろう』

剣を押し返し、今度はこちらが斬りかかる。

パワー重視ではなく、スピード重視の剣術を用い、連撃を繰り出す。最初は翻弄されたが、徐々に慣れて来たらしい、弾き返して来た。

そのためスピードは緩めず今度はバリエーションや速度を変えて慣れさせないようにする。

その時点で反応ができなくなり、押され続けた結果敵わないと思ったらしく。あっさりと

「降参です。とてもじゃないが敵わない」

と言った。そのためジョセフさんが

「試合終了!!この勝負、アイン・マルティネスの勝利!!」

と宣言し、この手合わせが終了した。



「どうだった、オーウェン」

「さすが勇者ですね、手も足も出なかった。」

「すごいだろう。これが歴代最強の魔王をたった一代で倒した男の実力だぞ?」

「もう本当にすごいのは、あれだけ多くの剣撃を使ったというのに、まだバリエーションが残っているという事実ですね。しかも、あの人はまだ本気を出していなかった。」

そう、本気ではなかったのだ。

剣術を用いた戦法でありながら応用し続けられる技術、そしてあれだけのことをやってのけていながらまだ余裕を持てるだけのその才能。

『陛下が国の予算の三割を用いてまで取ろうとしていたのがよく分かる』

ジョセフは、そんなことを思いながらアインを見ていた。


「約束通り、リアンの件はお前に任せる。リアンのこと、頼んだぞ」

「まぁ教えるったって剣術と柔術くらいですけどね」

「後、たまには顔を見してくれ。お前の成長を見るのが俺の楽しみの一つでもあるんだ。陛下もお前のこと気にかけてたぞ」

「マジですか」

「あぁ、『あやつ、なかなかに面白い事を考えおったな。今後が楽しみだのう』って独り言言ってたしな」

まずい、物凄くめんどくさい。

「まぁまた顔出すだけで良いだろ。陛下もお前との会話がいい息抜きになってるって言ってたし」

「じゃあ、また行っときますね」

「おう、そうしてやれ」

「なんだアイン、もう帰るのか?」

「ザック」

「お前なんでここ来たんだ?」

「仕事終わったんで戻ってたらアインがなんか試合してるって聞いて来たんですよ」

「悪いな、もう終わった。」

「いや、アインにしては意外と遅かったな。

やっぱ鈍ったんだろ」

「ウルヘー」

三人でこれでもかというほど笑った。

こうして騎士団長への報告は、一部予想外の事態もあったが、割とスムーズに進んだ。








勇者が変わるらしい。

そんな噂が耳に入って来たのはつい昨日だった。

魔界ではこの噂により大混乱、一部デモ活動的なことまで起こったくらいだ。

「ここまで困惑するとは思わなかったわ」

「仕方ないさ、歴史上一度もない異例の事態なのだから」

「勇者レベルが二人いる。これはだいぶまずい状況ね」

「いや、噂が真実だとすればまだ勇者が変わるまで時間がある。それまでに攻め込めば勝機はあるんじゃないか?」

「リスクが高いな、勇者が選んだのは騎士団でも上位の人間だと聞く、そんなものが弱いはずがない。勇者になる前とはいえど現在の幹部級の強さはあるはずだ。」

「リスクを気にしている暇はないわ。攻め込むのだとしたら今しかないでしょ」

「…それしかないか。わかった、速やかに軍を編成し、作戦を計画しよう」

深い闇の中で、それは静かに始まった。

のちに戦争レベルとなるそれは、今はまだ、小さな火種でしかない。







団長からの許可も得た俺は、翌日もうすでに修業を開始した。

軽い剣術からややこしい柔術まで、一ヶ月で俺の教えられることを大体叩き込んだ。

リアン吸収力は素晴らしく、みるみるうちに成長していく様に俺は感服しながら、たまに王宮に顔を出し、陛下と会話するという生活を送っていた。

「これでもうお前に教えることはほとんどない。ここまでよくついてこれた。お前は勇者のレベルに達した。よく頑張ったな、リアン」

「ありがとうございます。アインさん。本当に今までのご指導、ありがとうございました」

これで帰ろうとしたその時、

「勇者アイン殿に伝令!!」

近衛兵が大声で俺を呼び止めた。

「どうした、そんなに急いで」

「勇者アイン殿、リアン殿。たった今、魔王軍の残党が、この国に襲撃をかけて来ました!」

「な!」

「リアン、落ち着け。数は」

「数は約五千!!中には最高幹部級と見られる魔族もいます!!」

マジか。

魔族にも序列があり、最高幹部級は魔王に次ぐ最も高い序列なのだ。

先の戦争で最高幹部級は三体全て残ったと聞く、それは今までの魔王級が三体あることと同意なのである。

「住民の避難は?」

「すでにリーナ殿の転移魔法によって完了しております!」

「わかった、よく知らせに来てくれたな。お前は陛下のところに行き、陛下をお守りしろ。」

「は!」

「リアン、いくぞ」

「はい!」

こうして俺たちの最後の戦いが始まった。




その頃、魔王軍

「おかしいわね、誰もいない」

「まさかバレたのか?」

「可能性はあるな」

「どうするつもりなの?」

「やることは変わらんさ」

「「殲滅だ」」

「全軍!活動開始!国を消し飛ばせ!」

「やめろ!!」

その声と共に、一人の青年が現れた。

鎧を纏い、大剣を担いだ青年だ。

「…は?」

「ちょっと俺と遊んでくれや」

「やだ、てゆうか誰よあんた」

「王国騎士団副団長、アイザック・ウォーカーだ。てめーらの大嫌いな勇者のパーティの人間だぜ?」

「へぇ、馬鹿が殺されに来たんだ。全軍!攻撃用意!対象、アイザック・ウォーカー!」

『今だ!ルーナ!』

「分かってるわよ。即効性トラップ設置。箇所確定、条件達成、発動!ヘルフレア!」

突如現れた火柱によって魔王軍の下っ端兵士が

焼かれ、断末魔もないまま灰も残らず消し飛んだ。

これによって魔王軍は当初の半数に減ってしまった。

「やってくれたわね。この小娘が!」

「悪いな、うちのダメ勇者が来るまで遊んでくれ」

「遊んであげるわよ、赤、青、あんたはアイザック・ウォーカーをやりなさい。ルーナ・クロフォードは私がやる」

「大丈夫なのか?黒」

「大丈夫よいけるわ、私をイラつかせたんだもの。それくらいの覚悟があるってことなんでしょ!」

「よっ」

「ちっ、避けるのはうまいみたいね。でもあんた支援系でしょ、どこまで続けられるかしら」

「私が一番信頼してる男が来たらかな」

「勇者のこと好きなんだ」

「ヘルフレア」

咄嗟に避ける。

「ちっ、図星かよ!」

「支援だけだったらこんなとこ来ないでしょ、ついにそんなことも考えらんなくなったの?頭悪いわね」

びき、

「殺す」

「やってみれば?」



「女は怖いね〜」

「それは同感してやるが、お前も余裕はないだろ」

「いいこと教えてやるよ、俺らの仕事は時間稼ぎだ。だから時間さえ稼げば俺らの勝ちってわけだ」

「それは勇者が来るってことか?」

「さぁな、もしかしたら勇者よりも面倒なやつかもな」

「なるほどな、ここでお前を殺して損はないわけだ」

そう言った瞬間、赤と青の攻撃が始まる。

「いい連携だが、相当でもないな」

「ちっ」

攻撃を全て返され、一度手を止める。

「来ないならこっちからいくぞ」

次の瞬間、来たのはあんな軽い言葉からくるはずのないほどの殺気を持った攻撃だった。

『おいおい嘘だろ、これで本気じゃないのかよ』

内心悪態を突きつつ攻撃を凌ぐ。

「もう一ついいことを教えてやる、お前らの大嫌いな勇者様は対策してもそれを超えられるくらいには魔王に余裕を持って勝ってたぞ」

「なっ」

驚くのも無理はない。

自分達の王は、歴代最強と称されるほどの実力を持った方なのだ。

倒したという知らせを聞いた時点で驚愕で我を忘れたというのに、余裕を持って倒したというのだ。

一体どこまで恐ろしいやつなのか。

「驚いてるとか悪いが、俺の役目は終わりだ」

「よく時間を稼いだアイザック!、下がっていいぞ!」

「言われなくとも」

ついさっきまで戦っていた相手が後ろに下がり、明らかにさっきの奴より歳のとった人間が前に出る。

『ただもんじゃあないな』

一眼見ただけでわかる。

研ぎ澄まされた肉体、洗練された闘気、見たものを恐れさせる気迫。

明らかに先ほどの相手よりも強かった。

『参ったな。こりゃ、死ぬな。』

そう思うと、なぜか笑みが溢れる。

「騎士団長もろとも殺すって選択肢がないようだが、作ればいいか?」

笑顔でそう言い切る。

アイザックもその笑みを返し、

「やってみろ」

2対2の攻防が、始まった。





「アインさん、すぐに行かなくてもいいんですか?」

落ち着きを取り戻したリアンが、そう言って来たので、

「俺たちの役割は強敵の戦闘だ、雑魚相手はザックやリーナがやってくれる」

「分かりました」

「…気になるか?」

「はい」

「…行ってもいいぞ」

「ほんとですか!?」

「あぁ。あんまし強くなりすぎた時の対処法として二人用意しておくってのがあったが、まだ知らせが来てないってことはそこまでの強敵じゃなかったってことなんだろう。てことで行ってもいいってわけだ」

「行ってもいいですか」

「死ぬなよ?」

「はい!」

そうしてリアンが戦場に駆けて行った。

俺ももう少ししたら後を追ってゆっくり行こう。

そう思っていた矢先だった。

「伝令!三種の高位魔族が合体し魔王級に!

戦闘を行なったアイザック殿、リーナ殿、ジョセフ殿が負傷!直ちに応援求みます!」

『なに!?』

リーナたちがやられた。

それは本来あり得ないことである。

リーナ、ザック、ジョセフさんは皆勇者級と称されるほどの実力を持っている。

そんな人たちが負けるほどの実力。

「わかった、すぐに向かう」

頭に浮かんだ不安を消し去り、全速力で戦場に向かった。








アインが戦場に駆けつける少し前。

「はぁ、はぁ、はぁ」

[どうした?、来ないのか?]

三人は一体の魔族と戦っていた。

それは自分達が今さっきまで戦っていたものであり、勝機が見えていたものでもあった。

高位魔族三体の合体。

それは本来あり得ないものだった。

そもそも合体というのは、意志を持たない魔物の特性であり、最後の手段である。

そして、今対峙していたのは意志を強く持つ高位魔族だ。

合体は意志が弱いほど成功率が高くなる。

高位魔族の合体成功率は優に2%を切る。

その条件下で成功したのである。

なんらかの工作をしたのは間違いないが、その圧倒的な強さのせいで何をやったのかがわからない。

[来ないならこっちからいくぞ]

攻撃が再開する。

受け止めるだけで精一杯。否、完全に受け止められてないのだ。

瞬く間に追いやられ、またダメージを受ける。

大技を受け、倒れてしまった。

[とどめくらい刺しておこう、眠れ]

「待て!」

[あ?]

魔族の腕が落ちる。

[誰だと思ったら勇者見習いか]

「その見習い殺されると思うと笑えてくるがな」

[死ね]

凄まじい攻防戦が始まる。

大技や物理攻撃を連発して確実に殺しにかかる魔族。それに対し、剣術や剣戟のみで受け流し続けるリアン。

二人の攻防は時間としては短く、しかし体感は永遠に思うほどに長かった。

最初に崩れたのはリアンだった。

理由は簡単だ。

魔族がリアンの剣術に対応し始めたのだ。

少しずつ、しかし確実に変わっていく戦況。

後一つのきっかけがあれば簡単にひっくり返せる次元だった。

きっかけが向いたのはまたしても魔族だった。

対応のコツを掴んだのだ。

そこからは早かった。

リアンの攻撃が全て返され、逆に魔族の攻撃が全て通用する。

善戦も虚しくリアンも倒されてしまった。

そうしたところでタイミングよくアインが戦場に駆けつけた。

「なんだよ、これ」

[今来たか]

「…お前がやったってことでいいんだな」

[だったらなんだ。怒りに身を任せ、俺に襲い掛かるか?]

「いや、怒りに身はまかせない。俺が背負うのは、思いだ」

[口だけは立派だな]

「口だけは立派にならなきゃいけないんだよ。

俺は“勇者”だからな」

最後の戦いが始まった。

開幕と同時に大技を仕掛けてきた。

俺はそれを避け、カウンターを狙う。

決まりはしたがダメージは多く見込めない。

こいつ、相当タフだな。

であれば。

俺は手数とスピード、そして剣技をコロコロ変えて攻め続ける。

すぐに対応できなくなった。

このまま変え続けながら攻めれば勝てると思ったからリアンが負けたんだな。

そこに攻撃魔法を纏わせた剣を織り交ぜる。

「ホーリーブレード」

ザザン!

「爆炎剣」

斬!

そこにさらに攻撃魔法も織り交ぜる

「シャイニングブラスト」

「ヘルフレイム」

絶え間なく攻撃を続ける。

もうすでに生き絶えてき始めた。

このまま押し切る。

最後まで油断はしない。

剣技を変え、魔法剣を織り交ぜ直し、再度ヘルフレイムを放つ。

「これで終わりだ」

斬!

[なぜだ!?なぜ勝てない!]

「お前は動き出すのが遅すぎる。それがお前の敗因だよ」

[まだだ、まだだぁぁ!!!」

徐々に朽ちていきながら、まだそんなことを吐いていく。

「頭は死んだ!!!医療班は怪我人の治療にあたれ!!誰一人死なせるな!!」

「「「は!」」」

かくして俺たちの最後の戦いは終わりを告げた。






あの戦いから数日が経った。

俺は医務室にて、ザックたちの見舞いをしにきていた。

「お前本当によく勝てたな」

「あれは倒し方がすぐ見つかったんだ」

「それにしてもあんたいつ魔法なんて使えるようになったのよ」

「リアンとの修業の時に必要だったから覚えたんだ」

「ほんと頭悪い」

「まぁこれでリアンに世代交代して、俺は田舎でゆったり暮らすかな〜」

「そのことなんだがな」

「ん?」

「俺らも一緒にいけないか?」

「いいけどなんで?」

「二人で話したの、このまま居ても本来の仕事はできないし、だったらアインのところに来た方がいいんじゃないかって。」

「てことで一緒に行ってもいいか?」

「別にいいよ。人数増えた方が楽しいし、俺が楽できるしな」

「そこは手伝いなさいよ」

口ではこんな会話だが、本心ではまた三人で暮らせることに、俺は心の底から喜んでいた。









「リアン・ウォーカーよ。此度の活躍、誠に大義であった。そしてアインよ、よくぞここまで育ててくれた。リアン・ウォーカーをここに勇者として正式に認め、勇者リアンに双龍特別勲章を授ける」

大きな拍手が巻き起こる。

これで勇者アインの物語が終わり、勇者リアンの物語が紡がれてゆく。

その行く末がどうなるのか、それはまだ白紙のページだが、きっとその未来は明るいであろう。








カルシ村

あの事件により廃村になり、家などがきれいに残されたままの村である。

事件以降、空き家になっていた物件を安く買うことが出来たため、今日はこの村に引っ越しにきていた。

間取りをチェックし、家具を運び込む。

ザックがいたため運搬自体は約3時間で終わった
























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