GoGoランプは夜空に輝く

ほらほら

夢よ轟け!!!

 『特――訓、開始ぃーー!!』


 けたたましい喧騒の中、レバーを押すとこれでもかという煽り演出のなかチャンスゾーンに突入する。まぁ要は大当たりの抽選場面だ。

 この台に狙いを付けて500ゲーム以上回した。出るには出るがATが続かない。ボーナスも単発、単発でもう30000円以上は吸われている。


「くそ!! 次こそは!」


 ボーナス(賞与の方)が入ったからと軽い気持ちでパチンコ屋に入ってしまったのが運の尽。いつか出るだろうといつまでたっても店を離れられなくなってしまったのだ。


 そして、今に至る……


「ああー、また外した!!」


 散々激アツ演出で煽っておきながら、呆気なく通常シーンに戻る画面。そこには一片の慈悲もない。


「なんなんだよ、あの台はよぉ」


 汗ばむ額をおしぼりで拭きながらトイレに向かう。と、便器の前でベルトを緩めている最中だった


『ガチャ』


 突然ドアが開き一人の女の子が現れた。


「おわぁっ!?」

「きゃああっ!?」


 驚きの声上げる俺と悲鳴を上げて飛び退く女の子。

 あっけに取られてナニをモロ出しのまま固まる俺。


「ここ男子トイレ……だよ?」

「ごめんなさい! 間違えました……」


 顔を真っ赤にして謝り慌てて踵を返す彼女だったが、俺はその後姿に見惚れていた。

 整った顔立ちに艶やかな黒髪、細い腰つきに綺麗なお尻、胸はそれほどではないがスタイル抜群である。

 一瞬の出来事だったのではっきりと確認できたわけではないが、かなりの美人であることだけは確かだった。

 ぶっちゃけタイプだ、俺がまだクソガキの頃なら躊躇うことなくアタックしただろう。

 現に今も、ナニがムクムクと……ゲフンゲフン。


「あっ、ヤベ……」


 三十路男がいい歳こいてナニをやってんだかな。


****


「はぁ~可愛い子だったなぁ。しかしあんな子がこんな場末のパチンコ店で何してんだ? 店員じゃないよなぁ制服着てなかったし……彼氏に連れてこられたのか?」


 洗面所でじゃぶじゃぶと手を洗いながら俺はそうひとりごちる。


 ちなみに俺が今いるのは新宿から電車で30分ほどの駅前にある場末の寂れたパチンコ屋だ。店内に無造作に置いてあるポットから無料ロハでインスタントコーヒーを作って飲めるくらいしか取り柄のない、明日潰れてもおかしくないような店。


 そんな店だが俺の大学生活を彩った、そこそこ愛着のある店でもある。

 ……多少給料が良いだけの廃人製造所に勤める事になった今現在までも偶に顔を出す程には。


 まぁ、そんなことより今大事なのは、このクソみたいなパチンコ屋からの脱出方法を考えねばなるまい。

 やはり、なんとか少しでも取り戻したいところだ。まあ、どうせ明日は休日だし時間はたっぷりある、こうなったらトコトン勝負してやろうじゃないか(負け組の思考)。


 とりあえずタバコでも吸いながら考えるか……

 と、そう喫煙コーナーで茶でもしばこうかと便所を出たときだった。


「おい兄ちゃんよぉ、 ちょいと聞きたいことがあるんだがよぉ?」


 背後からドスの効いた声で呼び止められる。

 振り向くとそこにはスキンヘッドの強面男が一人。


「は、はい? 何でしょうか??」


 突然現れた明らかに堅気ではなさそうな男の姿にビビッてしまう。

 俺は平和主義者なのだ。こんな奴と仲良くなるのはノーサンキューである。

 恐る恐る返事をする俺に向かって男は懐から1枚の写真を取り出しそれを俺に見せてきた。


「この写真の中の女の子見なかったか?」

「え?」


 それはさっき俺が見たあの子を写したものだった。


「まさかあんた、ストーカーとか言わないよね?」


 冗談混じりに言う俺の言葉を無視して男の視線は鋭さを増していった。


「見たのか、見てねーのか!?」

「み、見てません!」

「嘘をつくんじゃねぇッ!!」

「ひぃっ!?」


 男は怒鳴ると俺の両肩を掴み激しく揺すってきた。


「ほら言え! どこに行ったかわかんねぇんだよ! お前見たんだろ!?」

「すっすいません!? 知りません本当です! 知らないんです!!」


 ガクンガクンと頭が揺れるほどに揺らされたところで男は手を離した。


「チィッ」


 舌打ちをしてその場を後にする男、俺はその場にへたり込みしばらく動くことができない。

 やっと落ち着きを取り戻したころにはすでに15分ほど時が過ぎていて。


 ……あ、ヤベ。席が片付けられる。


 ****


「はぁ、一体なんなんだあいつ……ヤクザかな? それにしても何だってこんな目に……」


 そう呟きながらやれやれと腰を上げると、「あの……」と背後から何者かに呼びかけられた。

 振り返るとそこには先ほどの女の子。


「ごめんなさい! 私のせいで迷惑かけて…… 大丈夫でした?」


 彼女は申し訳無さそうに頭を下げる。

 どう見てもあのゴツい男の知り合いには見えない。


「ああ、大丈夫だよ。でもどうしたの君、あんな奴に追いかけられて、なんかしちゃった?」


 俺は心配になりそう尋ねた。


「いえ、その……」

「何なら力になるよ?」


 正直かなり怖い思いをしたが、この子の為ならば仕方がない。 可愛い子の前では見栄を張りたいのが男というものだ。


「じ、実は……

 あの人私の護衛の人なんです……」

「はい?」


 彼女の口から飛び出したのは予想の斜め上をいく発言であった。


「あの人が君のボディーガードってこと?」

「はい、私が安全に動けるように護衛を付けてくれてたんですけど……お父さんが」


 先ほどの強面スキンヘッドを思い出す。


「……君のお父さんって、……もしかしてヤクザ屋さん?」


 女の子に恐る恐るそう聞くと、 彼女は申し訳なさそうな表情で小さくうなずいた。


「マジかー、大変だね……」

「うん、いつもは優しいんだけど、ちょっと過保護気味で困っちゃいます」


 彼女はそう言って苦笑いを浮かべる。


「それより、君はここで何をしてたの?」

「あ、私は……」


 俺の質問に女の子は少し言い淀んでから口を開いた。


「塾の帰りに一人で街を見てみたくって車を用意していたさっきの男の人、哲司さんを振り切ってここに逃げ込んだんです。なんだかごちゃごちゃしてるから追手を撒けるかと思って……」

「そっか……」


 確かにここはごちゃごちゃしている、そして人も多い。

 きっとうまく逃げることができるだろうと踏んだわけだろう。

 まあ俺が彼女の立場で、あんな大男に付きまとわれてもそうしたかもしれないが。


「それで、さっきの男に追いかけ回されてたんだなぁ……。災難だったなぁホント」

「はい……」

 俺の言葉にしゅんとする彼女。

 そんな彼女を見ているうちに、俺はふとある疑問が浮ぶ。

「ん、塾って事は未成年!?」

「あ、はい。まだ18歳ですけど……何か?」

「えっと~それはまずいんじゃないか? パチンコ屋は未成年入れないし……」

「あ……」


 俺の指摘に今気づいたといった様子の彼女、どうやら本当に考え無しにここまで来たらしい。


「……すいません、知らなかったんです……早く追手を撒きたい一心だったから……」


 彼女は再度頭を下げると泣きそうな顔になった。

 その姿があまりにも可愛くて庇護欲をかき立てられてしまう。


 だがこのままではまずいことになる気がする。

 警察に捕まるか、それとも彼女に手を出したとして彼女のお父さんに詰められるか……


 どちらにせよあまりいい未来は待っていないように思えた。

 だが彼女の表情を見ていると、このまま彼女を置いて立ち去る選択肢はないように思えた。


「わかった! とりあえずここから離れよう!」

「え?」


 俺の言葉にキョトンとした顔をする彼女と向き合う。


「一緒に来てくれないかな!?」

「え!?」


 俺の唐突な提案にさらに驚いたような顔をする彼女。


「俺もこの店出るつもりだったしさ、良かったら送っていくよ?」

「え? でも……なんで?」


「君のお父さんじゃないけどこの時間に女の子の一人歩きはやっぱり危ないからね。

 でも見てみたいんだろ夜の街、さっきの男よりは目立たないと思うよ……用心棒として」


 そう俺が彼女に呟くと彼女は少し驚いたような表情を浮かべ、


「ありがとうございます」


 とはにかむのだった。

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