薬爵の錬金術師
第67話 食材探索の旅の成果
あれからエープトルコの
そして、その時におでんを作っていないことに気がついてしまった。はんぺんやちくわ、さつま揚げなどは、白身魚をすり潰して作っているから川魚でも作ろうと思ったらできるけど、実際にやってみたらイマイチだったわ。やはり海に出て合う魚で作らないといけないようね。
「そろそろベルゲングリーン王国に戻らないとまずいわね」
正直言ってエープトルコの農作物は私にジャストフィットし過ぎた。このままだといつまでも居続けてしまうので、名残惜しいけど出発することにしたわ。稲作用の図面も滞在中にドラフターで書きまくったし、あとはテッドさんに見てもらって発注するだけよ。
「姫さんから光報が届いていたぞ」
どれどれと紙を開いてみると、キルシェからポーションの返礼として大量の贈り物が届いている、一体何をやったという問合せだった。何って上級ポーションをばら撒いだだけよ。
「あとで光報で返信するとして、帰りましょうか」
「ああ、夏の旅行の候補地もいくつか出ていることだしな」
なんと、それは可及的速やかに帰国しないといけないわね。夏に私自身が楽しめるように、そろそろ御令嬢たちの夏のデザインでも描き始めましょう。
◇
ベルゲングリーン王国に帰国すると、早速、エリザベートさんに呼び出されて上級ポーションを配りまくった件について詳しく説明させられていた。
「それでは、上級ポーションが簡単に作れるようになったと言うのだな」
「はい、白糸の滝の神仙水を使うと一段上のポーションが作れるようです」
そう思っていたのだけれど、情報共有も兼ねて試しにとライル君やカリンちゃんに作ってもらったところ、一段上のポーションはできなかった。神仙水の効果がなくなったのかと思って私が作ってみるとそんなことはなく、やはり中級ポーションの材料で上級ポーションが作れた。
「どうやら、メリアだけのようだな」
どうしてかしら。ひょっとしてフィルアーデで聞いた
「正確には、神仙水に微量に含まれる
後世のフォーリーフの錬金薬師たちが私と同じことをしようとしたら、加護付きの人を連れてきて瓶を握ってもらわないといけないわね。でも再現性を担保できてよかったわ。
いずれにせよ、また錬金薬師として出来る幅が広がったということで、内々には情報共有するけれど、どこに流れるかわからない市場には上級ポーションを滅多に流さないように注意された。
「ところでキルシェの竜騎士に会ったそうだが竜はどうだった?」
「はい、まだ可愛い年頃で頼りない様子でした」
エリザベートさんはブレイズさんに目配せをすると、ブレイズさんは何故か勢いよく首を横に振っていた。
「まあいい。その件は別途報告してもらうとして、キルシェの外交筋からメリア宛に干物が届いていたので、今日、辺境伯邸に送らせておいた」
「ありがとうございます!」
どうも石のように硬いらしく、叩き合わせるとカンカンと乾いた音がするそうだから食えるかわからんというエリザベートさん。
ふっふっふ、むしろそれが欲しかったのよ。普通の柔らかい干物だったらどうしようかと思っていたところだわ。テッドさんにカツオブシを削るためのカンナでも作ってもらわないといけないわね。
「ところでメリアはどこか欲しい土地とかはないのか」
へ?以前、街にいた時のようなお
「いえ、今のところは特に。強いて言えば生家の近辺にある薬草の群生して生えている高原みたいなところがあれば、踏み荒らされないように確保したいですね」
よくわかったと言って、用は済んだとエリザベートさんは部屋を後にして行った。
◇
「テッドさん、久しぶり!」
「おう、メリアの嬢ちゃん。旅は楽しんできたか」
まあまあねと返事をして、早速本題とばかりに、旅先で作った稲作用の農機と先ほどのカンナの製作を依頼した。
「これで、より質の良いコメが取れるようになれば、日本酒ももっと美味しくなるわよ」
「よし、分かった。こいつは俺に任せてくれ!こっちのカンナってやつは木工用として普通に店で売ってるから持っていきな」
カンナは木材加工用途で既にあったのね、嬉しい誤算だわ。私はカンナを念のため三つほど受け取り決済を済ませて、テッドさんの店を後にした。
◇
「これはまさしくカツオブシじゃないの!」
鑑定するとカツオではなくカール魚という沖合の魚らしいのでカールブシなのかも知れないけど、この際、気にしないわ。カチコチになるほど乾燥させた魚の身を取り出し、テッドさんの所で買ってきたカンナで削り出してみると、懐かしいカツオブシの匂いがした。
そんな木材加工をするかのような私の様子に、ブレイズさんは少し引き気味に尋ねてくる。
「おいおい、これ食えるのか?」
「これは
論より証拠と調理場に行くと、早速、それらの粉物やうどんを作ってみせた。やはり、今までと一味も二味も違うわ!
「うはっ、うめえ!こいつはビールが手放せないぜ!」
「なんということだ。今までのものが不完全だったと思わせるような完成された味わいだ」
無くても食べられるけど、一度、食べてしまったらカツオブシを振り掛けずに食べるなんて考えられないわよね。それに、うどんの汁とかもカツオブシ無しじゃ厳しすぎるわ。
「これで
「まさに、これは手放せないものになりそうです!」
料理長は感動し、ブレイズさんは返事もせずにガツガツと食べまくっている。私は広大なカツオブシの適用範囲を思い、今までの料理の更なる進化の予感を感じて打ち震えた。
それにしても、カツオブシがあるということは使い方も知っているのでしょうから、キルシェの郷土料理には期待できるのかもしれないわ。機会があれば堪能してみたいものね。ただ、カツオブシを作っている西海岸は大陸の反対側だから中々厳しいかもしれない。
次の食材探索の対象はキノコ類とか海藻かしら。海藻の成分は合成できるけど、キノコは作れないから優先順位としてはキノコが先になるわね。でも毒キノコもあるから慎重に探さないといけないわ。
「次は香り高いキノコや旨味に優れたキノコとかを探してみたいわね」
そうしたら、和食の鍋や煮物やお吸い物も引き立つし、洋食でもグラタンやソースの付け合わせれば、更に美味しくなるはずよ。そんな私の言葉を料理長は逐一拾ってメモをとり、こちらでも探しておきますと言うその姿は、探究心に燃えていた。
本当にどうして一つ見つければ、また、あれもこれもと欲しくなってしまうのか。人間の三大欲求の一つである食欲とは、底知れないものね。
私はカツオブシという新たに得た食材が演出する香りと風味に包まれながら、限りない食の可能性とこれからの未来に期待に胸を膨らませるのであった。
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