第45話 一般基礎化粧品の起こり

「ということで美肌ポーションは王家から贈ることになりました」

「そうですか・・・」


 受付嬢の人は残念そうにしたけど、国の都合なのだから仕方ないわよね。


「はあ、なんとか言い訳を考えないといけませんね」

「錬金術によるポーション無しでも、薬効成分を使ったスキンケアをすればそれなりに効果が見込めるはずよ」


 ただ、そちらは効果がポーションほど明確に出るわけではないので薬師として出すわけにはいかないけど、植物性のオイル、植物性乳化ワックスにあとは精製水と好みの香りをつける為のエッセンシャルオイルを適量混ぜれば、化粧をする前の素肌に潤いを保つ乳液は作れるでしょう。


「なるほど、ではそれを特許登録して売り出しましょう!」

「えぇ!?」


 1,300年前くらいの先人の成果に似たようなものがあるけど、そんな化石のようなスキンケア用品を特許にするなんて気がひけるわ。第一、フォーリーフの名前で登録するものが不完全な薬なんて、師匠に申し訳が立たない。そういって断ろうとすると、


「では匿名制度を利用しましょう」


 などと言い出した。


「ちょっと!そんなものがあるなら最初から特許申請を全て匿名にしたわよ」


 とにかく、私は関わらないし名前も出さない、製造から販売まで全て商業ギルドに委託するという条件で乳液やフェイシャルクリームを始めとした基礎化粧品の特許登録をした。


「ブランド名はメリアスフィール様の名前を一部使わせていただいてメリーズとして売り出しますね!」

「わかったわ、好きにしてちょうだい」


 ただ、人によってアレルギー症状が出る場合があるから、使用前に手の甲で試して二、三日して問題がなかったら使用するように説明書きを書いて置いた方がいいわ。それでも問題が起きたら直してあげるから申し出てもらうようにお願いした。不完全な薬でアレルギーを起こされたら気分が悪いわ。


「ところで顔の皮をいで中級ポーションを使って再生したら若返りするんでしょうか」


 ブフゥー!恐ろしいことを言い出したわね。でも、長い歴史の中で奇特にも試した人がいるので答えは知っている。


「再生直後は綺麗だけど、細胞自体が若返りしたわけじゃないから、傷を治すのにポーションの地脈の力を使い切った後は、水分保持ができずに年齢相応の肌に戻るわ」


 ついでに言えば、細胞分裂で寿命が減る分、やり過ぎると老化が早まる。とてもじゃないけど、痛みに耐えて行うようなことじゃない。火傷のケロイドを低級ポーションで治そうというのなら有効だけど、中級や上級ならそのままでも治せるので痛いだけよ。


「なるほど、よくわかりました」


 ふぅ、鳥肌が立ってしまったわ。でも、これで一般庶民も普通のスキンケアはできるようになるのだから、あながち悪いわけでもないかもしれない。ハンドクリームは男性の職人にも需要はあるでしょう。

 私はそう割り切って商業ギルドを後にした。


 ◇


「はあ、コタツに入ってビュッシュ・ド・ノエルでも食べたい」


 なんの脈絡もないけど、冬になったらコタツに入ってゴロゴロしたいわ。洋館でまったくそぐわないけど、掘り炬燵の台座ごと魔法鞄で出し入れすればいいはずよ。構造も簡単なので、早速、ドラフターで図面を書き上げてテッドさんに渡すことにした。

 料理長には色鉛筆で書いたロールケーキと、それをチョコレートクリームで木材にデコレーションする概要図と使用する食材、レシピを書いて冬用のお菓子として渡した。

 あとは年が変わる前後で正月気分を味わいたくなったので、栗きんとんと、豆をすり潰して作る和菓子の概要とレシピを伝えた。あんパン、あんまん、温泉饅頭、同じく栗饅頭、栗羊羹、芋羊羹、串団子・・・は米がない!小麦粉で作るすいとんじゃ代わりにならないわよ。やっぱり米無しで和菓子は無理があるかもしれない。おはぎ、大福、山苺大福も全て封印だわ。


「豆を使ったお菓子にこんなバラエティがあるとは」

「湿地帯に生える細長い白い半透明の粒みたいな作物があったら更にレシピが広がるので探索をお願いします」

「わかりました。雨の季節が長い国があるので、その辺りの商人に当たってみます」


 なんだか梅雨みたいなイメージね。ここらへんは梅雨の時期がまったくなくカラッとしているから、気候が違うほど遠く離れている国になるのかしら。あまり遠いようだったら、いよいよ空輸の実現を考えないといけないわ。


 ◇


「というわけで空を飛びたいわ」


 テッドさんは渡したコタツの図面を取り落として口をあんぐりと開けてブレイズさんの方を見た。


「前にも言ってたから正常だぞ」


 失礼ね、気が触れたとでも思ったのかしら。私は、以前作った飛行船を魔法鞄から取り出し、火炎の魔石で軽い空気を中空の船体に溜めることで浮かばせプロペラで推進する仕組みを説明した。


「嘘だろ?ほんとに飛んでやがる」

「いきなり飛行機は難しいから飛行船が現実的かしら」


 原理的には見ての通り、温度差による空気の比重の違いを利用して空に浮かせ、プロペラで推進させるのよ。プロペラはなくても前に見せた風の魔石の出力を大きくしたもので代用できるから、蒸気機関を載せてプロペラを回さなくてもなんとかなるかもしれないわ。


「そして、まだ見ぬコメを空輸して食べるのよ!」

「はぁ、こりゃ随分と遠大なプロジェクトだな」


 また食い物がなところがメリアの嬢ちゃんらしい、そう言ってテッドさんは笑っていた。それ以外に飛行船を動かす理由なんて何があるというのよ!


「飛行船の話は今は話半分に聞いてくれればいいわ」

「おう、正直言ってぶったまげたが、いつものことだな」


 だが面白い、そう言ってテッドさんはニカッと笑った。できることはわかってるけど、パラシュートとか、錬金術で液体水素を封入したカプセルでも用意して非常用ゴム風船でも作るとか、安全対策をしないとね。とにかく、生きてさえいればポーションで治せるわ。だけど、施工の規模が蒸気船並だから個人でつくるのは難しいかもしれない。


「それに比べてこいつはえらく簡単だな」

「冬にゴロゴロしてゆっくり過ごすための家具だからね」


 四人でトランプ・・・えっとカードを使ったゲームをしたりして過ごすのよ。説明の途中で気がついたけど、トランプとかインドアの娯楽ゲームをまったく作ってなかったわね。今度作って持って来るわ。

 私は娯楽道具を作る約束をしてテッドさんの店を後にした。


 ◇


 前世から現在に至るまでに既に世に出ているものがないかの確認にエリザベートさんにトランプ、リバーシ、将棋を見せてルールを説明して試していたけれど、


「参りました」


 まったく勝てないのだけど?負ける理由がわからないわ。


「これはなかなか面白い遊戯だな」


 エリザベートさんによると、トランプは私が顔に出過ぎで勝負にならないとか。じゃあリバーシと将棋はどうなっているのよ!


「先を読まな過ぎじゃないか?」


 なぜ20手先くらい読まないのかとか言い出すエリザベートさん。はい、わかりました。地頭が違いすぎるということが!脳筋じゃなかったの!?


「兵を預かる将軍が薬師に軍の指揮で負けるわけがなかろう」


 そうかなぁ。私はすごく納得いかなかったけど、似たような遊びがないことは分かったからもういいわ。エリザベートさんは実に興味深い遊具なので、相手になりそうな者に配るから100組くらい用意してくれと言って去っていった。

 まったく相手にならなくてスミマセンでした!私はその後テッドさんにサンプル品を渡し、王家宛てに100組の複製を納入するように伝えた。

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