第15話 錬金薬師の弟子取り

「私がメリアスフィール・フォーリーフ、ファーレンハイト辺境伯直属の筆頭錬金薬師よ」


 楽しいロマン武器作製も束の間、とうとう、三人の弟子との顔合わせの日がやってきていた。年若く、というより幼さが多分に残る私を前に、三人の弟子候補さんたちは一様に困惑の表情を浮かべていた。

 そんな微妙な空気を和らげるかのように、研究棟の管理をするフォーリン伯爵が発言した。


「メリア嬢はこの年で四重合成の錬金術を会得しており、最高品質の上級ポーションを同時に二つ作ったということだ」


 それらの知識を伝承していくにあたり、地脈を利用した伝承が可能な相性の良い錬金薬師を弟子として、錬金薬師のライブラリを継承し、うまくいけば実技の指導もしてもらえると辺境伯から協力の約束を得ている。

 フォーリン伯爵の言葉に困惑の表情を解いた二人は、ライブラリとか、継承はどのようにするのかなどと質問をしてきたが、一人だけ憮然とした表情で不平を漏らした。


「こんな小娘にポーションなど作れるはずがない、はったりだろう」


 そう発言したのは、やはりというか恐れていた通り、子爵家の貴族の三男坊だった。ついにこの時が来てしまったわ!


「しかしピート君、彼女の腕は辺境伯が保証している」


 なおも言いつのろうとするピート君に、ふと思いついたように、伯爵が私に実際作ってみせたらどうかと提案してきた。私は材料が勿体ないので中級ポーションならと申し出ると、伯爵はそれでいいと了承した。

 メリアは腰のポーチから薬草と瓶を取り出し、自分の四方に瓶を置いて、両手の親指と人差し指の間に一本ずつ、中指と薬指の間に一本ずつ癒し草を手に持ち、錬金を始めた。


「四重魔力水生成、水温調整、薬効抽出、薬効固定、冷却・・・」


 チャポポポポン!


 出来上がった四本のピンク色をした中級ポーションを伯爵の傍の女官に渡した後、改めて伯爵の方に向き直り告げた。


「どうぞ鑑定を」


 胸に手を当て錬金薬師としての礼を取り目を伏せる。伯爵は傍らの女官に鑑定を促した。


「全て最高品質の中級ポーションです」

「そんな馬鹿な!」


 ピート君は女官から引っ手繰るようにして中級ポーションを奪い取ると、自分で鑑定をかけたようだ。


「ありえない」


 愕然とした様子のピート君に結論は出たと判断したのか、伯爵は話をつづけた。


「彼女は見ての通りの実力者だ。見た目や年齢にかかわらず、先達として敬うように」

「「わかりました」」


 ピート君以外の二人はすぐに返事をしたが、ピート君はそのままぶつぶつとつぶやいて声が届いていないようだった。私はブレイズさんの方を向いて問うような目を向けたが、ブレイズさんは軽く頭を振った。構わないでおけってことね。

 こんなの相性が良い訳ないわよ、やる前から結果が見えてるわ。


 ◇


 その後、地脈を利用するため地面に触れられるよう、中庭の木陰にやってきた。


「木の根元の前で、ひたいひたいを付けて相性をはかります」


 それで継承できるかどうか判定できるというと、ピート君が自分が先にやると言って前に出てきた。まあ、いいけどね。


「膝をつけて両手を胸の前で合わせて、心を落ち着けて瞑想めいそうしてください」


 目を閉じて瞑想めいそうを始めたピート君に額をつけ、地脈を通して、例えて言えば爪の先ほどというほんの一部のライブラリ共有をこころみる。


 バチッ!


 痛ったぁ・・・当たり前だけど、相性最悪じゃない!弾かれるなんて初めてよ。


「えっと、無理でした」

「嘘をつけ!」


 掴みかかろうとしてきたところを、余裕の体裁きで避けると、ピート君はバランスを崩して転んだ。遅れてブレイズさんが護衛として私の前に立った。凝りもせず向かってこようとしたピート君をブレイズさんは止めて強制退場させていった。ふぅ・・・困難ボンボンは去ったわ。


「無理かもしれないけれど、師弟でのライブラリ共有の儀式は、母のように、あるいは姉のように、または妹や娘に対するような親愛の情を向けて臨むのが普通なのよ。だから同調は通常は血縁で行われ、赤の他人には難しいの」


 それでも私もそうだけど、血のつながりがなくても伝承できた実例はあるのよ。そう言って、私は残った二人に知識の伝承の儀式についての心構えを話した。

 地脈に触れられる素養を持ち、同調できる波長の似た親しいもの同士の間でのみ知識伝承は成り立つのだ。少なくとも反感を持つ場合は脳に衝撃が走って物理的に痛いから、やる前から言ってくれると助かる。そう説明した私に神妙に頷く二人。

 とりあえず、残った二人は弾かれることはなさそうね。


 一安心した私は、続けて17歳くらいの女の子と15歳くらいの男の子と同調の試しをした。


「う~ん、男の子の方で、もしかしたらうまくいくかも?」


 女の子の方は弾かれはしなかったけど波長が遠すぎた。それを聞いた女の子はがっくりしていたけど、ごめんなさい、悪気わるぎはないのよ。

 今後の予定として、同調の確率を少しでも上げるため、しばらく共に過ごす必要があると告げた。先ほど話した親愛の情を高めるということだ。


 ◇


「一時はどうなることかと思ったけど、一回目で一人可能性がある子が見つかるなんてラッキーだわ」


 20人や30人に一人、つまり3パーセントから5パーセントの狭き門なのよ。そういう私にブレイズさんが尋ねてきた。


「これからしばらく一緒に居るって寝ても覚めてもか?」

「まあ、それが望ましいというだけで嫌なら仕方ないわ」


 そう言って狭き門を通り抜けた男の子、ライル君に目を向けると、彼は慌てたように答えた。


「嫌じゃないです!」

「そう、あくまで確率を上げる処置なので難しくなったら言ってね」

「はい」


 ということよ!とブレイズさんに向き直って親指を立てた。ブレイズさんは、顔に手をあてて溜息をつきながら独り言ちた。


「こりゃ、数年もすれば女性以外伝承禁止になるところだった」

「なんでよ、別に波長が合えばかまわないでしょ?」

「お前な・・・」


 と、ブレイズさんは私に振り向き、例えば18歳男子と15歳女子が寝ても覚めても一緒など問題だろうとのたまう。「主に思春期男子の理性が持たない!」そう言い切るブレイズさんに、その必要性をく。


「仕方ないじゃない!ライブラリを共有した師弟は、地脈を通して常にかたわらに師匠のぬくもりを、あるいは、かわいい弟子を感じて生きていく様になるのよ」


 だから、数人ならと人数を絞ったんじゃないの。何十人も常にかたわらにいるように感じていたら、大家族の肝っ玉お母さんでもなければやってられないわよ!


「いや、メリアはむしろ肝っ玉お母さんになるだろ」

「どういう意味よ!」

「そのままの意味だ」


 そんな私たちのやり取りをみておかしくなったのかライル君は笑った。そういえばライル君の自己紹介を聞いていなかったわ。


「僕は地方の教会で孤児として育てられ、錬金薬師の素養を見出されて王都に連れてこられました」


 なるほど、私も両親は亡くなって、街を、辺境伯領を、そして王都に点々としてきたことを話して聞かせた。


「もしうまくいったら、私を姉・・・は無理でも妹でもなんでも家族のように思ってくれると嬉しいわ」


 そう言って笑いかける私に、ライル君は小さく頷いた。


 ◇


 そうしてポーションを作ったり、鍛冶屋に行ったり、商業ギルドに行ったり、魔導具でクッキーを作てあげたりして、数週間が経過した後、私はライル君に知識伝承の儀式を行った。


「これからは、私が家族よ」

「ありがとうございます、メリア師匠」


 なんと一発で上手くいったわ!私が地脈を通して師匠から受け継いだ書庫ライブラリを、ライル君も閲覧できるようになっていた。家族に近い親愛の情を抱かないとできないはずなのに不思議だわ。そう首を傾げている私にブレイズさんは告げた。


「そんな条件なら、上手くいって当たり前だろ」

「なんでよ?」


 それは俺の口からいうことじゃないな、そう言ってブレイズさんは手を振った。そんな私たちの前で、いま、ライル君が中級ポーションの作成を試みていた。


「魔力水生成、水温調整、薬効抽出、薬効固定、冷却・・・」


 チャポン!


 どれどれと鑑定で見てみる。


 中級ポーション:やや重い傷を治せるポーション、効き目普通。


「ふむ、普通ね。体の鍛え方が足りないのかしら」

「そうですね、地脈の通りが悪いみたいです」


 これから毎日王都の周りで走り込みをしますと、相槌をうったライル君にブレイズさんは驚いた声を上げた。


「錬金薬師は体を鍛える必要があるという話は冗談じゃなかったのか!」

「当然でしょ、私をなんだと思っていたの」

薬師」


 なんですって!と怒るメリアから逃げるように席を立つブレイズの様子を見ながら、ライル君は心の底から笑いを上げていた。

 こうして、一度、錬金薬師の血脈が絶えたこの世界で、二人目の錬金薬師が誕生した。

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