第12話 王宮の研究棟
「あぁあああ!なんで起こしてくれなかったのよ」
折角楽しみにしていた旅のディナーがおじゃんになってしまったわ!そう声を張り上げるメリアにブレイズは淡々と答える。
「ベッドで眠るレディを起こすなど無粋な真似はできまい」
「そのレディに朝ゲンコツを落として起こしたのは誰よ!」
ブレイズさんはそっぽを向くと、朝食は食べられたのだからそれで良かろうといった。メリアは気がついていなかったが、度重なる移動で疲れが溜まっていたのだ。ブレイズはそれを考慮してギリギリまで寝かせてくれたのだった。
「これから馬車を走らせて夕方前には王都の門に到着する予定だ」
だから疲れたら馬車の中で適当に寝ておけという。そんなの無理だわ。こんなに揺れる馬車の中で寝られるわけないでしょう。馬車もバネやスプリングをつけてもっと自動車みたいに快適にしないとダメよね・・・ん?火炎の魔石と冷却の魔石で蒸気機関を作ったら魔石で動く自動車ができるのかしら。
「馬の力に頼らず魔石で動く馬車を考えついてしまったわ」
「なんだって?」
水を入れる、火炎の魔石で蒸発する膨張力でピストンが押し出される、下部に設置した冷却の魔石で蒸気が冷やされる、蒸気が冷えてピストンが戻る、戻る圧力で蒸気を吐き出し新たに水を吸い込む、最初に戻る。理論上は水の供給と魔石の魔力が続く限り動き続けるわね。でも、精巧な機械を作れる職人が必要だから、これから行くところを考えると実現は難しい。
「考えついても実現できる環境ではなくなってしまったわ」
「・・・物によっては都合をつけられなくもない」
何せ王都というからには腕のいい鍛冶師が集まっているからな。そういうブレイズさんの横顔を見て、もし実現したらできることを考えると、ほぼ産業革命と同等のことができることがわかった。上下と回転エネルギーさえ得られれば鉄道だろうと、蒸気船だろうと、産業機械だろうと、製粉機などの農業機械だろうと思いのままよ!やばいわね。
「まあ慣れてきたら頼むわ、きっと凄いことができる」
でも需要によっては錬金術師たちは馬車馬のように働かされ、スローライフの道が閉ざされてしまう。
神さま、フィリアスティン様、あなたの世界、錬金術に依存しすぎよ。私がやらなくても、私のライブラリを受け継いだ直弟子たちは、この知識に気がついてしまうだろう。この錬金術師の知識継承システムも人の一生では辿り着けない知識を伝承していく分には便利だけど、行き過ぎた知識も伝わってしまうのが難点よね。
そんなことを考えているうちに単調な馬車の揺れに眠くなって意識が落ちた。
◇
揺らされて起きると、既に王都に着いていた。人間、案外どこでも眠れるものね。
「王都の辺境伯の館に到着した」
馬車の窓から外を見ると、広い庭に夕日に照らされる建物が見えた。さすがに大貴族ともなると、仮の館でも立派なものなのね。ブレイズさんに連れられて王都の邸宅に入ると執事とメイド長に挨拶されたあと、部屋に案内された。辺境伯領よりは狭いけど、それでも18畳くらいの広さに天蓋付きのベッドは格差社会を感じるわ。
「今日もそのまま寝るか?」
「食べるわよ!朝食べただけじゃないの」
ブレイズさんと一緒に食堂に案内され、前菜、シチューとパン、鳥の香草焼き、フルーツと順次出される料理を食べていく。
「蒸した芋で済ませていた数ヶ月前からしたらとんでもない贅沢だわ」
「その割にはテーブルマナーにほとんど問題ないのはなぜだ」
こちとら人生三周目よ、舐めないで!などと言うわけにもいかないのでたまたまよとお茶を濁して今後の予定を聞いてみた。
「本来なら王宮に行く前に礼儀作法を学んでもらう必要があるが…」
礼儀作法!まさか頭の上に本をのせて歩いたり、テーブルマナーを守れなかったらビシィっと手鞭が飛んでくるあの!ノーサンキューだわ。そんなことを言うと、
「どこの貴族令嬢だ。辺境伯にはじめて対面した時のように猫を被っていれば十分だ」
「まあ、ブレイズさまのお心遣い感謝いたしま…」
「やめろ!鳥肌が立ったぞ!」
失敬な!いたいけな少女が精一杯の背伸びをしていると微笑ましく笑うところでしょう。そう言ってデザートを摘む私をジト目で見ると、
「いたいけな少女は盗賊を一人で倒して縄で引きずった挙句に換金するなど言わない」
そう言って、錬金薬師には貴族の子弟もいるのだ、とにかく、穏便にな、と続けた。面倒くさいわね、貴族の子は貴族の仕事をしていればそれでいいでしょう。まあ嫡男とスペアの次男以外は継がせる仕事も微妙なのかもしれない。
「教えても言うことを聞かない姿が目に浮かぶわ」
「それが宮仕えの定めだろう」
本当にスローライフは遠いわね。メリアは夕食を終えると、その日は早めに眠りについた。
◇
「では王宮に向かおうか」
メイドさんに髪を綺麗にセットされて前世で見慣れすぎた錬金薬師の正装を目にした時から予想はしていたけど今日からとは。辺境伯家はせっかちすぎるわ。途中、ブレイズさんが説明をしてくれる。
「錬金薬師の研究棟は王宮の離れにあるからそんなに気を張ることもない」
話によると私も研究棟に一室もらえるらしい。薬師の店舗みたいに一通り必要そうなものが揃っているということかしらね。薬草も申請書に書いて出しておけば揃うようだ。なにそれ、精霊草とか月光草を申請するしかない。あと魔石もね!
「魔石は関係ないだろう」
チッ!でも御用聞きの商人に言えば自分で払う分には問題無いそうだ。
「ついでに鍛冶師も紹介してくれないかしら」
辺境伯家は辺境守護の必要性から鍛冶師のツテは豊富だから帰りがけに寄ってもらう事になった。そんなやりとりをしているうちに、研究棟に到着した。
◇
「私は研究棟の管理を任されているフォーリン伯のブライトだ」
ブレイズさんが騎士の礼をとりながら私の紹介をする。
「はっ、私はファーレンハイト麾下の騎士ブレイズと申します。本日より出仕する事になった辺境伯直属筆頭錬金薬師を連れて参りました」
「お目にかかれて光栄です、伯爵様。私はメリアスフィール・フォーリーフでございます、以後お見知り置きを」
ちょっと!離れだから偉い人は居ないんじゃなかったの!?それに筆頭ってなによ、一人しかいないじゃないの。そんな内心を隠して右手を胸に当て錬金薬師としての礼をとる私。いやはや、染み付いた習慣は裏切らないわね。
しかし私の名前を聞いた伯爵様が眉をピクリとさせて問い返した。
「ほう、そなたが噂の…」
うわさって?などと言うことはおくびにも出さず伏し目がちに斜め下を見て過ごす。やがて、私に割り当てる研究室の場所告げて鍵をブレイズさんに渡すと、伯爵様は予定があるそうでまた今度と言って王宮に向かわれ去って行かれた。
◇
「はぁ〜、聞いてないわよ。伯爵様がいるなんて」
「別に問題なかろう、イエス・オア・イエス、考えても無駄なのだろう?」
それもそうね!喉元過ぎればなんとやら、早速、精霊草と月光草を他人任せでゲット作戦よ!そんなことをいう私にも耐性がついてきたのか、ブレイズさんは「そういうことだ」と同意して歩を進めた。
「ここだな」
そう言ってやけにでかい両開きの扉の鍵を開けて中に入ると、馬鹿みたいに広い部屋が目に入った。結婚披露宴でもするのかしら?
「こんな広い部屋でなにをしろってのよ・・・」
私は薬草棚に整然と積まれた薬草や引き出しに収納された大小様々な薬品瓶を確認すると、試しに一本作ってみることにした。
「魔力水生成、水温調整、薬効抽出、薬効固定、冷却・・・」
チャポン!
中級ポーション出来上がりっと、はい鑑定。
中級ポーション(+):やや重い傷を治せるポーション、効き目良。
「あんまり薬草の鮮度が良くないみたいね、良品質止まりよ」
「単に合成のばらつきじゃ無いのか?」
失礼ね!そう言って私は自前の材料で四重合成をしてみせた。もちろん全て最高品質よ。
「私がポーション作成をしてばらつきがでるわけ無いでしょう」
着任して間もないし、この部屋も使われていなかったのかもしれないから古くなったのかしら。採取の仕方や保存に問題があったら嫌ね。
「これじゃあ、精霊草や月光草を見つけても・・・まあ良品質でもいいか」
そう言って、早速、書類棚に申請書の束を見つけると記入していった。精霊草、月光草、状態、なるべく新鮮が望ましい、可能であればその場で錬金術で乾燥。でないと良品質にしかならない。目的は最上級ポーションの作成、申請者メリアスフィール・フォーリーフっと、書いたらどうするのかしら。
「下の階の受付に提出用の箱が置かれているのでそこに出せばいい」
なるほど。なんだか事務みたいね。
大体のシステムを理解した私は、先ほど作った中級ポーションのうち三本を薬棚に置き部屋を後にした。途中、受付の申し込み提出箱に申請書と鮮度の違いのサンプルと記載して良品質と最高品質の中級ポーションを一本ずつ置き、初日の出仕を終えた。
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