第7話 二度目の薬草採取

「ぜぇぜぇ…やっぱり厳しいわ」


 パンや飲料水を魔法鞄に詰めて薬草採取の為に山岳地帯に来た私は、かつての様に息を切らしていた。水を含む様にして息を整えると、前から大きな生き物がやってくるのが見えた。


「フォレストマッドベアーね、丁度いいわ」


 メリアは槍を中段に構えると、槍の間合いの外に向かって神速の突きを繰り出した。


 ツドォーン!


 フォレストマッドベアーの首に穴が穿たれ、そのまま後ろに倒れ伏した。しばらく動きが無いことを確認して残心を解くと、倒したマッドベアーの傷口を確かめた。


飛燕雷撃穿ひえんらいげきせん、うまくいったわね!」


 やっぱりリーチと飛び道具があると楽だわ。そう言ってフォレストマッドベアーを魔法鞄に取り込むと、再び高原に向かって足を進め、やがて、かつて来た癒し草の花畑にやって来た。

 うぅ、寒いわね。次は春にならないと来れないから沢山採取しないとね。そう言って黙々と癒し草を抜いては錬金術で乾燥させて魔法鞄に取り込んでいく。一箇所に集中しないよう一定間隔で移動しながら奥に進んでいくと、月光草が見つかった。


「わ、珍しいわね。こんな簡単に見つかるなんて」


 そう思ってふと立ち上がり山を見上げると、もう一段上に月光草の群生地がある事に気がついた。


「うわー、群生地なんて凄いわ。ちょっとずつ取れば来年もここで群生して生えてくるわね」


 メリアは十本だけ月光草を採取すると、元の癒し草の群生地に戻り採取を続けた。ややあって日が暮れて来たのでここで野宿することにした。家の台所から外して来たコンロと作り置きの煮物が入った鍋を魔法鞄から取り出して煮物を温め直した。やがて湯気が出て十分温まったところでパンを取り出し煮汁に付けては齧り付いた。


「煮汁につけて食べる硬いパンも味があるけど、そのうち天然酵母で柔らかいパンを食べたいわ」


 食事を終えると、服を二重に着込み槍を引き寄せて寝込んだ。


 ◇


 チュンチュン!


 小鳥の囀りに目を覚ますと体を震わせた。寒い、冬も近い高原で野宿なんて狂気の沙汰だわ。コンロでお湯を沸かしてお茶を飲んで体を温めると薬草採取を再開した。もっと大きい魔法鞄なら小屋ごと運べるから野宿も楽なんだけどな。そんなことを考えつつ、2時間ほど採取したところで時間切れとばかりに下山することにした。日が沈むまでに街に着きたい。

 下山の途中で小腹が空いたので座ってパンを食べていると、まわりから唸り声が聞こえた。


 グルルルル!


「またフォレストウルフ?今度は容赦しないわよ」


 そう言って槍を下段に構えるメリア。それを合図にしたのか、四方から一斉に襲いかかるフォレストウルフ。


「孤月下段、円舞!」


 円を描く様に繰り出された槍により上下二つに分たれたフォレストウルフが4匹、地面に落ちた。周りの気配が消えたところで残心を解く。


「あちゃー、切れ味良すぎたわね」


 折角の毛皮が真っ二つよ。そう言いながら魔法鞄にフォレストウルフを詰め込んだ。その後、メリアは食べかけのパンを口にしながら下山していき、やがて平地に着いた。

 ここから更に街まで戻るなんて憂鬱だわ。馬車もないし。待って、なければ飛行船でも作ればいいのでは。コンロができるなら気球も飛ばせるだろう。高度を下げるならコンロと同様に冷却の魔石を近寄らせるだけだわ。まあ無理ね、構造を作る職人に心当たりが無いわ。

 そんな取り止めもないアイデアを考えているうちに街に着いた。


 ◇


「これの解体をお願いします」


 ズンッ!


 メリアは冒険者ギルドのカウンターでギルド証を提示しながらフォレストマッドベアーとフォレストウルフを取り出していた。


「えぇ…っと、解体は裏手の解体場のカウンターに出して」


 受付嬢は、わかったわと獲物を仕舞い込んで裏手に向かおうとしたメリアを引き止めると、フリークエストの報酬を渡した。


「フォレストマッドベアーが金貨5枚、フォレストウルフが一匹当たり銀貨5枚よ」


 フリークエストなので安いけど。そう言ってカウンターに金貨7枚を積んだ受付嬢に、商業ギルド証の口座に入れられないか聞くと出来るようなので商業ギルド証を出して入金してもらった。


「あとEランクにランクアップよ」


 一人でフォレストマッドベアーを倒せるような者がFランクでは不味いそうだ。新しい冒険者ギルド証を見るとEランクと記載されていた。


「まあ、これでランクアップなんてお手軽なんですね」

「お手軽じゃないから。普通の十二歳は熊類なんて狩れないし持ち帰れないから!」


 どうやらフォレストマッドベアーを持ち込むたびにDランクまでは一直線にランクアップするようだ。まあ解体出来ればどうでもいいわね!メリアはありがとうと礼を言うと、裏手の解体場に来て、カウンターにいたオッチャンに話しかけた。


「これの解体をお願いします」


 ズンッ!


 改めてギルド証を提示しながらフォレストマッドベアーとフォレストウルフを取り出した。


「マジかよ、嬢ちゃんが仕留めたのか?」


 一撃必殺のフォレストマッドベアーに穿たれた穿孔跡と、上下真っ二つのフォレストウルフという豪快極まりない獲物を見て、メリアの見た目とのあまりのギャップに驚いているようだったが、やがて手数料は一体銀貨2枚だといった。


「商業ギルド証で支払います」

「お、おう…」


 なんで商業ギルド証を持ってるんだとぶつぶつ言ったので薬屋をしてると答えると、笑ってどこの世界にこんな獲物を引っさげてくる薬師がいるってんだよと笑った。まあいいと、今度は全部持ち帰るのか聞いてきた。


「魔石はいるけど毛皮は床に敷けるフォレストマッドベアーしかいらないし、もも肉2〜3キロもあれば残りは一人でそんなに食べられないわね」


 じゃあ他はギルドで商会に卸しておくと言うと、売却分と解体手数料の差し引きの差額分の決済を終えた。オッチャンは解体は1時間くらいかかるというのでギルドの食堂で食事をしてまた戻ってくると伝えて解体場を後にした。


「肉料理ばかりね」


 ギルドの食堂の荒くれ男向けのメニューを見てメリアは思わずそんな感想を漏らした。とりあえずステーキ定食と果実のジュースを頼み、10分ほどでできたステーキ定食はそれなりに美味しかった。考えてみれば肉なんて農村では滅多に食べられなかったし体の成長には適度に食べないとだめね。

 そうやってモシャモシャと細かく刻んでパンと一緒に食べていると、がらの悪い男が寄って来るのが見えた。


「おいおい、ここはお前みたいなこむす…」


 ビリビリッ!バタン!


 肩に掛けようとした手に、流れるようにポーチから取り出した草薙の鎌3号改の電撃を食らわせて失神させると、倒れて痙攣する男を尻目に食事を続けた。まったく、これだから冒険者ギルドは嫌だわ!しばらくしてステーキ定食を完食すると、メリアはトレイをカウンターに返してお礼を言って解体場に戻った。


「よう、嬢ちゃん。出来てるぞ」


 解体場のオッチャンは魔石5個とフォレストマッドベアーの毛皮と綺麗に取り分けたもも肉を出した。ありがとうとお礼を言うと、メリアはそれらを魔法鞄に詰めて冒険者ギルドを後にした。

 メリアは郊外の家に帰ると、錬金術でフォレストマッドベアーの毛皮をなめして防腐処理を施しリビングに敷いた。暖かそうだわ!

 それから冷蔵庫ができるまでの応急処置として、もも肉を冷却の魔石と一緒にして木箱に保存した。その後、水場で旅の汚れを洗い落として体を拭く。


「さ、寒いわ。温水の魔道具も作らないとね」


 メリアは魔石付きの浴槽を作ることを決意して寝室に向かうと、ベッドについた途端に眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る