1話 病気の無い世界

「おーい、こっちに持ってきてくれぇ!」


ビル工事現場の親方が通る声で叫んできたので




「はーい!そっちに持って行けばいいですか!?」


まだ声変わりしたばかりの大人になる直前の子供のような声で返事をした。




「助かるよ~!まだうちの息子位若いってのによく働いてくれて助かるわ」




「いいんですよ、僕も妹の為に稼がないといけないんで。親方には本当に感謝しています!」


親方が感心するように僕を褒めてくれているが、まだ中学三年生で働くことが許されてないぼくにとって働かさせてくれてる親方には本当に感謝している。




「あれかぁ、妹ちゃんはやっぱり注射しないと完治しないのか・・・?」




「・・・はい、医者の先生には完治させるなら手術するより確実に注射したほうがいいと。。。」


僕は悔しそうにうな垂れながら親方からの質問に答えた。




20XX年 突如現れたウィルスによって全世界は且つてない未曽有の大被害を被った。


全ての国でおきた都市封鎖ロックダウン空港封鎖による入国規制、ワクチン接種義務化等のSFの話かと思われるほど人類はウィルスに追い込まれていた。


人類もワクチンを開発し接種させていたが、そのワクチンは人種・国・環境に合わせて変異しワクチンの対応むなしく収束することがかなわなかった。




そこで突然、日本のとあるベンチャー企業がワクチンでの対応ではなくナノテクノロジーを駆使したナノマシンの体内注入によるウィルスの殲滅であった。


世界に発表されたそれは、




Exceed of Virus Evolve 通称:EVE




当時、日本の野党はもとより世界各国から非難声明を浴びたが、当時の首相・防衛大臣・厚生労働大臣がそろって発言した。




「皆様、確かに未知の技術による不安はわかります、世間ではロボットによる人類管理・洗脳等あげたらきりがありません。だから不肖ではありますが、私、そして防衛大臣、厚生労働大臣の3者が最初の被験者となりましょう。」


この発言により、世界中のメディアは大騒ぎした。日本の政治家達が狂った等、日本もとうとう壊れたか・・・と仕舞には無責任と言われる始末だった。


その後、ナノマシンを接種した後ウィルスを接種させたことは今の日本でも語り草である。




結果は、発病してから重体になるかと思われた3者だったが完治に成功。


3者同様の結果になったため有効性が徐々に広がり、最初は政治家や官僚たちの接種から始まり徐々にその影響は広がっていった。




1年後には希望者接種ということで日本の約7割以上が接種を希望していった。


発病後の接種した人たちの死亡率は0%、未接種の死亡率は7割を超え有効であることが証明された。




世界中からEVEの問い合わせが殺到、しかし各国はEVEによる支配がおきるのではないかと不安視がぬぐえずどうしても抵抗があった。


そこで日本は、国連にEVEの設計図を提供する代わりに常任理事国入りを提案。




各常任理事国はEVEの設計図をどうしても手に入れたいが大東亜連合共和国とユーラシア連邦は最後まで抵抗したがこれ以上の対策は出来ないと諦め日本の常任理事国を承認。




瞬く間にEVEは世界中で希望者に接種され半年で過去類を見ないウィルスを死滅させた。


それから数十年、世界は病気に対し治らぬものは無いと言われるほど進歩した。


EVEの設計図展開により各国の医療・工学分野のスペシャリスト達が病気に対するウィルス殲滅や細胞の再構築など症状に合わせた特効機メディマシンを開発した。




「そうかぁ、特効機を使えばまぁ確実に完治するんだろうなぁ。まぁ金額だけがネックか」


親方は納得したけどそれに伴う費用が莫大なのを理解していてこれ以上は話しても無駄だと悟ったのか会話を終わらせてくれた。




小学6年生になる妹は帰宅途中突然倒れて全く動かなくなってしまった。


脳から発せられるシナプスがエラーを起こし何もできなくなってしまったのだ。


治療方法は特効機の接種による細胞のエラー修理しかないと判断された。


母親はおらず父だけがいるが家族を食べさせるだけで限界なのでこうして父親のつてを使って工事現場で働かせてもらっているわけだ。




「頑張って働いてなんとしてでも妹を治してみせますよ!」


僕は精一杯の笑顔で応えた。

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