第662話 鋭角二等辺三角形

 僕がおっぱいを揉むと、どこでついたのか、油でテカテカのツルリンだ。


 「はぁん、旦那様、私は良いのです」


 「でも気持ちが良いだろう」


 「あぁん、知りません」


 そう言いながらも〈クルス〉は、いつもと違うヌルヌル揉みが良いのか、恍惚に近い顔になっているぞ。

 〈クルス〉の手は僕の腕を握っているけど、揉む邪魔をしたりはしない。

 指を狂おしそうに動かして、自分を支えているだけだ。


 極小の三角形を選んだ時点で、こうなることは分かり切っていたはずだ。

 だから顔を歪(ゆが)ませているのは、嫌なことをされてではない。


 僕の腹上の〈鋭角二等辺三角形〉は、角をなくしもう線状となり、ものすごいことになっている。


 「〈クルス〉、見てみろよ。すごいことになっているぞ」


 「いゃぁ、見ないで」


 そう言われたら、逆のことをしないといけないんだ。

 既に〈鋭角二等辺三角形〉とも言えないものを、僕がもっと見ようとしたら、〈クルス〉がガバッと僕に抱き着いてきた。


 見られたくないのと、もう身体を支えられなくなったらしい。

 僕はお返しに〈クルス〉へ本格的なキスをしていると、動きが激しくなったせいだろう。

 油などで滑りが良くなったのだろう。


 激しいスリスリからの意図していないスルインがあって、僕は〈クルス〉を抱きながら恍惚の表情を浮かべてしまった。

 極小の三角形はその役目を終え、ニュチャニャチュな塊となり果てて、〈クルス〉の足首に貼り付いていた。


 「はぁ、はぁ、旦那様、私の治療の効果はいかがでしたか」


 大事なことなので二回言いますが、とても〈いかがわしかった〉ですよ。

 とても〈いかがわしかった〉ですよ。


 「はぁ、はぁ、とても気持ちが良くて、活力が湧き過ぎたぐらいだ」


 「うふふ、そうですか。身体を張った甲斐がありました」


 〈クルス〉は、身体を張って僕を元気にしてくれるんだ。

 やっぱり最高の女だよ。


 その後に二人でお風呂に入ると、シャボンの泡(あわ)は虹色に光っていた。

 〈クルス〉が僕を洗うたびに、小さなシャボン玉があちらこちらに飛び出して、思い思いの踊りを踊ってくれる。


 〈クルス〉の髪についたシャボンは、その艶やかな髪をそっと触るように僕を誘っているし、手についたシャボンはこの嫋(たお)やかな手を包み込めと指導してくれているんだ。


 僕が髪を触り手を握ると、〈クルス〉は、はにかんだような表情へと変わった。

 お尻へついたシャボン玉をそっと潰(つぶ)して、おっぱいの上へ跳んだシャボン玉を指先で転(ころ)がすと、〈クルス〉が「治療が効き過ぎたようですね」と雨の後で虹がかかったような笑顔みせてくれる。


 ただ、シャボンの泡が虹みたいに光っているのは、マッサージオイルの油がギラついているだけだと思うな。


 だけど〈クルス〉のこの笑顔は、明るい未来へ向かう虹のかけ橋以外のなにものでもないはずだ。

 また、揉み治療をして貰おう。




 〈サトミ〉と一緒に〈サトミ〉の後宮に来ている。

 〈サトミ〉は、内装や家具にあまり興味がないようで、全ておばあちゃんに任せきりにしていたらしい。


 だからか、何と言っていいのやら、おばあちゃんが思う新婚家庭の内装になっている。

 壁もカーテンも淡いパステルピンクに統一され、ソファーは補色関係にあるアクアミントだ。

 おばあちゃんの感性は、すっごく可愛いんだな。


 「へへっ、〈タロ〉様、フアフアした感じで可愛いでしょう。おばあちゃんが、〈サトミ〉のために選んでくれたんだよ」


 おばあちゃんは、〈サトミ〉の母親代わりだからな。

 これで良いのだろう。


 「ホントだな。〈サトミ〉の可愛い感じとピッタリじゃないか」


 「あはぁ、〈タロ〉様も気に入ってくれて良かった」


 〈サトミ〉は上機嫌だけど、少し気に入らないところがあるんだ。


 それは裏口に、猫用の出入り口が作ってあるんだよ。

 今も〈トラ〉と〈ドラ〉が、我が物顔でアクアミントのソファーを占領していやがる。

 それは僕と〈サトミ〉が、イチャイチャするための道具なんぞ。

 お前達が昼寝するために、存在している物じゃない。


 僕が〈トラ〉と〈ドラ〉を睨(にら)みつけてやったら、大きな欠伸(あくび)をしやがった。

 これは、完全に舐められているだと思う。


 「〈タロ〉様、次は教会で打ち合わせの予定なんだ」


 二人で教会に行くと、もう詳細は詰められている。

 凝った結婚式じゃない普通の式だから、おばちゃんと兵長とで大まかに話をしてあったらしい。


 少しだけ〈サトミ〉の希望を話しただけで、ほんのちょっとの時間で済んでしまった。

 結婚式に拘(こだわ)る女性が多いと聞くが、〈サトミ〉はかなりあっさりしているな。

 まあ、普通の結婚式だから、それほど演習は付け加えられないんだ。


 「〈タロ〉様、次は〈ベート〉さんのお店で、花嫁衣装の最終調整なんだ」


 そうか、〈サトミ〉は〈ベート〉の店へ頼んだのか。

 〈サトミ〉は優しい子だから、頼まれたら嫌だとは言えなかったんだろう。


 〈アコ〉と〈クルス〉は、ちょっと拘りもあったみたいだし、そもそも〈ベート〉に対してそこまでの良い印象は持っていない感じだ。

 ちょっと異性に対しての言動が、いかがなものかと思っているらしく、他のものはともかく花嫁衣装を任せる気にはならなかったみたいだ。


 一時期、僕を狙っていた感じもあるからな。 

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