第493話 素晴らしい演技

 「分かった。ガバッとはしないよ」


 僕は、〈サトミ〉の太ももに、指を五本立てて触った。

 太ももの付け根に、五本指でサワサワと触ってやったんだ。


 「はゃぁ、そこはダメだよ。そんなとこ、触らないでよ」


 〈サトミ〉は、僕の指から逃れようと、足をバタバタさせている。

 太ももの付け根のその奥を、隠しているオレンジ色のショーツが、フルオープンだ。

 隠す気がないのか。


 「〈サトミ〉、今日は蜜柑色なんだな」


 「うっ、〈タロ〉様。口に出して言わないでよ」


 「まあ、良いじゃないか。それより、膝を曲げないで、足を真直ぐに伸ばしてくれよ。脱がせられないんだ」


 「ふぅん、〈タロ〉様、分かったから、エッチな触り方はしないでね」


 エッチな触り方って、どんな触り方なんだろう。

 僕は、四本の指で靴下を脱がしながら、太ももの表面を、中指ですーと滑らせてみた。


 「ひゃん、あぁぁ、〈タロ〉様、エッチな触り方を、しないで言ったのに、酷いよ」


 〈サトミ〉は、足をブルブル震わせて、もう涙声だ。

 中指が、そんなに感じるもんなのか。

 とても不思議な、中指現象だ。


 「エッチな触り方じゃない。普通に脱がしているだけだ」


 もう片方の足でも、実験してみよう。

 太ももを中指ですーとなぞると、〈サトミ〉の足は痙攣(けいれん)したようになってしまう。

〈サトミ〉は、壁にもたれて、目が虚(うつ)ろな感じだ。


 「はぁう」「はぁん」と息遣(いきづか)いも荒くなっている。

 これは、いくらなんでも大袈裟過(おおげさす)ぎるな。

 〈サトミ〉は、僕を楽しませるため、演技をしてくれたんだろう。

 〈サトミ〉の名演技で、僕の下半身もビクビクと痙攣しているぞ。


 「はっ、はっ、〈タロ〉様、もう終わったの」


 「うん。もう一度、してあげようか」


 「いゃー、もうしないで。〈サトミ〉は、おかしくなっちゃうよ」


 〈サトミ〉は、すごいな。まだ、演技を続けている。

 素晴らしい演技に敬意(けいい)を表(ひょう)して、放り出すように見えている、蜜柑色を撫(な)ぜてあげよう。

 どんな演技を、見せてくれるのだろう。


 僕は、太ももの間の蜜柑色をすーと、人差し指で撫ぜ上げてみた。

 〈サトミ〉は、目をまん丸に見開いて、そこの部分を凝視している。


 僕はさすがに、やり過ぎたと思って、蜜柑色を隠すようにスリップを下げてあげた。


 「〈サトミ〉、蜜柑をまた食べようね」


 「はぁー、〈タロ〉様のエッチ。ばか。ばか」


 〈サトミ〉は、耳まで真っ赤にして、ブルブルと身体を震わせている。

 〈サトミ〉の蜜柑を、剥(む)きたいと、言った方が良かったかな。


 なぜだか、ぐったりとしていた三人も。ようやく着替え終えて、お茶をすることになった。

 〈アコ〉の母親も入って、とても穏やかなお茶会だ。


 ただ、許嫁達は、僕の方を見ようとはしない。

 まだ、顔が少し赤くて、ちょっと怒っている感じに見える。


 どうしてだ。

 僕は何も悪くない。

 丁寧(ていねい)に靴下を、脱がしてあげただけじゃないか。



 夕暮れが迫ってきたので、帰ることにした。

 帰るのは、僕と〈クルス〉の二人だけだ。

 馬車で来たから、護衛の〈リク〉は、連れて来てはいない。

 帰りも馬車で、帰りたかったが、辻馬車が全く拾えない。

 舞踏会の招待客が、皆、使ったのだろう。


 僕達は、乗り遅れたわけだ。

 予約しておくべきだったな。


 「〈クルス〉、ごめん。馬車が拾えそうにないから、歩きになってしまうよ」


 「うふふ、私は、それで良いです。〈タロ〉様と歩くのは、久しぶりですもの」


 僕達は、夕日に向かって、ゆっくりと歩き始めた。

 王宮の勤め人が、速足で、僕達を追い抜いて行く。

 速足になるのは、暖かな家族と、温かい夕食が待っているからだろう。


 それは絵に描いたような、幸せの情景だと思う。

 でも、僕の幸せも負けてはいない。

 〈クルス〉の方から、手を繋いできたんだよ。


 「〈タロ〉様の足が速いので、手を繋ぎました。私を置いて、行かないようにです」


 「そうなの。僕は単純に、〈クルス〉と手を繋げて嬉しいよ」


 「うふふ、私もです」


 〈クルス〉は、なぜだか僕の手を、後ろに引っ張った。


 「どうして、引っ張るの」


 「さっきも言いましたけど。〈タロ〉様は、歩くのが早過ぎます。もっとゆっくり、楽しみたいのですよ」


 歩くのを楽しむのか。〈クルス〉は、散歩が好きだったっけ。

 まあ、良い。


 王子や沢山の貴族と、挨拶を交わしたんだ。

 〈クルス〉も、かなり気を使ったんだろう。

 疲れたから、ゆっくりと歩きたいんだろう。


 「今日は、疲れただろう。僕も疲れたよ」


 「そうですね。着飾った魔獣から、〈タロ〉様を守るのが大変でした。大勢、向かって来ましたから、さばくのに疲れました」


 「えぇ、大勢向かってきたの」


 「うふふ、〈タロ〉様は、それで良いのです。他の女性に、意識が向いていない証拠ですからね」


 本当なんだろうか。

 僕には、全く分からなかったな。

 若い女性達と、やけに、おしゃべりしていたのが、そうだったのか。


 〈クルス〉は、それで良いと言うけど、僕は少し鈍(にぶ)過ぎるな。

 〈クルス〉が良いと言うなら、まあ、良いか。


 「それにしても、腹が減ったな。舞踏会では、あまり食べられなかったよ」


 「はい。私もそうです。舞踏会用の服では、締め付がきつくて、食べられないのですよ。今になって、お腹が空いてきましたね」

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