第396話 戦争は、まだ終わってはいない

 僕が、逆の立場だったら、そう思うよな。敵を助けて、味方は放置しているんだ。

 あの人達は、まだ奴隷だ。あの人達の戦争は、まだ終わってはいない。


 「あの人達の解放は、出来るのですか」


 「はぁ、賠償金さえ払えれば出来ますけど。あの人達は、《ラング伯爵》とは関係ないですよね」


 「それはそうなのですが。実は領地に入植者を、入れようと思っているのですよ」


 入植者を入れようとしているのは、半分嘘で、半分本当だ。

 入植者の募集はしてないが、移住者は歓迎している。徐々に人を増やそうとしているところだ。


 ただ、この人達にも家族がいるはずだから、《ラング領》に来るとは限らない。

 《ラング領》は田舎だし、それぞれの事情もあるはずだ。


 それと、このためにお金を使うのは、正しいことなのか。単なる自己満足で、偽善者だと思う。

 お金を持っている人間の、傲慢さだとも思う。


 どうしたら正解なんだろうと、僕は戦争奴隷の人から目を離して、〈深遠の面影号〉に聞いてみた。

 〈深遠の面影号〉は二回大きく揺れて、「真直ぐに前を向けることをしなさい」って答えてくれたと思う。

 僕の考えに、微笑んでくれたんだ。


 「そうなのですか。すごいです。領地を、発展させておられるのですね」


 《チァモシエ》嬢が、半歩僕に近づいてくる。もう、息がかかるんじゃないか。

 甘い匂いも漂ってきたぞ。


 「ひゃ、そ、それで、どうでしょう。あの戦争奴隷の人達の賠償金を、僕が肩代わりしたいのです」


 「えっ、良いのですか。こちらの賠償金に充当して頂けるのなら、大変有難いです。我が伯爵家が、今、欲しいのは、人手よりお金なのです」


 《チァモシエ》嬢が、さらに半歩僕に近づいた。もう、互いの身体が触れ合ってしまっている。

 熱い体温を感じるぞ。でも、おっぱいは感じられなかった。

 ツルペタだ。


 僕を非難する視線は、ますます鋭さを増していく。えぐられるほど痛い。

 その視線から逃れるために、一生懸命に《チァモシエ》嬢から身体を離した。


 《チァモシエ》嬢は、「あぁ」と名残惜しそうに、小声で呟いた気がする。

 でも、〈アコ〉と〈クルス〉と〈サトミ〉のおっぱいを思い浮かべて、何とか耐えられた。

 おっぱいを、生で見て触っておいた、お陰だ。


 何に耐えられたかは、色々あると考えられる。

 その一つは、たぶん《チァモ》と呼ぶことだろう。もし呼んだら、どうなっていたのだろう。

 波瀾万丈の物語となっていたと思う。見るのは面白そうだけど、出演するのはちょっとな。



 戦争奴隷の人達に、肩代わりの話をしたのだが、信じて貰えない。

 そんな上手い話には、騙されないと、顔を真っ赤にして怒っている。

 賠償金が払われなくて、裏切られたような、気持ちになっているのだろう。

 苦しくて、惨めな奴隷生活が続き、誰も信じられなくなったのか。

 皆、疑心暗鬼になっているようだ。


 話が中々進まないので、戦争奴隷の人達のリーダー的な人と、交渉を試みることになった。

 なんで、僕がこんな一生懸命に、説得しなければいけないんだ。

 まあ、このまま嘘を吐いていたと、思われるのが、ムカつくってことだ。


 関西弁では、「蹴った糞悪い(けったくそわるい)」ってことだ。

 関西の人すみません。「卦体糞悪い(けったくそわるい)」でした。

 蹴るのではなくて、占いなんだな。


 「《ラング伯爵》様、俺は、《ベン島》の軍で兵士頭をしていた、《マサィレ》と言います。皆を代表して、聞いても良いですか」


 「良いぞ。代表をたててくれた方が、話がやり易い」


 「それでは聞かせて貰います。本当に、俺らを、解放してくれるのですか」


 「さっきから、何度もそう言っているだろう」


 「でも、信じられません。あなたに何の利益が、あるのですか」


 「それも言ったよな。出来れば、《ラング領》に移住して欲しいんだ」


 「それなんですけど。俺には、妻も子供もいるんです。《ベン島》を離れて、生活が激変するような場所には、いけないんですよ」


 「それも言ったよな。来たい人だけで良いって」


 「そこが分からないんですよ。移住ありきなら、まだ分かります。移住も何もしないのに、大金を出して貰えるのが理解出来ないんです」


 「うーん。たぶん、僕があなた達を騙して、今より酷い目に合わせると、心配しているんだな」


 「はっきり言ってしまえば、そうです。今の奴隷より酷い境遇は、そうそうないんですけど。二年近く過ぎましたので、後、八年辛抱すれば解放されます。それと天秤にかけることになるんですよ」


 奴隷の労働単価は、極めて低く設定されているんだろう。

 自分の賠償金を稼ぐのに、後、八年もあるのか。奴隷生活の八年は、長く苦しいと思う。


 一方、僕に騙されて、一生奴隷にされると、疑ってもいるのだろう。

 今日初めて見た貴族の若造が、突然解放してやると言い出したんだ。

 そんな上手い話は、普通あるはずがない。疑うのは当然だ。

 こんなことを信じるヤツは、バカしかいない。


 はぁー、僕が言い出したことだけど、説得は無理な感じだな。

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