第387話 元気な証拠

 翌朝、迎えの馬車がやってきた。今日帰るのは、当初より予定されていたことだ。


 馬車から降りた馭者は、その場で固まって言葉も出ない。

 目を見開いて、唖然(あぜん)としている。


 僕は馭者に、《黒帝蜘蛛》に襲われて、その遺骸は泡の中だと伝えた。

 糸で拘束されているけど、皆は無事だと、一番大事なことも伝えた。


 それでも馭者は、立ちすくんだまま、何もしゃべらない。

 血走った目を開けたまま、瞬きもせずに、僕を見詰めている。

 僕が背中を思い切り叩いたら、「大変だ」と叫んで、慌てて馬車で帰ってしまった。


 えっ、どうして。


 僕がぼんやりと座っていると、馬に乗った兵士が沢山やってきた。

 その後ろには、馬車が数台続いているようだ。

 兵士や役人らしき人が、大騒ぎしていたが、僕はまだ、ぼんやりしていたと思う。

 その後、僕は言われるまま、馬車に乗せられた。乗った馬車は、《サハン》の町へ向かうらしい。

 もちろん、糸で拘束されている人達も一緒だ。


 《サハン》の町で一晩を過ごして、僕達は王都の病院へ直行だ。

 後で聞いたら、そこで皆は、ようやく糸から解放されたらしい。


 僕は、病院のベッドで天井を見上げている。壁も白かったけど、天井も白色だ。

 身体は何ともないけど、心と離れてしまっているような、変な感じがする。

 何だか、動く気がしないんだ。


 「〈タロ〉様」


 「良かった」


 「ばかっ」


 〈アコ〉と〈クルス〉と〈サトミ〉が、病室に飛び込んできた。

 三人は、真っ青で、思い詰めたような顔をしている。


 「やあ、三人ともどうしたんだ」


 「大丈夫ですか」


 「怪我はありませんの」


 「〈タロ〉様、痛いところはない」


 三人は僕の質問を無視して、〈アコ〉と〈クルス〉は、僕の両手を握りしめてきた。

 〈サトミ〉は、顔を触っている。

 三人とも、泣いてはいないけど、目が充血して腫れているようだ。


 「ははっ、大丈夫だよ。怪我もないし、どこも痛くないよ」


 三人は「ほっ」と息をついて、険しい顔が少し緩んだ。

 ただ、僕の言葉に返事もしないで、僕の身体をサワサワと触り始める。


 「ちょっと。くすぐったいから、止めてくれ」


 また僕を無視して、三人は触るのを、止めようとしない。

 僕の身体を、ゆっくりと触り続けている。


 何なんだ。どうして止めないんだ。僕に対して、怒っているのか。

 止めないのは、僕がいつも触るから、仕返しをしているのか。


 「くすぐったい、と言っているだろう。どうして、止めてくれないんだ」


 僕の顔も見ず、「身体の確認」ですと、声を合わせて怒ったように言われた。

 止める気は、微塵もないようだ。はぁー。


 三人が触る箇所は、脇や太ももなどの、微妙な所に移ってきた。

 僕は、「ひゃっ」「あひっ」と、思わず変な声を出してしまう。


 三人に色んな所を責められて、身体を捩(よじ)っていると、とうとう〈サトミ〉があそこも触り出した。


 「〈サトミ〉、そこはダメだ。触っちゃいけいない」


 「むっ、〈タロ〉様。何を言ってるの。全身調べないと良くないよ」


 「ひゃっ、なんだよ。どこにも怪我がないって、さっき言っただろう」


 「〈タロ〉様、諦めてくださいな。私達で確認しないと、納得出来ないのですわ」


 「でも、そこはダメなんだよ」


 「へへっ、〈タロ〉様、ちょっと〈サトミ〉が触ったら、硬くなったよ。ここも大丈夫だね」


 僕は顔が真っ赤になった。でも〈サトミ〉は、硬くなっても、普段どおりなんだ。

 〈サトミ〉は、可憐な少女じゃないのか。認識を誤っていたんだろうか。


 「〈サトミ〉は、平気なの」


 「うん。だって、〈サトミ〉を抱きしめる時、ここはいつも硬くなっているよ。硬くなるのは、元気な証拠だね」


 〈アコ〉と〈クルス〉も、「うん」「うん」と頷いて、嬉しそうに笑っている。

 僕のあそこが硬くなって、嬉しそうなのは良いことなんだろう。


 でもな。こんな、明け透けに言われるのは、ちょっと違うと思う。

 もっと、恥じらいっていうものが、あって欲しいんだ。

 いつも、硬いのを押し付けている僕が悪いのだろうか。


 「〈タロ〉様、概ね確認が出来ました。休息が必要だと思いますので、今日はもう帰りますね」


 「〈タロ〉様、それでは、また明日来ますわ」


 「〈サトミ〉が、また来るから、泣いちゃダメだよ」


 「はぁー、でも、来てくれてありがとう」


 三人は、僕の身体を思う存分触りまくって、部屋を出て行った。嵐のようだったな。

 僕の心は、三人がかりで、無理やり開かされたらしい。


 明日、三人がお見舞いに来てくれるのが、とっても楽しみだ。

 明日は絶対、キスをして、おっぱいとお尻を揉んでやるぞ。

 倍返しだ。ハハハッ。


 僕は結局、五日間の入院となるらしい。


 翌日は、三人が時間をずらして、一人ずつお見舞いにきてくれたので、キスをして、おっぱいとお尻を揉むことが出来た。

 あぁ、生きているって思ったよ。


 でも、看護婦さんが順診に来るからと、少しの時間しか許して貰えない。

 おまけに、僕が元気を取り戻したからと、一日に一人のお見舞いになってしまった。

 学舎の授業も、あんまり欠席出来ないんだろう。

 それに、僕は元気なんだからしょうがないか。あそこも、すこぶる元気で困っている。


 寝てる間に、一回爆発してしまったくらいだ。

 パンツを自分で洗うはめになって、すこぶる悲しい。

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