第90話 折れそうなほど細くて

 二人とも真っ赤になっているのが、初々しくて可愛いな。

 皆にも聞こえたのが、照れくさかったのだろう。


 僕のあそこを大きくしたのを、何とか有耶無耶にしようと思っていたんだろうな。


 他に誰もいなければ、また違った反応があったはずだ。


 真顔で、「小っちゃくて可愛い、小動物みたいでしたね」と言われたらどうしょう。

 立ち直れないぞ。

 もう、二度と立つことはないだろう。


 気を取り直して飲んだ〈テラーア〉の蜜柑果汁は、大変美味しかった。


 百パーセント果汁のフレッシュオレンジジュース、そのものだ。

 おまけに、原料は完全無農薬、有機栽培ときている。

 不味いわけがない。


 もう一つおまけに、売れ残ったり、傷んだ蜜柑を原料にしているから、原価的にも秀逸な商品となっている。

 学舎町で開く店でも出してみるか。


 「〈テラーア〉、この蜜柑果汁はとても美味しいよ。店の主力商品になるぞ」


 「ご領主様、お褒め頂いてありがとうございます。頑張って作ります」


 と〈テラーア〉も、今はガッツポーズみたいに拳を握って、嬉しそうにしている。

 ジュースを僕にかけたショックからは、回復したようだな。


 〈アコ〉と〈クルス〉も、口々に「美味しいですわ」「爽やかな酸味と甘みがあります」と高評価だ。

 女子受けも問題なさそうだな。


 僕が制服から私服に着替えたのと、汚れたら拙いと気が付いて、〈アコ〉と〈クルス〉も着替えることになった。


 〈クルス〉は自分の部屋に置いてあった服に着替えて、〈アコ〉は西宮まで着替えに行くことになった。


 そんなには離れて暮らして無いけど、二人きりの家族だ。

 〈アコ〉は母親と何かしら話があるのだろう。


 三人と護衛の〈リク〉とで西宮に向かった。

 〈リク〉は、いつもどおり門番のおっちゃんと世間話だ。


 〈クルス〉は初めてなので、〈アコ〉の母親に丁寧に挨拶をしていた。


 かなり緊張もしているようだ。

 自身が嫁ぐ男の正妻の母親という、何とも微妙な関係だから無理もない。


 〈アコ〉の母親も、素っ気ない態度では無く、親しげに〈クルス〉に接してくれた。

 側室憎しで、〈クルス〉を敵視する可能性も心配したけど、そんな素振りは全く無くて一安心だ。


 その辺はわきまえているのだろうし、娘の友達でもあるから、〈クルス〉は敵認定では無いのだろう。


 〈アコ〉と母親が話をする間、短い時間だけど、僕と〈クルス〉は庭を散歩することになった。

 いつもの四阿に二人で座ったのなら、することは一つだけだ。


 「〈タロ〉様、ここは外ですよ。抱きしめたりしないで」


 少し強引に抱き寄せると、〈クルス〉が恥ずかしがって、僕の腕の中でもぞもぞと抵抗する。


 細い腰に腕を回して、〈クルス〉を僕の胸の中に収めると、


 「もう、〈タロ〉様は、強引です。狡いです」


 と言って抵抗は止めて、僕の背中に手を回してきた。

 顔を僕の胸に埋めて、身体もピッタリと引っ付けてくる。


 僕は〈クルス〉の頬を両手で包み込んで、顔を上に向けさせた。


 〈クルス〉は、唇をほんの少し開いて、もう目を瞑っている。

 僕も同じくらい唇を開いて、〈クルス〉の唇に合わせた。


 一度離して、〈クルス〉を見ると、赤くなった首筋が折れそうなほど細くて妙にそそる。

 まだ目を瞑っている〈クルス〉に、もう一度唇を合わせた。


 「〈タロ〉様、これ以上はダメです。誰かに見られてしまいます」


 僕の腕から逃れようとはしないけど、「お願い」って顔で僕を見てくる。


 「〈クルス〉もうしないよ。〈アコ〉達のところへ帰ろうか」


 〈アコ〉達の部屋に帰ると、〈アコ〉が〈クルス〉の顔をチラッと見た後、僕の顔をじっと見てきた。

 何か怖いんですけど、キスしたのがばれたの。


 〈アコ〉の母親から話があると言うので聞くと。


 「〈タロ〉様、学舎生活を送るうえで、若干の注意事項がございます。

 この国の次の王に関することなので、良く聞いて下さい。

 〈クルス〉さんも、いずれ係わりができるかも知れませんので、一緒に聞いて下さい」


 「えっ、次の王ですか」


 「そうなのです。現王はまだ五十歳代ですが、既に王位継承者争いが始まっているのです」


 「現王の健康状態ですか」


 「いいえ。ご壮健であられますよ。でも王宮とはそういうものです。

 注意事項とは、その王位継承者候補のお一人が、《黒鷲》に在学しておられるということです」


 「誰なのですか」


 「三学舎生の〈サシィトルハ〉王子です」


 「あっ、会ったことがあります」


 「えっ、もうお会いになられたのですか。何か縁を感じさせますね。それなら話が早いです。

 私は血縁的にも道義的にも〈サシィトルハ〉王子派なのです」


 「血が濃いのですか」


 「そうです。〈サシィトルハ〉王子の母親が叔母にあたります。

 道義的な面では、王子の母親が、二人目なのですが正妻だからです。

 一人目の正妻は若くしてお亡くなりになりました」


 「継承者候補は何人なのですか」


 「候補者はニ人だけです。

 もう一人は〈サシィトルハ〉王子よりも、年上で《黒鷲》は五年も前に卒舎しています。

 名前は〈タィマンルハ〉王子と言います」

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