第78話 脳内映像再生スキル 

 入学式の学舎長の挨拶は、どこでも誰でもそうだが、やはり長くて退屈だった。

 先程の子も、宣誓の割には長かった。

 おまけに、三学年の舎生代表からの歓迎の祝辞まで長い。


 寝ないで目を開けていた、僕を褒めてあげたいくらいだ。


 宣誓をした男爵家の子は、〈カロフィラ・チァモキ〉という名前で、宮廷貴族の家の子だ。

 後ろで見ていた家族だろうか、中年の女性が感極まって泣き出している。

 まるで、演劇の一場面を見ているようだ。

 何故か、貰い泣きする人も続出しているぞ。


 そんなに嬉しいことなのか。


 騎士爵はガチの試験だから、たぶん男爵以上での最高点だと思う。

 そんな最高点にあまり意味は無いと思うけどな。


 入学式が終わったので、一度寮に案内されて、各自で部屋を確認することになった。


 寮は二階建てで、「右・中・左」の三棟あり、一棟一学年となっている。

 僕の部屋は、右棟の二階の二十号室で、ラッキーなことに角部屋だ。

 隣室が片方しか無いので、煩わしさが半減だ。

 隣に入る人で環境は変わるので、今は何とも言えないが。


 《黒鷲》は生徒数が少ないため、全生徒が一人部屋となっている。

 それどころか、部屋はまだ余分があるらしい。


 一人部屋なら、換喩でエコな行為が気兼ねなく出来る。

 ネタが何も無いのは寂しい限りだが、脳内映像再生スキルを発動すれば、爆発的な効果があるのは、実証済だ。


 部屋の壁は、青いストライプの壁紙に、腰壁は明るい茶色の木板で出来ている。

 青色を使っているのは、若い衝動を抑える効果を狙っているのか。


 だが、僕は負けない。


 明かりは、小さいながら、シャンデリアみたいなものが、天井からぶら下がっているぞ。

 机と椅子は、深い色合いで緻密な装飾を施されており、高級家具に違いない。

 机は大小二つもあり、椅子は一人部屋なのに四脚もある。


 重厚で歴史を感じさせる、衣装箪笥と整理箪笥も部屋の隅に鎮座している。

 寝台は、二人寝られるくらいの大きさで、ふかふかとした寝具が、すでに用意済だ。


 部屋の大きさは、大きめの調度品が入っていても、狭い感じはしないから、恐らく二十畳近くはありそうだ。


 流石は、お貴族様の寮と言うところか。


 次は教室に向かう。


 教室に入って見れば、生徒が十人もいない。

 数えたら、八人だけだ。

 十六人をまだ割って、一学年を二組したかったようだ。

 それとも、出来るだけ少人数にして、一人づつ丁寧に教える意図なのかな。


 しばらく待っていると、教室に先生が入ってきた。


 恰幅の良い五十位の男性だ。

 少し薄くなった頭の髪は、灰色で短めに整えられている。

 服も上等なのだろう、上品でかっちりとした印象を受ける。


 「新入学生諸君。お早う。

 私は、この組を担当する〈ウギィユ〉だ。

 これから、一年間か三年間かは、分からないが、よろしく頼む。

 専門教科は、「政務科」だから、そちらでもよろしくな。

 まず初めに自己紹介をしてもらおう」


 まぁ、最初はどこでも自己紹介だなと、思っていたが、自己紹介が始まらない。

 端に座っているヤツは、何ボヤボヤしているんだ。


 「〈タロスィト〉君、一番爵位が高い君から始めてくれないか」


 えっ、そうなの。貴族の学校だからなのか。

 ボヤボヤしてたのは僕なのか。


 言ってよ。


 「えーっと、〈タロスィト・ラング〉です。

 《ラング》領から船に乗ってきました。よろしくお願いします」


 へー、あの人がそうなのかと、ひそひそ声が聞こえてくる。

 ボヤボヤしてたのもあって、居心地が悪いぞ。


 次の生徒は、女子と間違った子だ。同じ組になったか。


 「〈フランィカ・カソョリ〉といいます。よろしくお願いします

 王都出身で、父親と同じ財務局職員を目指しています。

 皆さんとは、三年間一緒ですので、お互い仲良く過ごしたいと思っています」


 「〈アルフィト・ガリグ〉です。《ガリグ》領からやってきました。

 次男なんで、将来のことはまだ決めていません。

 組の皆とは、楽しくやりたいです」


 領主貴族の子もいるのか。

 その後も続けて、五人が自己紹介を行った。

 内容は、無難で似たり寄ったりだ。


 受け狙いで、笑いを取りにくる奴はいなかった。

 そんな雰囲気じゃないし、騎士の子はガチの試験で秀才ばっかりだしな。

 真面目なんだろう。


 自己紹介が終わったら、次は必須科目と選択科目の説明があった。


 必須科目は、「政務科」、「軍務科」と「武体術」だ。

 「武体術」は、武術と体育が合わさったようなものか。


 選択科目は、「商務科」、「鉱務科」、「農務科」、「庭務科」、「医務科」と五科目ある中から、一つを選べということだ。


 「庭務科」の庭は、かつては家中で神事公事をする場所という意味があり、そこから転じて、貴族家の奥向きの一切を意味する内容となったとのことである。

 そのため《白鶴》では、必須となっているが、貴族家の家宰を目指しているならば、男子でも選択する場合があるようだ。


 芸術科目も、三科目ある中から、一つを選ぶ必要がる。

 楽器演奏の「楽奏科」、詩や散文の「詩文科」、踊りと歌の「舞謡科」の三種類だ。


 選択科目は三日後までに決めて、提出する必要があるとの説明があった。

 何を選択するか、迷うところだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る