第75話 〈クルス〉の着替え

 夕食の後、〈クルス〉から部屋に来て欲しいと、耳元で囁かれた。


 〈クルス〉の吐息を感じて、少しゾクゾクする。


 〈クルス〉の部屋に行くと、


 「〈タロ〉様、最初にお見せする機会が、もう無いかもしれませんので、今外套を着てみます。

 でも、私にあまり近づかないでください」


 そう言うと〈クルス〉は、真っ赤になりながら、ワンピースの前面についているボタンを外し始めた。


 えっ、着替えているところも見せてくれるのか。


 〈クルス〉は、五個あるボタンを全て外した後、袖から手を抜いて、立ったままワンピースをストンと下に落とした。


 途中で、お尻に一回引っかかってしまって、〈クルス〉は恥ずかしそうにお尻を動かして、再度落とした。


 〈クルス〉は、冬なので厚手の白いスリップのようなものを着ている。


 この世界では、ブラジャーがまだないようなので、後、〈クルス〉が着ているのは、下腹部のショーツだけだ。


 下着が厚手なので、残念ながら、〈クルス〉の胸の尖がりを認識することが出来ない。


 ショーツも白だから、スリップ越しに、薄っすら透けているだけだ。


 でも、胸の部分でスリップは二つの丘のように盛り上がっているし、太ももは半分以上むき出しになっている。


 〈クルス〉は、見るたびに、女性らしい、しなやかでたおやかな、身体になってきてる。


 夜なので、ランプの明かりしか無くて、離れていると細部が良く見えないのがもどかしい。


 良く見ようと、思わず〈クルス〉近づくと、


 「はっ、〈タロ〉様、最初に近づかないでと、言いましたよね。お忘れですか」


 と、首まで真っ赤にしながら注意してきた。


 興奮させるから、とっくにお忘れですよ。


 「ごめん。もう近づかないよ」


 〈クルス〉は、もう十分見せたと思ったのだろう、作ったばかりの制服を着てしまった。


 もお。


 「〈タロ〉様、もう近づいても良いですよ」


 僕は、おずおずと近づいて、改めて〈クルス〉の制服姿を見る。

《赤鳩》のお洒落な制服が良く似合っている。


 「〈クルス〉、何回見ても良く似合っているよ。〈クルス〉は頭も良いし、才色兼備だな」


 「もうよして下さい。〈タロ〉様。才色兼備なんてとんでも無いです。

 これ以上おだてられないうちに、外套を着ます」


 と言って、〈クルス〉は外套を制服の上に羽織った。


 外套は制服より薄い桃色で、店主が言ってたとおり、制服と良く合っている。


 「〈クルス〉、外套もとっても似合っているよ。〈クルス〉は何を着ても美人だな」


 「〈タロ〉様、私のことを良く言い過ぎです。もう褒めないで」


 僕は〈クルス〉の直ぐ傍までいって、


 「言い過ぎじゃないよ。言い足りないぐらいだよ」


 「もう、〈タロ〉様、褒めないで言ったのに。私が本気にしたらどうするのですか」


 「本気にしてよ。こうしたいから」


 と僕は言って、〈クルス〉のあごを人差し指で、少し持ち上げた。


 〈クルス〉は、もう目をギュッと瞑って、長いまつ毛が小刻みに揺れていた。


 僕はそっと、〈クルス〉に口づけをして、〈クルス〉を強く抱きしめた。


 〈クルス〉が放つ甘い匂いがする。


 〈クルス〉は、少し涙ぐんでいて、言葉が出てこないようだ。


 僕は、片手で〈クルス〉の髪を優しく撫でてみた。


 「〈タロ〉様、私はもう泣いた子供じゃないですよ。

 十五歳になった大人です。頭を撫でられるのは」


 「そうだな。〈クルス〉は大人だよ。〈クルス〉の髪が好きなんだ」


 「そうですか。そういえば、いつも触られますね。触るのは良いですが、嗅いじゃダメですよ」


 そういわれると、嗅いでみたくなるのが、人情というものだ。


 「〈クルス〉は匂いも美人だよ」


 「きゃ、ダメです。嗅がないでと言ったのに。〈タロ〉様、意地悪しないで」


 と言って、〈クルス〉は少し怒ったのか、僕の腕から逃れて睨んできた。


 怒っている〈クルス〉も、良いもんだな。


 「ごめん。もうしないよ」


 「前も言ってましたよね。

 もう遅い時間ですから、〈タロ〉様は自分のお部屋にどうぞお帰りください」


 すごすごと僕は〈クルス〉の部屋を出て行った。追い出された恰好だ。


 まあ、着替えも見れたし、キスも出来たし、匂いも嗅げたし、良いか。


 〈クルス〉の制服姿を見たのなら、〈アコ〉のも見ないわけにはいかない。


 領主たるもの、依怙贔屓はいけない。不平等で、争いが起こってしまう。

 入学の時に見ることが出来るという、話じゃないんだよ。


 意識の問題だ。たぶん。


 早速、〈アコ〉がいる西宮を訪ねる。


 当然、〈リク〉が付いて来る。それが彼のお仕事だから、是非も無い。


 門番のおっちゃんに、お土産の蜜柑と芋を手渡すと、手を叩かんばかりの大喜びだ。

 閑職だから、給金は安いのかも知れないな。


 知り合いの〈リク〉も雇ったから、おっちゃんらの好感度は、爆上昇中だ。

 いらんけど。


 ただ、願っても無い展開となった。


 〈リク〉と積もる話があるので、西宮の中は僕一人で良いのでは無いか、との申し出だ。

 王宮の中なので、護衛は要らないだろう、とのことだ。


 最も、もっともだ。もろ手を挙げて賛成だ。


 〈リク〉は、おっちゃんに、女性への手の出し方をしっかり聞いておけ。

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