第45話 すごい、大っきい。思ったより大きい。 

 領地に帰って、儲けを執事の〈コラィウ〉に渡した。


 「〈タロ〉様、良くこんな短時間で利益を上げられましたね。

 蜜柑を販売すると聞き及んでいましたが、脱帽するしかありません。

 これで、《ラング》子爵家は安泰です」


 「そんな大したことじゃ無いさ。幸運が重なったのだよ」


 「謙遜されますね。幸運だけではないと思いますが。

 そうそう、例の水車が完成しました。もう設置も終わって、順調に水を汲み上げ  ています。

 農長が張り切って作付けすると言っていましたよ」


 設置してしまったのか、最初に汲み上げる感動シーンを見たかったな。

 仕方がない、後で見に行こう。

 一人じゃ侘しいので、〈クルス〉と〈サトミ〉を誘って行こう。


「煉瓦職人を一人連れて帰ってきたんだ。

 住むところと煉瓦を焼く窯なんかの手配を頼むよ」


「ほう、煉瓦職人ですか。《ラング》の町にはいないですから有難いですね。

 一人だけなら住む場所の手配は何とでもなりますが、煉瓦を焼く窯の方は、私にもとんと見当もつきません。

 鍛冶屋の〈フィイコ〉さんに相談してみます」


「急で悪いけどよろしく。鍛冶職人でもあるらしいから、丁度良いんじゃないか」


 適当なことを言ってるけど、後の諸事は〈コラィウ〉に任せてしまえ。

 執事なんだが、家臣なので構わないだろう。


〈クルス〉と〈サトミ〉を誘って、水車を見に行った。


 農場を過ぎて、人目が無くなった所で、三人で手を繋いだ。

 右手に〈クルス〉、左手が〈サトミ〉の両手に花状態を満喫する。


 二人の手は、柔らかくてすべすべで、両手が同時に幸せを感じている。


 許嫁達の手を握るのは、平気で出来るようになった。

 二人とも嫌がる素振りが微塵もない。

 はずだ。


 僕は「手繋ぎスキル」をマスターしたのかも知れない。

 それがどうした、小学生か。


〈クルス〉と〈サトミ〉は、少しウキウキしているようで、「三人一緒で楽しいな」とか、「仲良し家族みたい」とか、ほのぼのと大きく手を振って歩いていく。

 僕の手も大きく振れている。


 水車は、直径3mはある大きなものだった。


「〈タロ〉様、すごい。大っきいね。〈サトミ〉、こんな大っきいの初めて見た。

 川の水をジャバジャバ汲み上げているよ。

 これで農地も一杯増えるよ。

 すごいね」


「すごい迫力です。思ったより大きいものなのですね。

 この水車を考えられた〈タロ〉様は、天才です。益々尊敬します。

 町の人達も、〈タロ〉様のことを傑物だと褒めそやしていますよ」


「そうか。褒めてくれてありがとう。

 大きいか。

 今後は、農地を増やして、領地を豊かにしていくつもりだ」


 初めて見た時、「〈タロ〉様のは、思ったより小さいものなのですね」とか、

 「こんな小っちゃいの初めて見た」とか、

 真実であっても、どうか言わないでおくれよ。


 何もかもが折れてしまうから。


 帰りは、何故か「大きい」という言葉に、過敏に反応した心を、感触が良い二人の手で慰めつつ、上をむいて、足を前後に動かした。


 新しい農地には、まず荒地に強い「そば」と「いも」を植えるらしいので、〈サトミ〉は食べるが楽しみと笑い、〈クルス〉は手料理を食べて欲しいと、珍しく大きな声で話しかけてきたよ。


 日課の勉強と鍛錬と領地の政務に精を出していると、王宮から使者がやってきた。

 王から、《ベン》島の奪回作戦に参戦して欲しいという密書を携えてだ。


 王国としては、情けなく負けたままでは、沽券にかかわる。

 有力貴族が、現王の資質を疑問視し始めている。

《ラング》子爵家も、前回があのようなことになったので、このままでは体面が保てず、他の貴族に侮られてしまうだろう。

 また、親の敵討ちに、年若い跡継ぎが立ち向かうのは、戦意を大いに盛り上げる。

 少年が、領地貴族の義務を健気に果たせば、他の貴族からの評価も上がるしかない。

 ただ、跡継ぎは一人しかおらず、まだ子供なので、前線はおろか陣にも加わらず、船に待機しておいてほしい。


 敵側の船舶を牽制する役割だけを行ってほしいとのことだった。


 親が亡くなったばかりで、経済的にも負担を掛けるわけにはいかないと、戦費も30金貨くれるようだ。


 執事の〈コラィウ〉に一応相談したが、危険がほぼなくて、戦費も持ってくれる話を常識的には断れないとのことだ。

 そうだろうな。


 前回の戦は、領地貴族である父親が討たれた印象が強いから、王様は、何としても、それを払しょくしたいんだろうな。


 仕方がないので、使者には参戦する旨伝えた。


 使者は秘密の厳守と作戦開始は、おって連絡するといって、王都にとんぼ返りで帰っていった。


 戦争に行くとは言ったが、正直怖い。


 船で牽制だけとはいえ何があるか分からないのが、世の常だ。


「深遠の面影号」は大きくて丈夫な船だが、もっと安全にする方法はないか。


 必死に考えた、というか、思い出した。


 丈夫さと大きさを生かして、船首にラム・衝角を付けよう。

 これなら「深遠の面影号」に近づける船はいないぞ。


 善は急げだ。


 そこらへんにいた、若い執事補佐に、船長の〈サンィタ〉を鍛冶屋まで来させるよう言いつけた。


 僕も鍛冶屋に行って、作製を依頼しよう。


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