第21話 〈クルス〉の病気

 猫の世話にかまけてたら、大変なことが起こってた。


 〈クルス〉の病気が悪化して、ベットから起き上がれなくなってしまった。

 体調を崩していたのに、雨の中外出して、一気に重篤化したようだ。

 このままだと、普通に命も危ないらしい。


 何としてでも、霊薬を手に入れなくてはいけない。


 薬に詳しそうな〈ドリー〉に、霊薬のことを聞くと

「〈ドリー〉、霊薬って知ってる」


「霊薬ですか。突然ですね」


「教養の勉強の宿題なんだ」


「人に聞くのはどうかと思いますが、どの本にも霊薬のことは、書かれてないかもしれませんね。

 存在しないのと同然ですから」


「それで知ってるの」


「仕方がないですね。

 私も詳しくは知りませんが、確か《王鳥草》という赤い花が、主な材料と、母が言っていた覚えがあります。

 魔獣が住む土地にしか生えていないので、薬を扱う者の「あり得ない物」の例えになっています。 

 軍隊を使っても採取出来ないような、幻の薬草ですね」


「助かったよ。有難う」


 霊薬の材料が生えている場所が分かった。

 巡察で釘を刺された、行ってはいけない場所だ。


 ただ、〈クルス〉をこのままには出来ない。

 元気になって、笑顔を見せてもらわないと困る。

 病気ではエッチなことが出来ないじゃないか。

 ましてや、〈クルス〉の綺麗な顔さえ見ることが出来無くなってしまう。


 暫く考えていたが、考えてばかりじゃしょうがない。

 行動あるのみだ。

 ホールに飾ってある剣を拝借して、ブーツなどの防具一式を倉庫から持ち出した。

 少しブカブカするが、しょうがない。

 何か布切れでも詰めておこう。


「赤い花」採取作戦は簡単なものだ。

 《紅王鳥》のテリトリーの端まで行き、そーっと見つからないように、《王鳥草》を取ってくるという単純な作戦だ。


 タールを採取している近くに馬を繋いで、後は歩いて行くことにした。

 暫く歩いても荒涼とした土地が続いて、ガスの匂いが漂ってきた。

 向こうに見える靄みたいなのは、天然ガスの噴出孔のようだな。


 もう少し進むと荒涼とした景色は終わり、広々とした草原が現れた。


 この荒涼とした土地は、魔獣の領域と人間の領域との、結界の役割を果たしているのかもしれないな。

 考えながら歩いていると、小石に蹴躓いて転んでしまった。

 ちょっと縁起が悪いぞ。

 ブーツも脱げてしまったので、布切れを丸めて、丁寧に隙間を埋め直す。

 その場で跳び上がったり、剣の型を繰り返して、入念に感触を確かめた。


 気を取り直してまた歩くと、草原のあちらこちらに、《王鳥草》としか思えない、深紅の花がポツポツと咲いている。


 なんだ、簡単に見つかったなと、思ったその時。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る