第3話 中年猫

 興に乗って歌っていると、突然笑い声が聞こえてきた。


「ヒィャヒィャヒィャ。可笑しすぎるー。 バカ丸出しの歌詞に壊滅的な音程。

 すごいネタだ。今まで聞いた中で最悪のギャクだ。 天才バカが居るよー」


「いきなり何だ。何者だ」


「苦しいョー。お腹が捩れて千切れるー。助けてくれー」


 良く見るとデブった中年ッポイ鯖寅模様の猫が、目の前で笑っているのか、苦しがっているのか、ジタバタしている。


 猫で中年ってどうかと思うが、艶がない毛並みとか雰囲気が中年にしか見えない。

 中年猫にバカにされて、腹立たしいし、恥ずかしいし、もはや悲しい。

 誰にも聞かれたくなかった、恥ずかし歌を聞かれてしまった。

 顔が真っ赤になったじゃないか。

 どうしてくれるんだ。

 チクショーめ。


 後、人語を喋っているぞ。

 コイツは何だ。


「失礼だろう。笑うのを止めろ。お前は何なんだ」


「ヒィヒィヒィ。ゼィゼィ。 あぁ、苦しかったョ。

 あまりに酷くて、面白くて、我慢できなかったョ」


「本当に失礼な猫だな。もう一度言うお前は何者なんだ。

 人語を喋れるのはどうしてなんだ」


「そう怒るなョ。吾輩は「ジュジュシュ」という名前の「天智猫」だョ。

 人間の言うところの魔法生物の一種だョ。

 人語を喋っているわけではないョ。

 吾輩の言葉を、君が理解出来ているようだな。

 意志疎通出来ることは、こちらが聞きたい話だョ」


「魔法生物。何だそれ」


「魔法生物は魔法生物だョ」


「答えになっていないぞ」


「面倒だな。

 魔法生物とは魔法が前提となっている生き物だョ。

 魔法で構成されているということだョ」


「全然分からない」


「頭が悪いのか。ようは不思議で偉大な生き物だョ」


「もう良い。

 偉大は冗談でも無いけど、魔法生物とは、ネコマタやチュシャ猫みたいなものか」


「その概念は良く分からないが、まぁ、そんなものだョ。

 偉大は厳選なる事実である。 譲れるものではないョ」


「魔法とはなんだ。人間も魔法が使えるようにならないのか」


「人間には魔法は使えないな。 使えるのはスキルだけだョ。

 魔法を使えるのは魔法生物だけだョ。」


「ケッ。つまらない話だ」


「君は子爵家の一人息子の〈タロ〉君だと思うけど、とても只の一四歳の子供とは思えないョ。

 今の会話の中にも、聞いたことがない概念が出てきたけど、君こそなに者なんだョ。

 言語を理解するスキルなんて聞いたこともないョ」


 この猫中々鋭いな。

 興奮して喋っていたら、つい襤褸が出たかな。

 ここは安全優先で、誤魔化すに限るな。


「何を言うか。僕は正真正銘この子爵家の一人息子の〈タロ〉様だ」


「ハァー、自分で正真正銘とか、様付けとか、怪しすぎるョ」


「ムッ。そんなことは無い。断固として〈タロ〉様だ」


「・・・・こんなことを言い争っても、埒が明かないのでもう聞かないョ。

 やれやれ」


「フッ、僕の勝ちのようだな」


「・・・・勝ちね。どうでも良いけどね」


「ところでネコマタは、ここに何の用でいるんだ」


「ネコマタじゃないけど・・・。

「天智猫」は町に居つくというか、町全体を縄張りにする生物なんだョ。

 この町が良い波動に包まれつつある前兆があったので、少し前から住んでいるんだョ」


「勝手に僕の町に住んじゃ困るな。何かよかなることを企んでるんじゃないのか」


「・・・・住処を悪くしてどうするんだョ。

「天智猫」は、町を守護し、町に恩恵を与える聖なる存在と、世界中で敬愛されているんだョ。

 神獣とも呼ばれて偉大なんだョ」


「住んでいると何か特典があるのか」


「・・・・特典てなんだョ。 商売しているのでは無いョ。

 町を悪意ある者から守っているだけでも十分偉大じゃないか」


 神獣か。本当なんだろうか。

 瞳の色が万華鏡のようにクルクル変わるし、ヒゲがやけに長い。

 普通の猫では無い気もする。

 喋っているし。


 良く分からないものは、適当に対応するしかないか。


「偉大が好きだな。

 今日のところは、良く分からんので、処遇は保留にしておいてやる。

 ありがたく思え」


「・・・・生意気だョ。 こっちこそ、変な奴が居るけど暫く住んでやるョ。

 有難く思えョ」


 中年猫のクセに生意気な物言いだ。


「決して思わん。

 その辺でウンコして町を汚さないように気を付けつけろよ。

 それと、人の物を盗ったりするなよ。

 そんなことをしたら、ネコババに成っちゃうからな。

 グフフー。

 うんこと盗るで、ネコババ。 恐ろしく決まったな」


「・・・付ける薬がないョ。辻褄があってないョ」


「フッ。 バカな話をしていたらもう夜更けか。

 眠いから僕は館に帰る。 サラバだ」


 中年猫が、まだ、ブツブツ言ってるけど、無視。無視。


「フゥー。発展の予兆があったのでこの町に来てみたけど、不思議な人間がいるョ。

 目の前の子供が、発展の因子であることは間違いないけど、町が変な方向に発展しそうだョ。

 だけど面白そうではあるね」

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