若者たちの夜明け
あるふぁべっと
若者たちの夜明け
懲役を全うした専門学生たちは、学生街の居酒屋で安酒に酔いつつ将来を朝まで語り合った。
「俺らみんな地獄を生き延びた、一生の友達だかんな!」
頃合いに店を出ると、通りのあちこちに倒れていた若者たちが曙に映えて、なんだかゾンビ映画のワンシーンのようだった。飲みすぎた奴らの介抱を済ませて、疲れ果てた生き残りのみんなとそれなりにお別れを済ませて、始発の電車に揺られていると酷い気分で、一刻も早く家に帰りたくてしょうがなかった。
「……〇〇ちゃん、ゲーム会社で働くんだよね?」
「……うん」
「いいなぁ、〇〇ちゃんセンスいいもんね」
「……どーだろね」
「あー嫌だなぁ、働きたくない……」
「……」
「ずっと学生のままが良かったって思わない?」
「……だね」
「それでさ、今日みたいに毎日飲んでさ」
「……おかげで私は死にたい気分だけどね」
「あはは! 飲み過ぎだよ~」
「……」
そうしてそれから、私はいつの間にか眠っていたらしく、
「……〇〇ちゃん、絶対また今度すぐ飲み行こうね」
電車を降りる
「うんっ、絶対ね、またね」
眠りから醒めた途端の精一杯の愛想で応えて、プラットホームの彼女に手を振って、別れた。私は降りる駅に着くまでのあいだ車窓の遠くが徐々に明るくなるのを何気なく眺めて過ごして、家に帰って、体を洗って、ベッドの上に倒れ込んだ。
――
それから数日後の夜、近所のとある友人から「コンビニいきたい」とメッセージが届いた。私は「おっけ」とだけ応えて部屋着のまま家の外へ出た。最後に彼女と会ったのは半年ほど前だっただろうか。
「よっ、久しぶり」
「お疲れさま、なんで急に?」
「今日仕事疲れたから、酒飲みたくなった」
「ふーん」
それから私たちはコンビニでいくつかの酒、つまみを買って、真っ暗な公園のテーブルに向かい合ってぐだぐだと話し始めた。
「てかさ、専門卒業したんでしょ」
「うん、した」
「どこで働くの?」
「東京でゲーム作ってるところ」
「でイラストかぁ」
「そう、お絵描きすんの」
「どーなの、そーゆーのって? 全然知らないけどブラックなイメージある」
「さぁーね? 実際に入ってみなきゃ分かんない」
「ふーん。まあ、死にたくなったら辞めて私と一緒に家建てよーよ」
「馬鹿、熱くて死ぬわ」
「アハハ! ……あ、そーいえば今日仕事でさ……」
そうしてそれから、十二時近くなった頃、
「あーそろそろ帰って寝るわ、明日も仕事だし」
と、彼女は空き缶をレジ袋に詰め始めた。
「おー大変だねぇ社会人は」
「そのうちオメーも言いだすよ、仕事辞めたい死にたい家建てたいって」
「ハハ、間違っても家は建てないよ」
やがて彼女が立ち上がり、
「じゃ、私もそろそろ帰ろーかな」
私も立ち上がってテーブルを離れた時、彼女は私を指差して、
「そうだ〇〇、卒業おめでとう」
と言った。
「……うん、△△も仕事頑張れ」
そうして私たちは別れた。彼女と再び会うのがいつになるかは分からない。けれども、私たちはきっといつまでも相変わらずだろう。何にせよ、友だちに余計な挨拶は要らないものである。
若者たちの夜明け あるふぁべっと @hard_days_work
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