なぜなのか

第12話

 奈々子の母は糸がぷつんと切れたかのように話した。たしか奈々子からはうちのお母さんは喋ると止まらない、うるさいのよーというのは聞いていたが本当にそれっぽいようだ。


「……あの子が孝雄さんを連れてきた時、びっくりしたのよ。近所の大崎さんちの息子さんで。大崎さん夫妻は近所ではクレーマー夫婦って呼ばれてて有名だったのよ」

 大崎孝雄、奈々子の夫。2人とも近所同士だったのだが年も離れていたため互いに知らなかったという。その2人が婚活パーティーで出会って付き合うってどういう運命なのだろうか。


 にしても……クレーマー夫婦、わからなくもない。

「奈々子にはずっと孝雄さんもだけどあの義親2人のことを聞いてました。でも嫁に入ったんだから耐えなさいと主人が言ってて……仕事もしなくても孝雄さんがしっかり働いて稼いでるから奈々子が支えなさいよと。主人は昔ながらの人ですからね……わたしは何も言えませんでしたが愚痴は聞いてました」

 わたしも聞いていた。でも愚痴というよりかはこういうことをされた、言われたという形で。わたしはひどい、おかしいと言ってそしたら奈々子はそうだよね……と。


 聞いてくれてありがとう、と最後に添えるのだ。


 奈々子の母は手が震えている。

「あのクレーマー夫婦の息子だからわたしはやめなさい、と言えばよかった。でも遅かった。娘は孝雄さんにぞっこんだったから。30手前の娘、孫も見たかった……これを逃したらって。でも反対してればこんなことにならなかった!!!」


 わたしも……結婚前の奈々子が結婚式の準備をしてくれない孝雄さんのことを話していたのを覚えている。

 仕事が忙しいからとの理由だったが奈々子も仕事をしていた。そして自分1人でやったのか文句を言われたと。


 すると美樹が

「結婚式の前に愚痴なんてーわたしたち参加するんだからやめてよー」

 というと奈々子はそれ以来、結婚式のことで愚痴どころか相談もしてこなくなった。


 晴れて結婚式は開かれた。とても鮮やかで幸せ、そのもの。地元の教会で開かれてホテルでの披露宴。

 その当時は結婚式場という結婚式を挙げる専門のところで結婚式を挙げる友人たちの多い中、とても新鮮であった。


 しかしなんだか安っぽくて出てくる料理も質素で式場の人たちも不慣れなようでミスも目立った。私もダメだそういうのつい見てしまっていた。


「外面ばかり良くて、見栄っ張りのくせしてケチなのよあいつら。葬式の花もグレードも1番最低のライン……」

 奈々子の母がいきなりその話をし出してわたしはびっくりした。


 確かに花の数は少ないとは思っていたが家族葬だし、と。

「結婚式だって結婚式場よりもかなり抑えたとか言ってたけど……あなたは参加したからこんなこと言うのあれだけど……一番下の下のコースだったの。孝雄さんは全部親に丸投げ、あっちの親たちは見た目だけ見栄をはってけちりにけちってた。うちの親戚全員それ見抜いてたのよ……」

 ボロボロと泣き出した。


「おばさん、時間の許す限り話してください。わたしに……」

 それから1時間くらいか。もう考えられない常識を超えたことを聞き、わたしは絶句していた。

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