所詮、他人事

第10話

　とりあえず美樹と真由美に連絡したら二人とも行かないという。

　美樹に関しては娘が昨日の通夜を見てショックを受けたらしく、もともと不登校気味だった彼女は寝込んでしまったらしい。あの時美樹はとても強気だったが、悩みは出さない人だと思いだし、ああ無理してたのかと。口では軽く娘は不登校気味でとか介護しなきゃとか言うけど実際はどんなのか見たことはないが辛いのかもしれない。想像の中だけど。

　真由美に関しては私が行くなら、と最初はもぞもぞ言っていたが仕事が休めないとかなんたらでやはりいかないとのこと。

　さっきテレビで男の身元が判明したがその男の名は誰なんだろう、とは言っていたが私も知らないし、みんな知らない。

　かと言って調べるわけでもない。テレビでは彼の母親が一週間ほど連絡が取れなくてしまいには職場の人が無断欠勤していることで捜索願を出されたばかりだったらしい。

　関東の人らしく、なぜそんな彼が東海地区のこんな田舎で……と思うだろう。

　奈々子がなぜ関東の見知らぬ男と、いや彼女は知っているだろうがそんな男と一緒に？

　それに彼女は仕事を辞めさせられ、専業主婦として家事育児をしているのだが、外に出るのもなかなかない。

　なぜ関東の人と？

　……。

　踏み入れてはいけないけどなぜなのか。……告別式にこんな中行くだなんてさらなる地獄を見そうだが……私は行くしかない、と思った。

　私は準備をしながらも過去を思い出した。奈々子との過去を。

　奈々子は大学を卒業してようやく彼氏ができたもののいい男に恵まれなかった。

　最初の男は嫉妬ばかりするから別れたいと言ったら長文のラインを送ってきて、しまいには車の中で軟禁されたり。

　次の男は年下だったが非常識な男で仕事もふざけて結婚も決まっていたのだが無断欠勤を繰り返して婚約破棄をしたり。

　その次は年上の男は優しそうで明るい男だったが浮気者で5股かけて別れさせられた挙句に別れても体の関係だけを続ける男。

　四年でこんなにも……と絶句するばかりだった。

　最後のセフレ状態だった男とまだいると知った私は呆れてしまったし、もうこの時には結婚して子供がいた美樹は苦笑い、真由美は相変わらずそのことをネタに笑ってた。

　その男と繋がっている、それだけでもいいとは言ってたが顔はやつれ切っていた。

　もう30近いのにそれでいいの、だなんていえなかった。

　言えばよかったのに。ほんとこの時から他人事のようね、わたし。

　しかしいきなり

「私、婚活に行くんだ」

　と唐突に言われた時には奈々子の行動力の謎さは昔から変わらないなと。今思えばそうである。

　たしかこれは東北の震災が起きた頃だ。２０１１年に。もう１０年以上前のこと。

「不安だけど……行ってみる」

　真由美は羨ましがっていた。私も行きたい〜とか言っていたがその当時は震災があり、誰かといたいという男女たちがこぞって婚活パーティーや街コンで出会いを求めていた。

　私はそんな見知らぬ人と出会うなんてギャンブルすぎて無理だわ、と思った。のちに真由美と地元の街コンに行ったが特に収穫なかった。

　奈々子はその一回の婚活で出会ったのが今の夫であった。

　すごい、そしてすぐ付き合い始めた、と思ったら２年後にはすぐ結婚した。

　ああ、もっとその夫という人を見ておけばよかった。

　あの時は前のセフレと付き合ってた頃よりも幸せに満ち溢れていたから。まさしくお花畑の中にいるお姫様のようだったから。

　ああ、心配することないんだなって。それが間違いだったのか。

　と、過去に浸ってる頃に電話が来た。誰だろう。

　私は出た。普通なら出ないのに。

『もしもし、大崎奈々子の母です』

　奈々子の母だった。