【BL】雨のち晴れ。―青空の下、君と―

学校で。

　今日は一時間目から体育だ。夏なので水泳の授業である。陽射しがプールサイドを照らし、揺らめくプールがそれを反射する。

「……眩しい」

　ミノリは顔の前に手を翳し、陽射しを遮る。

「ミノリ」

　聞き慣れた声が聞こえ、声がした方を振り向いた。

「ハルカ」

　水着姿で近付いてくる彼の整った躯付きは自分には無いもので、憧れる。無い物ねだりなのは判ってはいるが。

「これ被ってろ。陽射し避けだ」

　頭にキャップを被せられる。

「あ、うん……判った」

　キャップのつばを掴み、深く被る。見とれていたことがバレていないかが非常に気になるが、そんなことは問えない。

「…………」

「なに？」

　なにか言いたげに見詰めてくるので、ミノリは声を掛けた。

「別に……」

　返ってきたのは頭を撫でることだけで。

「昨日はありがとな」

「昨日も聞いたな、それ」

　『ごめん』と言われるよりは心地がいいが。

◇◆◇◆◇◆

　外灯がぽつりぽつりとある道。他の明かりは、家から漏れる微かな明かりと月明かりだけ。そんな中、二人は手を繋ぎ、歩いていた。

　端から見ればちょっとと思うかも知れないが、手を繋ぐことで隣にいることが判って安心出来た。

　温もりが、ある。それはとても嬉しいことで。

『大丈夫か？』

『平気』

　言葉と共にミノリは軽く頷く。

　一人では恐怖に打ち勝てないが、二人では打ち消すことが出来た。

　それは他の誰かではダメだ。ハルカでないとダメだった。それほどまでに、ミノリにとってハルカは、絶対的な位置にいた。それは変えることが出来ない。

『ハルカ、ありがと』

『当たり前だろ』

　暗くて顔がよく判らないが、笑っているのが気配で判った。

『ありがと』

　ぎゅっ、と手を握れば、ハルカの温もりが手から伝わる。

『…………可愛いことするなよな』

　彼はボソリと呟いた。それは小さすぎてミノリには聞き取れなかった――。

◇◆◇◆◇◆

「……」

「ハルカ？」

　上の空のハルカに声を掛ける。

「あ、なに？」

「また上の空かよ？」

「いや、別に。上の空って程じゃない」

　『集合』と体育教師の声が聞こえた。それに合わせて、生徒達は教師に歩み寄る。

「お前、先生が呼んでるぞ」

「判ってる。じゃあな」

　ぽん、と軽くキャップに手を置いた。刹那、彼は手を離して歩き出す。

　ミノリはフェンスに凭（もた）れ、座り込んだ。目の前に広がるプールを、ぼんやりと眺める。

「泳げたらなぁ……」

　それが不可能なことぐらい判っているけれど。

　ピーッとホイッスルが鳴る。準備体操をする合図だ。

　リズムよく鳴るホイッスルが合図となり、生徒達は次々と体操をしている。ピーッと一際長く鳴り響き、体操が終わった。

「暑い」

　ぱたぱたと手を扇ぐが、風は微かにしかこない。

　今日は初日だから二十分自由だ、と言う体育教師の声が聞こえた。自由だってぇ、と言う女子の声や、プールに飛び込む音が耳に響く。目の前には楽しそうな光景が広がっていた。

　ふ、と目の前が肌色になる。視線を上に向けると、見知った顔があった。

「隣いいか？」

　返事も聞かずに、彼はミノリの隣に腰を下ろす。

「なんだよ、泳がないのか？」

「自由なんだし、なにしててもいいだろ」

「でも……」

「俺がミノリといたいんだよ」

　言いながら頭を撫でる。

「な、なんだよ、それっ」

「他の奴と喋るより、ミノリと喋る方がいいからな」

「バッカじゃねえの」

　言い放ちながら、フイとそっぽを向く。恥ずかしさで耳まで赤くなっていたことに気付かないまま。

「ホントにバカだ」

　ミノリは呟く。自分なんかと付き合うよりは、他の人と付き合った方がいいだろうに。――その方が、ハルカの為になるのに。

「なぁ、ハルカ」

「んー？」

「お前、オレといて楽しいの？」

　何時（いつ）も頭の片隅にある言葉。何故か不意に口から出てきた。

「楽しいよ。ミノリは？」

「オレは――」

「ハルカぁ」

　女子の声に言葉が掻き消される。声を掛けたその女子はプールサイドに上がり、二人に歩み寄った。滴る水滴がプールサイドを濡らす。

「一緒に泳ごうよ」

「メンドクサイからいい」

　彼女の申し出を彼ははっきりきっぱりと断る。

「えぇ？　もう、めんどくさがりなんだから。ねぇ、ミノリくんからもなにか言ってあげて」

　大きな瞳がミノリを見下ろす。

「え？　あ、えと……その……」

　なにかとはなにか。そんなのは自分で言えばいいじゃないか。そう思うが言葉には出来ず、困り果てて彼女を見ると、大きな瞳とぶつかった。怖くなり彼は俯いてしまう。

「……判った。あとから行く」

　ハルカはため息混じりに言い放った。

「ホントに？」

「あぁ。だから早く戻れよ。焼けるぞ」

　日焼け止め塗ってますぅ、と紡いだ後にバカにするなよとでもいうようにべっと舌を出した。あー、そうかよ、と彼はすぐに返答する。

「じゃ、待ってるからね」

　言い放ち、プールに戻ってしまう。行きとは違い、足取りは軽やかだ。

　女子がいなくなったので、そろそろとミノリは顔を上げる。こちらを見ていたらしいハルカと視線がぶつかった。

「さっきの続きだけど、ミノリは俺といて楽しいのか？」

「……判んねぇ」

　数秒間の沈黙の後に、口を開いた。

「判らない？」

「ハルカといると自分を出せるけど、楽しいのかは判らない」

　俯き加減で言い放つ。キャップのつばが影になり、どんな顔をしているのかは判らない。

「ごめんな。聞いたのはオレなのにな。ハルカはちゃんと言ってくれたのに、オレはなにも言えなくてごめん」

「謝らなくていいから。俺はミノリの気持ちを聞けてよかったと思ってる」

　ハルカはミノリの頭を撫でる。それは癖になっていた。

「だからそんなに落ち込まなくていい」

「……なんでだよ」

「なにが？」

「なんでそんなに優しくすんだよ？」

「優しくするのに、理由がいるのかよ？」

　疑問を疑問で返される。しかも返答するのに困る疑問だ。

「理由……なんて……」

「いらないだろ。俺が優しくしたいからする。ただそれだけだ」

　本当にそれだけなのか、と問いたかった。口が動いてくれず、問えなかったけれども。

「じゃあ、俺は行くからな」

　彼は立ち上がり、軽く伸びをする。

「ハルカ……っ」

　ごめんと声を掛けようと立ち上がれば、バシャン、と水の音がした。反射的に音がする方を向く。

「あ……」

　そこには二人の男子がじゃれあっている姿があった。一人は頭を押さえられて、一人は頭を押さえている。やめろって、と頭を押さえられている男子が言い放った。嫌だってぇの、と頭を押さえている男子が言い放つ。頭を押さえられていた男子の顔がザパン、とプールにつけられる。すぐに起き上がり、やったなぁ、と仕返しをしようとする。――その姿は誰？

「あ、あぁ……い、やだっ！」

　呼吸が荒くなる。目頭が熱い。

「ミノリ？　どうした？」

　ミノリの異変に気付いた彼は手を伸ばす。

「ごめんなさいっ、ごめ……なさっ……」

　躯を震わせ、ごめんなさいと消え入りそうな声で呟く。

　そんなミノリの肩に手を置き、引き寄せる。反動で、被っていたキャップがプールサイドに落ちた。

　じゃれていた人も、泳いでいた人も、プールサイドを歩いていた人も、体育教師も――男女全ての動きが止まる。何事かと二人を見ていたからだ。

「大丈夫だ」

「っ――！　嫌だっ！」

　どんっ、と強い力で突き放す。彼はよろめき驚いた顔でミノリを見遣った。

「嫌だ……、ごめっ……ごめんなさい……ごめんなさいっ……」

　反動で足がふらつき、背中がフェンスにぶつかる。カシャン、と鈍い音が辺りに響いた。そうして彼は力なく地面にへたり込んでしまう。

「ごめんなさい……」

　ハルカはミノリに歩み寄って座り込む。視線を合わせ、震える彼の頬に手を添えた。

「大丈夫だ。大丈夫だから」

「……ハ、ル……カ……？」

　荒い呼吸が落ち着いてくる。

「…………も、う嫌だ」

「なにが？」

「お前がいないとなにも出来ない自分が嫌だっ。なんでこんなんなんだよ!?　なんで……っ」

　眉を寄せて、今にも泣き出しそうな顔付きで、ミノリは彼を見詰める。

「それでも構わない。俺はミノリの傍にいる。どんな理由でも、ミノリが俺を求めるのなら、それは嬉しいことだから」

「嬉しい？」

　ミノリは問う。何故嬉しいのか知りたかった。

「俺は――……、いや、やっぱ今度な」

　言い含みが気になったが、敢（あ）えてなにも聞かない。いや、目の前で微笑むハルカには聞ける雰囲気ではなかったのだ。

「大丈夫か!?」

　ことの成り行きを見ていた体育教師が小走りで二人に近付いてきた。

「大丈夫です」

　ハルカは立ち上がり、言い放つ。

「あー、お前等はその、そういう関係なのか？　いや、別に悪いことではないけど……」

　頬を掻きながらしどろもどろに、教師は言う。

「……なにを言ってるんですか？」

「あ、いや……。気にしないでくれ」

　体育教師は慌てて両手を前に出し、左右に振る。

「先生、ミノリを保健室に連れていっていいですか？」

「あ、あぁ……。着替えてから行けよ」

「そのつもりです」

　ぐっとミノリの腕を掴み、立たせる。

「ハ、ハルカ？」

「……行こう」

「ちょっ……、痛いって」

　強く腕を引っ張られ、痛みで顔が歪む。

　二人はプールサイドの端にある更衣室へと入った。後に残った体育教師とクラスメイト達は、ぽかんと口を開けるしかなかった。

◇◆◇◆◇◆

　更衣室は陽射しが入って生暖かい。

「ごめん」

　更衣室に入るなり、彼はぱっと手を離す。

「いや……大丈夫」

「着替えるからちょっと待ってろ」

「判った」

　彼は小さく頷いてドア付近で待つことにした。

　ちらりとドアを見ると、窓ガラスから外の様子が見える。楽しそうに泳ぐクラスメイト達。楽しそうに話し合う人々。そこにはハルカがいない。友達の中で笑っているハルカがいなかった。

「……あのさ、ハルカ」

　ロッカーにあるズボンのベルトに手を掛けたところで、ミノリに声を掛けられる。

「どうした？」

「オレ一人で保健室に行くからさ、ハルカは授業続けなよ」

「ミノリ？」

　ハルカからは彼の後ろ姿しか見えない。ミノリがどんな顔をしているのか、ハルカには全く解らなかった。

「ハルカは何時もオレを守ってくれるけど、オレはハルカを犠牲にしたくない」

「なにを言ってるんだ？」

「オレは……、オレの所為で誰かが犠牲になるのは嫌なんだ……」

　こんなのは嫌だ。なにも出来ないのは嫌だ。迷惑をかけ続けるのは嫌だ。過去に縛られたままでは嫌だ――。

「ミノリ」

「ハルカには笑っていてほしいんだ」

　彼はドアノブに手を掛ける。

「待てっての！」

　ミノリの腕を掴み、強引に引き寄せた。

「さっきからなにを言ってるんだよ？」

「っ……離せよっ」

　手を引きたいが、引けない。引こうと思えば強い力で引き寄せられる。

「ミノリ。説明してくれなきゃ判らないだろ」

　優しい声に、頭が冴える。自分はなにも説明をしていないことに気付いた。

「だからっ……、ハルカはオレなんかより、友達といた方がいいって言ってんだよ！」

「どうして？」

「どうしてって……。オレといるとハルカは友達と遊べないし、馬鹿話とか出来ないから……。迷惑だろ？」

　一通り説明を聞いた後、短いため息を吐いた。

「――だから離れろって？」

「そうだよ。オレは別に一人でも大丈夫なんだからな」

　人間（ヒト）は一人では生きていくことなど出来ない。それなのに、彼は一人になろうとする。誰かが傍にいないと、色んなモノに押し潰されて壊れそうなのに。

「バカ！　どこが大丈夫なんだよ。さっき言いかけたけど、よく聞けよ」

　彼はミノリを抱きしめる。この際半裸はどうでもいい。

「俺は――お前がいたから生きてこれたんだ」

　なにを言っているのか、理解出来なかった。

「なにを言って……？」

「言葉の通りだ。ミノリがいたから俺は生きてるんだよ」

「オレが……いるから？」

「そうだよ。だから離れない。俺はミノリの傍にいる。どんなことがあっても、傍にいる」

　わしゃわしゃとミノリの頭を撫でる。

「迷惑だなんて思ってないから」

　そうだ。そうだった。彼はなにがあっても傍にいてくれた。迷惑だったら端からそんなことはしないだろう。

「……うん……。ごめん……。変なこと言って」

「気にしてないからいい」

　彼を離し、着替えていた場所に戻る。ばさっ、とワイシャツを羽織りボタンを留めて、着替えた水着を片付ける。なにがあるのか判らないので、水着は持っていくことにした。

「行くか」

「うん」

　ハルカはミノリの手をぎゅっ、と握った。

◇◆◇◆◇◆

　保健室は消毒液の匂いがする。鼻を刺すその匂いは、好きにはなれなかった。

「いないな。保険医」

「うん」

　ドアを開けて辺りを見渡すが、人の姿は見当たらない。

「寝とくか？」

「いいや」

　ふるふると首を横に振る。

「でも顔が赤いぞ」

「気のせいだし」

「まぁ、一応熱計っとくか」

　ソファーに歩み寄り、彼を座らせる。

「い、いいよ。熱ないし」

「判らないだろ」

　机の上に置いてある体温計専用のペン立てから体温計を取り出し、彼の顔の前に翳す。

「ほら、計る」

「判ったよ。計ればいいんだろ」

　手から体温計を取り上げつつプラスチックのフタを取り、体温計を取り出しスイッチを入れる。それを慣れた要領で脇に挟んだ。

　眺める窓ガラスからは陽射が入り、青い空が瞳に映る。

「空……」

「ん？」

「青いなって、思っただけだよ」

「そうだな。青くて綺麗だ」

「……うん」

　ピピッ、と体温計が鳴った。脇から体温計を取り出し、表示を見てみる。表示板には『３７．２℃』と表示されていた。

「七度二分か……。微熱だな」

「気のせいだって」

「バッカ。夏風邪を甘くみるなよ」

　ミノリの額に手を添えれば、ハルカの眉間は寄った。

「やっぱちょっと熱いな」

「大丈夫だっての」

　この熱さは風邪の熱なんかじゃない。ではなにかと問われたら、触れられて体温が上がったのと自分の愚かさが表れただけに過ぎないというのが答えである。

　彼の手を退かし、ミノリはベッドのある方へ歩き出す。

「寝てれば治るし。オレは寝るから、ハルカは戻れよ」

「メンドクサイからいい。それに、保険医に寝てることを伝えないといけないだろ」

　言い放ちながら、ミノリの傍まで近付いてくる。

「そうかよ……」

　スリッパを脱ぎベッドに上がる。ギ……ッ、と軽くそれは軋んだ。

　布団を手に取り、そのまま寝転がる。布団が上にかかるワザだ。

「ハルカは……誰にでも優しいよな」

　ボソリと呟くその声は、小さすぎて聞き取れない。

「ん？　なに？」

「なんでもねぇよ。おやすみっ」

　恥ずかしいので布団を顔まで被れば、頭になにかを乗せられた。そのなにかは動いているので、多分手だろう。

「おやすみ」

　どんな顔で言ったのか少しだけ気になるが、すぐに睡魔が襲う。

　――ハルカは優しかった。基本的には誰にでもだ。ぼーっとする頭で、そんなことを考える。

　ダメだ……。目がしょぼしょぼしてきた。眠い。これ以上は考えられない。深い眠りに誘われ、ミノリの意識はそこで途切れる。

◇◆◇◆◇◆

　寝息が聞こえ、ハルカは顔まで掛けてある布団を肩までに直した。

「寝たか……」

　そっと彼の前髪に触れる。

「好きだよ、ミノリ」

　起きている時には絶対に言えないけれど。悩ませるくらいなら、言わない方がいい。

「好きだ……」

　前髪に触れていた手を頬に滑らせる。

　ダメだろう。なにをしようとしているんだ。ダメなのに――。そう言い聞かせても、止まらなかった。ハルカはミノリの口を塞ぐ。すぐに離したが。

「……ごめんな」

　誰かの呟きが聞こえた。誰に謝っているのだろうか。ダメだ。判んねぇ……。睡魔には逆らえず、また眠りに堕ちる。

　よろめきながらソファーの方へ歩き、ハルカは端に腰を下ろした。小さく息を吐き、彼は俯く。

「……なにをしてるんだよ」

　こんなやり方は卑劣だ。寝込みを襲うなんて最低じゃないか。それでも――。

「ごめんな、ミノリ」

　それでも、好きなんだよ。この気持ちは変わらない。

「……笑っていてほしいのに……辛い顔をさせてばかりだ」

　座り直し、背凭れに背中を預ける。

　『あの時』に――決めたのに。辛い思いはさせないと、決めた。それを破らないように生きてきた。それなのに……！

「なんでだよ……っ！　なんで俺はなにも出来ないんだよっっ！」

　ダンッ、と拳で机を叩く。なにも出来ない。なにも――。不甲斐なさに泣きたくなった。

「くそっ……」

　でも、泣きたくても泣けない。泣く術なんてなんて忘れてしまったから――……。

　窓を抜ける風が、カーテンを踊らせた。

◇◆◇◆◇◆

『うるさい！』

　ごめんなさい。もうしないから。

『うるさいっ！　うるさい、うるさいっ！』

　ごめんなさい。ごめんなさい、お母さん。

　だから。だから――。

◇◆◇◆◇◆

「め、なさ……」

　彼は苦しそうに呟く。

「ミノリっ!?」

　微かな声が聞こえ、彼はミノリの傍に駆け寄った。

「ごめ、なさい……」

　彼は眉を寄せて、誰に向けているのか解らないが謝る。

「ミノリはなにも悪くない」

　そう言いながら、優しく頭を撫でた。

「悪くないんだよ」

　お願いだから、辛い顔をしないで。

「お願いだから……笑っていて下さい」

　なにを犠牲にしてもいい。例え、自身が犠牲になろうとも。

　ミノリが傍にいて笑ってくれるなら。――傍にいてくれるなら。全てを捨ててもよかった。

　誰に言うでもなく、それ程の想いがハルカにはあった。