第10話 進歩
ママに『天界の歴史と地政学』を読み聞かせをしてもらってから2カ月が経った。
前回までの幼児向けの本のように1カ月で読めるようになるのは不可能だったが、今までに無い向学心と集中力で2カ月目にはかなりの部分が理解できるようになった。
そして歩く事自体もかなり上達し、喋る事もかなり出来るようになって来た。
ママには『天界の歴史と地政学』の読み聞かせを続けてもらい、寝ている時間と食事の時間以外を魔法の練習と、他の本を読む事に当てていた。
「ぶらっきゅばーすと」
俺の滑舌もかなりよくなって来たので、ほぼ完全に魔法を唱えることができるようになったが、残念ながら全く魔法は発動しない。
やはり天使であるこの身体で暗黒魔法を使用する事はできないのだろうか?
それであれば、天使の魔法である聖魔法を試して見たいのだが、俺の手が届く範囲には残念ながら聖魔法を記載した本は一冊もなかった。
今俺が一人で読んでいる本は『天使の健康と医学』だ。
題名だけを見るとこの家には、かなり難しい本が置かれている。政治や領地経営やその実務に関する本が多いようだ。
その中では、下段にあって俺でもなんとか興味を持てそうな本が『天使の健康と医学』だ。
そもそも天使と悪魔では体の作りも違うはずなので、現在の自分の身体の事を把握しておきたかった。
まず一番違うのは、俺の背中には小さな翼が生えている。
おそらく成長とともにママ達のように大きな翼になるのだろう。
子爵級悪魔の時の俺には羽がなかった。悪魔でも種族によっては羽が生えているものもいるのだが、俺には無く空を自在に飛べるといった事もなかったので、今から密かに楽しみにしている。
「あら〜ファルエルちゃん今度は『天使の健康と医学』を読んでるんですね〜。それじゃあママが読んであげましょうかね〜」
いや、図解入りのこの本は俺でもなんとか読めているので、どうせなら別の本が良いと思った俺はとっさに目の前に置かれてあった『天使社会における大衆意識と貴族体制の変遷』と言う長い題名の本を手に取り
「ママ、これ、これ、よんで」
とお願いをした。
「え〜ファルエルちゃん『天使社会における大衆意識と貴族体制の変遷』って、こんな難しい本いくらなんでも楽しくないと思うわよ。ママもこんな難しい本読んだことがないもの〜」
「ママ、これ。よんで。これ」
真剣な眼差しでママを見つめると
「わかったわ。ママも頑張って一緒に読むわ。ファルエルちゃんの為ならママも頑張るわ〜」
流石はママだ。俺の為の興味の無い本も読んでくれるらしい。
それから1カ月間ママに『天使社会における大衆意識と貴族体制の変遷』を読んでもらった事で今までの本と合わせて、ほぼ読むだけなら天界の文字を理解できるようになっていた。
そして、それと時期を同じくして俺は1歳の誕生日を迎える事となった。
パパやグランパが少し前からやたらとそわそわして俺に対して、
「ファルエルも、もうすぐ1歳になるんだな。盛大にお祝いしような〜。聖翔の儀もあるからな。僕のファルエルなら、もしかしたら七色が出てもおかしくないな。何しろファルエルだからな〜」
「おおっわしのファルエル。最近は成長が目覚ましいようだな。今は『天使社会における大衆意識と貴族体制の変遷』を読んでもらってるそうじゃないか。そんな1歳聞いた事が無い。前代未聞だぞ。流石はわしのファルエルだ。聖翔の儀でもとんでもない結果が出るに違いない。何しろわしのファルエルだからな〜」
2人共俺への愛情がもの凄い。
悪魔の時はこれ程までに誰かに愛情をむけられた事は無かったので、変な感じだが嫌な気持ちは全くしない。
それにしても2人共『聖翔の儀』と言っていたが一体なんのことだ?
今まで一度も聞いた事が無い言葉だが、2人の言葉からすると1歳となると行うお祝いの儀式のようなものだろうか?
それにしても七色とはどういう意味なんだろうか?まあ急がなくても来月にはわかる事だろうから問題はない。
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