第9話 読書

ママに『天界犬マリーの大冒険』を繰り返し読んでもらってほぼ1カ月がたった。

話の大筋は『天界ネズミの大冒険』と大きくは変わらなかったが、1冊の時よりは明かに2冊目になり語彙数が増えた。

そして再度、知識を得るために本棚の本にアタックしてみた


『天界の・・・・・』


読めない。1カ月前よりも確実に文字が読めるようになっているはずなのに読めない。


「よめにゃい」


「あら〜ファルエルちゃん。また難しい本を読んでいるのね。『天界の歴史と地政学』なんてすごい本を読んでるんでちゅね〜。ママが新しい本を探してきてあげまちゅね」


前回と全く同じ展開になってしまったので、俺はここで動いた。

ママの持っている本『天界の歴史と地政学』と言う本にしがみついて


「これ。これ。これ」


「ファルエルちゃんどうしたの?この本がどうしたの?」


俺はママの方をじっと見つめて


「これ、よみゅ。これ」


と必死に訴えた。子供用の本2冊を読破して気がついた。俺の読みたい本は子供用の本をいくら読んでも読めるようにならない。決定的に文字の難易度が違いすぎて、このまま3冊目の子供用の本を読み聞かせてもらっても、読めるようにはならない。

読めるようになる為には、同じ本棚の本を読破するしかない。


「ファルエルちゃん、これはね〜ファルエルちゃんが読んでも面白いお話じゃないのよ。もっと面白いお話を持ってきてあげるわ」


俺はママの言葉に思いっきり首を振りながら


「だめ。これ。これでちゅ」


「そうか〜。ファルエルちゃんがそんなに言うならわかったわ。もし面白くなかったらいつでも言ってね。すぐに面白い本に替えてあげまちゅからね〜」


やったぞ。ママに俺の気持ちが伝わった。

それからは毎日ママによる『天界の歴史と地政学』の読み聞かせが始まった。

内容はすぐに理解できたが、書いてある文字を理解するのは流石に骨が折れた。

まず書いている文字の難易度と文字数が今までの『大冒険』2冊とは比べものにならなかった。

ペンも紙も与えられていないので聞いて見て覚えるしかないが、一度聞いたり見ただけで文字を憶えられるほどの天才的な能力は無いようで、ママに繰り返し読んでもらった。

初めはママも俺がすぐに飽きるだろうと思っていたようだが、前回の2冊以上の真剣さで聞き入り、本を凝視している様を見てママも辛抱強く俺に付き合ってくれた。

正直ママもこんな本を繰り返し読んで楽しいはずは無いのだが


「ファルエルちゃん、これはね〜この部分が山だから良いんでちゅよ〜」


などと分かりやすく注釈を入れてくれたり


「すごいでちゅね〜。この人は流石でちゅね〜」


などと俺が飽きないように内容に相槌を入れてくれながら繰り返し読んでくれた。


「あなた〜。ファルエルちゃんすごいのよ。今一番興味を持って読んでいるのが『天界の歴史と地政学』なのよ」


「ママ、流石にそれは無いんじゃないか?ファルエルは未だ0歳だぞ。いくらなんでも愛読書が『天界の歴史と地政学』?大人でも殆どそんな天使いないだろ」


「それが本当なのよ。今度読み聞かせの時に一緒に見ていると良いですよ。ファルエルちゃんは本当に真剣に本に見入ってますから。あれは明らかに読もうと努力していますよ」


「そんなバカな。ママ、ファルエルが死ぬほど可愛いのは僕もわかる、わかるが流石に親の贔屓目が過ぎるんじゃないか?」


そんなやりとりが有り、早速次の日にパパも俺の読み聞かせに同席することとなった。

俺にはパパが居ても居なくても、そんな事は大した問題ではないので、いつものようにママの『天界の歴史と地政学』の読み聞かせに集中して没頭した。

途中パパの声が聞こえたような気もする。


「信じられん。これは夢か?夢なのか?0歳児が『天界の歴史と地政学』に向き合っている。間違いなく向き合っている。僕の子供は神か何かの生まれ変わりなのか?これは僕の子供であって僕の子供ではない。天界の宝だ。天界の至宝になるに違いない。おおファルエル〜。愛しのファルエル〜」

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