第6話 2足歩行
つかまり立ちが出来るようになってから早くも1カ月が経過してしまったが、血の滲む様な毎日の努力と訓練により、俺はどうにかこうにか、よちよち歩きが出来るようになった。
気を抜くとすぐに転んでしまいそうになるが、そこは気合で何とか持たせている。
「ファルエルちゃんは本当にすごいでちゅね〜。もう歩けるようになるなんて将来が楽しみね〜」
「おおファルエル。さすがは僕の子だ。将来は天界一の勇者になるに違いない。今から待ちきれない。お〜ファルエル」
またパパがほっぺたをジョリジョリやってくる。こればかりは何度受けても慣れない。
痛い・・・
今はまだ、少ししか歩けないが、もう少し訓練して歩けるようになれば、自由に部屋を出る事が出来るはず。そうなればもっとこの世界の事がわかるようになるはずだ。
俺がこの世界に転生してから会った事があるのは15人程度しかいない。
パパ、ママ。そして家に常駐しているメイド兼ベビーシッターが2名。そしてグランマとグランパがそれぞれ2名。それとたまに来るよくわからない人の2名ぐらいとママに連れられて出た時に見かけた天使ぐらいだ。
なぜか俺はほとんど外に出た事が無い。天界ではこう言うものなのか、それとも俺の家だけが異常に過保護だからなのかはわからない。とにかく情報が何も入って来ないので全くわからない。
情報が無いことには、今の段階では何も出来ないので一刻も早く歩けるようになって部屋の外に出てみたい。
月に数度現れるグランパとグランマだが本人達がそう呼んでいるので俺の中でもそう言う認識が定着しているが、当初はこの呼び方に抵抗があった。魔界にはグランパとやグランマと言った恥ずかしい響きの呼び方は存在しない。名前や敬称で呼ぶ事しかなかった。それがいきなり
「ファルエルや〜。グランパとグランマだぞ〜。ああなんて可愛いんだ。まるで天使のような赤ちゃんだな」
「いえ、あなたファルエルちゃんは天使のような赤ちゃんではなく間違いなく天使ですよ。しかもこの世で一番可愛い天使ちゃんでちゅよ〜」
この調子で初めて会った時から、強烈にスキンシップを取って来るので、抵抗する術の無い俺はされるがままにキスの嵐とグランパのジョリジョリをくらっている。
そしてもう1組のグランパとグランマも俺に会った瞬間に
「おお。なんて可愛いわしのファルエル〜。グランパだぞ〜。ファルエルの顔がわしに瓜二つではないか。これは将来モテモテで困る事確定だな。あ〜ルシエル」
「ファルエルちゃんグランマですよ。グランパには似ても似つかない可愛いさですよ。将来が楽しみですね。天界のアイドルになるのは確定ですね。ああ愛しのファルエル」
こんな感じでやはり猛烈にスキンシップを図ってくる。
最初は、手足をバタバタさせて、わずかばかりに抵抗してみたが
「おお〜なんて元気な赤ちゃんだ。これは将来傑物になるに違いない」
「元気な赤ちゃんですね。手足がすらっとしているので、格好良くなるのは確定ですね。可愛いですね」
と反応されて更にスキンシップが激しくなったので、そこで無駄を悟って身を任せることにした。
暴れても、暴れなくても結果は一緒だった。
ただ不思議なもので数回会っている内に完全に俺の中でグランパとグランマとして認識されてしまった。
しかも名前だけではなく俺の家族であるという不思議な感覚も完全に定着してしまい、4人の強烈なスキンシップも3回目にはそれほど嫌では無くなってしまっていた。
徐々に俺が俺ではなくなってしまっている。
子爵級悪魔としての俺はどこに行ってしまったのだろうか。
以前の天使への憎しみのような感情が、全くと言って良い程無くなってしまった。
むしろこの数カ月で愛情を覚える天使が徐々に増えて来ている。
俺はどうなってしまうのだろうか。
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