子爵級悪魔の俺は勇者に殺されて天使に生まれ変わったけどなぜか魔法が使えない

海翔

第1話 勇者に殺されたら扉が開いた

その日俺は勇者に殺された。


「ブラックバースト」


なにが勇者だこのクソやろう、ふざけやがって絶対殺してやる。突然俺の家に押し入って、死んでくれだと。ふざけるな、なんで俺が死ななきゃいけないんだよ。死ぬならお前が死ね。


「ホーリーレイ」


クソ勇者の攻撃が容赦無く降り注ぐ。ぐっ。強い。さすがは勇者、だがまだまだこれからだ。


「子爵級悪魔 ファルメウス 大人しく消失してしまえ」


ふざけんな、消失したら死んでしまうじゃないか。俺の最大魔法で消し飛べバカ勇者。


「アブソリュートメア」


強烈な黒光と爆音が勇者周辺に発生する。

これでさすがに勇者でも死んだだろ。

黒光が収まって勇者のいた場所を見るとそこにはクソ勇者がダメージを受けながらも、耐え切っていて、明らかにヤバそうな攻撃を準備しているのが見て取れた。

本能が告げる。やばい。


「シャイングランドクロス」


なんだよこれ。俺の武器もろとも叩き斬ってるじゃねーか。ふざけんな、勇者がどれだけのもんなんだよ。

勇者だからって偉いのか?チート?ふざけんな。絶対呪ってやる。傍若無人のこのクソ勇者を呪い殺してやる。そう心に決めた瞬間に視界が暗転した。



「可愛い赤ちゃんね。さすが私たちの子供だわ。天使の中でも間違いなく一番可愛い赤ちゃんね。」


遠くから、なんか懐かしいような声が聞こえてくる。

声も、集中しないと聞き取れない程の音量だが、目を開けようとしても開かない。


「生まれてきてくれてありがとう。今日からあなたの名前はファルエルですよ。私の愛しい光の御子ファルエル」


ファルエル?誰のことだ?まるであの天使達のような名前じゃないか。正直、生理的に受け付けない。天使と悪魔の抗争は過去の大戦の影響もあり表立っては休戦状態にあった。だが奴らは敵だ。間違っても仲良くできるような奴らではない。

目を開けることはできないが、近くに天使共がいるのか?

いるなら今すぐにでも追っ払わなきゃならない。しかし、全く動ける気がしないのは何故だろう?

よく考えてみると、俺は助かったのか?あのクソ勇者の攻撃をもろに食らって叩き斬られたところで、記憶が飛んでいる。

誰かが助けてくれたんだろうか?まあとりあえず生きているのは間違いないようだ。生きてさえいれば、あのクソ勇者への復讐もできるかもしれない。

とにかく今は眠い。一度寝てからまた考えよう、そう思いながら再び意識を失った。


おしっこがしたい。

強烈な尿意に誘われて、意識が覚醒した。

猛烈におしっこがしたい。どうにかしてトイレに行こうと頭では考えているのだが、全く体が動く様子も、目が殆ど見えないので周りを確認することもできない。

限界まで我慢したが、遂にその時を迎え決壊してしまった。

なんとも言えない開放感があるが、子爵級悪魔である、この俺がお漏らしをしてしまった。

もう死ぬしかない。あまりに恥ずかしい。ここ数百年でもこれ程の恥辱を味わったことはない。

お漏らしをしても動くことができない。俺はどうしてしまったんだ。大怪我で全く動けなくなってしまったのだろうか?


「オギャー、オギャー、オギャー」


オギャー?確かに俺が発しているのは間違いないがオギャー?そもそもこの数百年、泣いた事なんかない。それがお漏らししたとはいえオギャー?

一体俺はどうしてしまったんだ?誰かに変な呪いを受けたのか?

あのクソ勇者か。あいつが俺に呪いをかけたのか。流石はクソ勇者、ムカつくやつだが俺は負けたんだな。


「あらあら、ファルエルちゃんどうしたのかしら。あら〜おしっこが出たんでちゅね。ママがオムツを変えてあげますからね。」


また遠くから、あの声が聞こえたと思ったら、俺の股が強制的に開かれ、下着を剥がされてしまった。

あまりの衝撃にパニックになってしまった。


「オギャー、オギャーオギャー、オギャー」


「はいはい。大丈夫でちゅよ。すぐにきれいきれいしてあげまちゅからね」


そう聞こえたと思ったら、大事なところを拭き取られたような感覚がする。

人生でこれほどの恥辱を味わったことはない。どうにかして見えないこの相手を消さなければならない。

そう考えたものの、一切の行動が取れない。動けない、喋れない、スキルが使用できない。そもそも耳はかすかに聞こえるが目が見えない。

見えない相手に下着まで取り替えられてしまった。確かにスッキリはして気持ちがいい。

だが、しかし、これほどの恥辱にまみれながらも、何もできず生き恥を晒している。

クソ勇者の呪いはこれほどまでに過酷で強力なのか。俺が破れたのも納得せざるをえない。

それにしても、あの見えない声の主が俺の事をファルエルと呼んでいた気がするが、きっと気のせいだろう。

あまりの衝撃で混乱して幻聴が聞こえたのかもしれないな。

やばい、また強烈な眠気が襲ってきた。俺は睡魔に抵抗することはできず、そのまま意識を手放したのだった。

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